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156 箱庭は牢獄? それとも、天国?
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――???side――
昨夜、スラムに住む俺達の家に城からの使いがやってきた。
急に来るからビックリしたが、王太子からの命令で、明日から俺達スラム孤児は、ダンノージュ侯爵家の箱庭で生活することが決まったらしい。
箱庭?
つまりは牢屋だろう?
そう言いたかったが、王太子の命令に背けは俺達の命は無いだろう。
この領から逃げた所で、生きていけない奴らがいるのは分かってる。
だから、助かる為にも、牢屋に入る事を決めた……。
この事を仲間たちに話すと、泣き崩れていた。
どうせスラム育ちだ。牢屋に入れても問題ないと思ったに違いない。
すると、仲間のうちの誰かが、妙な事を言い出した。
「けど兄ちゃん……。ダンノージュ侯爵家の箱庭には、沢山の人たちが保護されてるって聞いたよ?」
「保護だ? 馬鹿な事言うな」
「だって、明日の朝6時から、保護されてる人たちが屋台やるって聞いたんだもん」
「……本当か?」
「うん、道具店サルビアの前だって」
本当に保護されている奴らが? 奴隷みたいに扱き使われているだけだろ?
そう思って早朝、年の近い仲間に様子を見てくると伝えて、俺は一人スラムを出て道具店サルビアが見える位置に陣取った。
どうせ無理やり働かされているんだ……絶対そうに違いない。
そう思って待った。
朝6時の鐘が鳴り、路地からジッと道具店サルビアを見ていると不思議な事が起きた。
閉じたドアがぼんやり光ると、小さな屋台を引いた爺と婆が二組現れた。
美味そうな匂いがする……。腹が鳴りそうなのを堪えて様子を伺った。
「さて、初日じゃ初日! 頑張るぞ!」
「セイロの準備もシッカリ出来てるよ!」
元気な爺と婆の声がすると、匂いにつられたのか、結構な人数の人だかりになった。
それは、本当にあっという間だった。
「サルビアの店主から聞いてたんだよ!」
「肉まん一つくれ!」
「俺は珈琲セットで!」
「出来立てホヤホヤだから熱いからねぇ? 気を付けて食べるんだよ~」
「あちち!」
「熱いけど、うめぇ!!」
匂いと言葉だけで腹がすく。
ジッと様子を伺っていると、人だかりはどんどん増えては流れていった。
扱き使われているであろう爺と婆はずっと笑顔だった。
笑顔で仕事して、笑顔で「仕事頑張ってきな」って言ってやがった。
こんな事ってあり得るのか?
だって奴隷だろう?
そう思いながら見つめていると、屋台の婆と目が合った。
直ぐに身体を引っ込めたが、婆は爺に何かを言うと、手に肉まんとか言う奴と飲み物らしきもんを持って俺に近づいてきた。
「坊や?」
「!」
「さっきからジッと見てただろう? 腹が減ってちゃ余計な事を考えちまうからねぇ。これでも食べて、身体を温めなさいな」
「……金なんて持ってねぇ」
「お金はいらんよぉ? だって、アンタは孤児の子だろう?」
思いもよらぬ言葉に俺はビクッとした。
けど、婆は笑顔を絶やさず俺に肉まんと高級なミルクがタップリ入った容器を渡してきた。
「リディアちゃんから聞いてるよぉ? アンタ達、今日からうちの子になるんじゃね?」
「うちの子って……」
「大丈夫、大丈夫。アンタ達の為の家もこさえた。アンタ達の為に、机も椅子も増やした。沢山沢山、お腹いっぱい食べれるように、保護されてる娘たちはご飯をい――っぱい作ってる。皆、アンタたちを待っとるよ?」
「嘘だ! 奴隷にして扱き使うんだろ!」
「あっはっはっはっは!」
「笑うな!」
「奴隷の為に、真新しい家を建てるかね? 奴隷の為に、美味しいご飯を作るかね?」
「それは――……」
「家族として、アンタ達を受け入れるって皆が決めた事じゃよ。いいかい坊や。今まで辛かったことの方が多かったじゃろう。でも、良い事もこれから増えていく。戸惑う事があってもええ。それが人間じゃからねぇ。だから、アタシたちは待っとるよ?」
「――……」
「美味しいご飯作って、待ってるからね?」
そう言って汚れた頭を撫でて微笑む婆に、俺はムズ痒くて手に持った肉まんって言う奴と、ミルクが沢山入った容器を手に巣へと戻った。
起きていた子供たちは匂いにつられて、ミルクは小さな子供に、肉まんは小さく一口もないくらいに千切って、皆で食べた。
……温かい物を食べるなんて、初めてだった。
「どうだったのリーダー!」
「やっぱり、奴隷みたいに扱き使われてた?」
「……いいや。笑顔で働いてた」
「笑顔で? 嘘だ~!」
「嘘だっていうなら、お前たちが今食べた温かい飯は幻だな」
「「「「……」」」」
「それで? リーダー本当に皆で箱庭って言う牢屋に入りに行くの?」
「ああ、行く。沢山飯を用意して待ってるっていうんだから、行くしかねーだろ」
「それもそうね……。食べていけるならそっちの方が良い」
「ああ……」
ムズ痒さはまだ残ってる。
婆さんの笑顔も、耳に残る言葉も残ってる。
でも、それを仲間に言う事がどうしてもできなかった。
出来なかったけど――……。
「俺達の住む家を作ってくれてるんだってさ」
「「「「本当?」」」」
「婆さんが言うには、皆待ってるんだってさ! くだらねーよ!」
くだらない。
俺達を待ってくれる家族なんていないのに、くだらない!!
