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160 子供達の為に、託児所作り。

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――王太子sided――


己の功績を優先しすぎて、弱者に目を向けることを後回しにした事は――次期王として認められるものでない。
何とかなるさ。
今すぐじゃなくても。
そんな甘えを、カイルに鈍器で殴られたような衝撃を受けて目が覚めた。
俺は何もかもが足りない。
国を纏めることも、自分に与えられた領をまともに富ませることが出来ないのは、完全に俺の力不足だと感じることがやっとできた。
カイルもそれを痛感したんだろう。
この王太子領はやるべきことが多すぎる。
それを理解しながら、手を差し伸べなくてはならないところを見て見ぬ振りをしたのは同罪だと言っていた。

カイルの言葉で、俺達の目は完全に覚めた。
話し合いは必要だが、ダラダラと家臣の言う言葉を聞いている暇なんて無いんだ。
即効性のある改革が必要だ。
それを、カイルはやってのける。
カイルこそが王太子に向いているんじゃないのか?
そう思ったくらいだ。

そして、カイルに頼まれている事をシッカリと――俺に与えられた箱庭師は全部で10人。
そのうちの一番若くて柔軟性のある奴をカイルの為に使う為、「今後は俺ではなくダンノージュ侯爵家のカイルの為に働くように」と伝えると驚いていたが、カイルの名はナカース王国貴族の間でも有名だ、直ぐに返事をしてくれた。
無論神殿契約も行ってくれることになったので安心だ。
ついで、男女合計20人の子供を世話することが出来る元乳母や、その補助をしていた男性たちを集めて、今後カイルの推し進める【託児所】と言う所で働いて欲しいと頼んだ。
若い世代から少々年のいった年代まで用意したが、彼らは初めて聞く【託児所】と言う言葉に首を傾げている。
どう説明した物かと悩んだとき、謁見の間のドアが開き、カイルと一度だけ見た、美しすぎる女性が現れた。


「遅くなりました」
「カイルか、頼まれていた人員を集めてきておいたぜ」
「助かります。こちらは俺の婚約者、リディアです」
「初めまして、リディアと申します」


真面に見るのは初めてだったが――聖母のような美しい女性だった。
彼女こそがダンノージュ侯爵家が最も大事にしているリディア嬢か……。
商売の才能もある上に、的確に問題を解決していく女神。
――欲しいと思ったが、何もかもが足りない俺が欲しがっても仕方ない事だと諦めた。


「こちらが俺に仕えていたミリーヌ。箱庭師だ」
「初めまして、ミリーヌと申します。今後はカイル様とリディア様に仕えるようにと王太子殿下に言われております。神殿契約もシッカリとやりますので宜しくお願いします」
「初めましてミリーヌ」
「初めましてミリーヌさん、後であなたの箱庭を見せて頂いても宜しいかしら?」
「はい」
「それと、男女合わせて元乳母だったものやその補佐をしていた者たち20人を集めてある。年齢はバラバラだが、皆仕事ができる奴らだ」
「だが、ミリーヌも含め彼らは【託児所】と言うものが分かっていない。教えて貰えたら助かるんだが」


そう、俺だって託児所と聞いてもピンとこない。
リディア嬢が考えた事らしいが、一体どのようなモノなのだろうか。


「では、わたくしの方からご説明させて頂いても宜しいかしら?」
「頼む」
「託児所とは、働いているご家族から幼い子供、0歳から12歳までを預かる為の施設ですわ。働いているご家族が子供を家に置いたままと言うのは、王太子領でもダンノージュ侯爵領であっても、危険が伴いますもの。そこで、いくつかの小さな家を庶民の住む居住地に買い、そこの扉を開ければ託児所へ繋がるようにしたいと思っています。多くの子供達を預かる為に、まず箱庭師が必要でした。また、子供達を見て貰う為、朝から夕方、夕方から朝方まで、子供になれた大人が必要でしたの」
「なるほど、子供を危険から守る為の施設か」
「そうですわね。もう一つは、迎えの来なくなった子供がいたら、わたくしの箱庭で育てていこうと思っていますわ。そうすることで孤児院が此れ以上ひっ迫することも無くなるでしょうし、スラム孤児たちにもその事を話すと、快く了承してくださいました」
「分かった。そう言う事だが皆は分かったか?」


そう伝えると大人たちは頷き、今後は神殿契約を行い、リディアやカイルの為に働くことになった様だ。


「また、長い時間子供達と過ごして貰う大人の皆様には、月給料で金貨1枚。箱庭師さんには金貨2枚を出そうと思っています」
「「「「「そんなに……」」」」
「その代わり、シッカリ働いていただきますわ」


この王太子領でも、月金貨1枚と言うのは破格の値段だ。
一般的な奴らが月に貰える給料は多くて銀貨50枚から80枚と言われている。
貴族に雇われている奴らがそれなんだから、箱庭師なんて給料の多さに目を回しているようだ。