くだらないけど……家があるなら帰りたいと思うのは、なんでだろうか……。
「靴、貰えるかな?」
「アタシ、服が欲しい」
「ひとりいっこ、さっきのがたべられう?」
「ミルクおいしかった!」
「熱が出たら、薬貰えるのかな?」
「そこまでして貰えるわけねーじゃん」
「そうだよ、薬なんて高級品だぞ!」
「「「だって……」」」
「うるせーぞ! 兎に角、行ってみりゃわかるだろ。どうせ王太子様には逆らえねぇんだからよ!」
騒ぐガキ共に怒鳴りつけると、一部のガキたちは喜んで、一部のガキたちは不安そうにしている。
そうさ、殺されるよりましだ。
殴られるのも嫌だけど、殺されないだけマシなんだ。
「赤ん坊は?」
「そろそろ腹を空かせて泣く時間。ヤギの乳貰いに行く?」
「いや、もう城の前に集まらないとダメな時間だ。そのまま連れて行く」
「分かった」
「お前たち! そろそろ城の前に移動するぞ! はぐれんなよ!!」
そう言うと、俺達は着の身着のまま歩いた。
道行く大人からは怪訝な目で見られたが知った事か!
全員で42人、集まって城の前までくると王太子らしき人が立っていた。
そして、隣には綺麗な服を着た同じくらいの年の人と――。
「42人、全員だな」
「よし! 俺はこの国の王太子だ! 今からお前たちはダンノージュ侯爵家の持つ箱庭で保護して貰う事が決まっている! 今後は箱庭で生活するが、何かあれば箱庭に住む住人に聞くことを約束するように!」
「返事!」
「「「「「はい」」」」」」
「後はダンノージュ侯爵家のカイルより話がある」
今にも赤ん坊が泣きそうなほど愚図ってるって言うのに、呑気な王太子だなと思っていた所にカイルって奴からの言葉まで待つのかと思ったが――。
「赤ん坊にミルクをやれていないんだろう? 箱庭で母乳の代わりになるミルクを直ぐ用意できるようにしている。挨拶は後だ」
「え」
思わぬ言葉だった。
そして、カイルとか言う奴が手を翳すとぼんやりと……朝見た爺や婆が出てきた時と同じ光を放つ道みたいなのが見えると、カイルってやつは手を入れて中に入れることを確認したみたいだ。
「今から箱庭に42人来てもらう。まずはご飯だな! リーダーは誰だ」
「お、俺だ!」
「光に入ってくれ。リーダーが入ったら皆も続くように。中には案内する人たちがいるからついて行きなさい。そしたらご飯を食べてから話をしよう」
良いのか?
本当に大丈夫か?
そう思った時、ぼんやりと光っている場所から一人の綺麗な女性が出てくると、俺達に手招きしてくれた。
「さ、皆ご飯にしますよ! 中に入ってくださいませ!」
「――皆入るぞ!」
その声を最後に、俺は光の中に飛び込んだ。
次から次に仲間たちが入ってくるのを確認して、全員が入ったところでさっきの綺麗な姉ちゃんとカイルって人が入ってきた。
そして箱庭の中を見て驚いた。
空は高くて。
空気が綺麗で。
見たことも無い風景が広がってて。
驚きを隠せないまま、案内された場所には沢山の料理が並んでた。
我先にと小さいガキどもが走っていったが、背の高いキレイな姉ちゃんが「皆が座ってから食べるんだよ」と言ってくれた。
そして、全員が席に座ると、机にある綺麗な皿とフォークにスプーンに驚いた。
しかも子供用の小さいものまであったんだ。
「さ、食べる時は『いただきます』で、食べ終わったら『ごちそうさま』だよ!」
「「「「「いただきます!!」」」」」
そう言うと、皆一心不乱に食事をした。
温かい。
温かい飯だ!