「足りなかったかしら? もっと増やす?」
「いえいえいえ! 頑張らせて頂きます!」
「わたくし共も頑張らせて頂きます!」
「良かったわ。箱庭師の方には託児所の一番偉い……そうね、園長先生をして頂こうと思いますわ。大人の皆さんが集めた情報をわたくしに報告してくださいませ」
「はい!」
「また、託児所では子供の様子にはとても気を遣っていただきます。熱がある子や病気がある子は別室で預からせて頂きますが、急な発熱等の時はミレーヌさんがわたくしの箱庭に来て、薬師を呼んでくださいませ。また親には病状を伝えて薬が買えないと言うのであれば、暫く託児所で預かって頂いて薬師を派遣しますわ」
「分かりました」
「薬師派遣は、朝、昼、夕の三回を考えております。預かっている子供にはお昼寝の時間を用意しますので、お昼寝タイムはシッカリと。その代わり、朝は4歳からその上の年齢の子供には、わたくしの箱庭に来て勉強をして頂きます。時間は短いですので、その時はおとなの……そうね、保育士さんたちは付き添いをお願いしますわね」
「勉強までさせるのか?」
「させますわ。文字の読み書き、簡単な計算まで出来てこそですもの」


笑顔で答えたリディアに、俺は驚きを隠せなかった。
子供を預かるだけならまだしも、勉強まで教えるとは思わなかったからだ。


「子供の食事の時間も、わたくしの箱庭で行います。子供だけではなく、お年を召した方々や違う子供達と接することで刺激があるでしょうし、見守ってくれる大人が多いと言うのは子供に安心感を与えますわ。また、おやつの時間と言うのも予定してますので、ご飯だけではなく、少し甘めのオヤツも食べれますわ。子供も大人も飢えてはなりませんもの」
「では、迎えに来た大人にその後はお子様をお返しすると言う事で宜しいのでしょうか?」
「ええ、でもその前に、お昼寝時間に子供の様子を書いた簡単な手紙を書いてくださると嬉しいわ。親と言うのは子供についていつも悩んでいるものですもの。ノートもこちらで用意しますので、もし大人の方々が悩みを書いていたら、お返事を書いてくださいませ」
「「「「分かりました」」」」」
「そして、悲しい事に迎えが来なくなった子供が居たら、箱庭で育てますので、その時は、その子がどちらの領の子で、親はどうであったかを教えて頂けると助かりますわ」
「「「「「はい」」」」」
「以上ですわ。他に質問がありますかしら?」
「はい、それだけの年齢層を預かるのでしたら、もう少し私たちのような子供を見れる大人が欲しいと思います」
「王太子様、至急人数追加の人数をお願いしますわ。後20人程」
「わ……解った!」


まさか、子供の為にそこまで徹底するとは思わず、俺は直ぐに人を呼ぶと新たな元乳母や、その手伝いをしていた者たちを急ぎ20人雇ってくるように指示を出した。


「はい! 出来れば、私どもも直ぐに箱庭に出勤出来るようにしたいのですが」
「ミレーヌさんは、箱庭に直ぐ入れるブレスレットは作れますかしら」
「はい、作れます」
「では、人数分作って入れるようにして下さいませ。子供の受け入れ時間は朝の7時から10時までにしましょう。その後、安全面を考え、箱庭の外へ繋がる扉は閉めてくださいませ」
「はい」


そこまで言うと、リディア嬢は「そうでしたわ」と口にすると、ミレーヌに向き合った。


「朝から預かっているお子様は、お迎え時間は夕方4時から7時頃と決めてくださいませね。預ける大人の方にもそれはシッカリとお伝えくださいませ」
「はい!」
「夜の仕事をしていらっしゃる方には、夜7時から朝8時までお預かりしますわ。預かる際に子供にご飯を与えてやってきたかも聞いてくださいませ」
「分かりました」
「保育士さんたちも、子供が朝ごはんを食べたかどうかの有無は必ず聞いてくださいませね?」
「「「「わかりました」」」」」
「それでは王太子様、彼らを神殿契約しても?」
「ああ、構わないよ」
「では皆さん、こちらにテーブルを用意して貰っているので記載をお願いします」


そうカイルが言うと、ミレーヌ始めとする皆が移動し、神殿契約を行うと神殿から来てもらっていた神官にそれらを渡し、保管して貰う事になった。


「では、ミレーヌさんの箱庭を見せてくださいませ。どのような箱庭なのか気になりますわ」
「そんな、一般的な箱庭です」
「その箱庭を、今後託児所として使うのに作り替えねばなりませんの。お願いできるかしら」
「はい」
「それと王太子様に一つお願いがありますわ」
「お! 何でも言ってくれ!」
「では、子供達のご飯を作れる調理師を10名ほど雇いたいので、用意しておいてくださいませ。それまではわたくしの達の方で何とかしますわ」
「分かった」
「出来るだけ早めにお願いしますわね」
「う……わかった!」
「では、ミレーヌさんの箱庭に向かいましょう」


そう言うと、リディア嬢を含む皆がミレーヌの箱庭に入った事で、俺は大きな溜息を吐いた。
リディア嬢……俺でも思いつかない改革をドンドン考えては進めていく。
実現できそうにないと思っていた事も、スキル持ち次第でどうにでもなるのだと改めて理解させられた。


「……リディア嬢がまだカイルと出会ってなかったときに知り合いたかったぜ」
「そう嘆くな、俺もそう思ったくらいだからな」
「リディア嬢」
「「格好良かったな」」


見たことも無い程美しいのに、仕事はてきぱきと片付ける姿はカッコイイとしか言えない。
きっとこの気持ちは憧れに近いんだろうな……。
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