スープだって食べたことが無いほど美味い、そう思ったところで、赤ん坊たちが泣いていない事に気が付いた。
気になって辺りを見渡すと、母親に近い年齢の女たちが何かの瓶を手にしていて、上手に赤ん坊に何かを飲ませている。
「あら、気になるかしら? あれは母乳に近い飲み物よ。赤ちゃんのご飯なの」
「スゲー勢いで飲んでる……」
「余程お腹が空いていたのね。ここは子供を持つ親も多いから、赤ちゃんのご飯やオムツの事は大丈夫よ」
「アンタ……名前は?」
「わたくしはリディア、この箱庭の箱庭師よ」
そう言って笑顔を見せてくれた綺麗な姉ちゃんに、俺は胸を締め付けられる感じがした。
そう言えば王太子からの手紙に書いてあった気がする。
ダンノージュ侯爵家のカイルの婚約者がリディアで、そのリディアの持つ箱庭で生活するんだって。
「じゃあ、アンタがここのボスか」
「ふふふ、そうかも知れないわね」
「ガキ共を頼む……」
「あなたの事も、大事な家族よ?」
「……そっか」
「ええ、そうよ。まずはお腹いっぱい食べなさい。それから話をしましょう?」
「うん」
そう言うと俺は出ている料理を全種類食べた!
全部美味しくて、でも食べ慣れてない俺達の為に柔らかいご飯が多くて……パンだって食べたことが無い程柔らかくて美味しかった。
俺達の為に用意してくれたミルクだって新鮮だったし、本当に何もかもが美味しくて、夢の中でもこんなに食べたことは無かった!
「兄ちゃん美味しいよ!!」
「こんなに美味しいごはん食べたの、初めてだよ!!」
「本当に全部食べても良いの? あとで怒られない?」
「ははは、怒らないからシッカリ食べるんだぞ?」
「お腹がびっくりしない程度にしなさいな~」
「大丈夫ですよリディア様、食べ過ぎてお腹が痛い子には、お薬用意してきてますから」
「お薬前提なのね」
「ええ、今日は薬師全員がいますから」
まさか、俺達が病気になったら薬までくれるのか!?
思わぬ言葉に顔を向けると、白いお揃いの服に身を包んだ人たちが、薬箱っていうモノを持って立っていた。
なんだよ、牢屋じゃねぇじゃん。
楽園じゃん!!!
そう思ったら涙が止まらなくて。
止まらないけどご飯が美味しくて。
涙は連鎖するように皆に移ったけれど、皆笑顔でご飯を食べた。
お腹いっぱいになって、『ごちそうさま』したら、今度は薬師たちから健康診断を受けた。
栄養状態が悪いのは仕方ないけれど、皆病気をしてない事が分かって安心した。
「さて、今から話をするけど大丈夫か~?」
「「「「「はーい!」」」」」
「じゃあ、皆さんカイルの話とわたくしの話をシッカリ聞いてね?」
「「「「はーい!」」」」
――こうして、俺達は箱庭で暮らすための注意点や、今後の話を聞くことになった。
昨夜、スラムに住む俺達の家に城からの使いがやってきた。
急に来るからビックリしたが、王太子からの命令で、明日から俺達スラム孤児は、ダンノージュ侯爵家の箱庭で生活することが決まったらしい。
箱庭?
つまりは牢屋だろう?
そう言いたかったが、王太子の命令に背けは俺達の命は無いだろう。
この領から逃げた所で、生きていけない奴らがいるのは分かってる。
だから、助かる為にも、牢屋に入る事を決めた……。
この事を仲間たちに話すと、泣き崩れていた。
どうせスラム育ちだ。牢屋に入れても問題ないと思ったに違いない。
すると、仲間のうちの誰かが、妙な事を言い出した。
「けど兄ちゃん……。ダンノージュ侯爵家の箱庭には、沢山の人たちが保護されてるって聞いたよ?」
「保護だ? 馬鹿な事言うな」
「だって、明日の朝6時から、保護されてる人たちが屋台やるって聞いたんだもん」
「……本当か?」
「うん、道具店サルビアの前だって」
本当に保護されている奴らが? 奴隷みたいに扱き使われているだけだろ?
そう思って早朝、年の近い仲間に様子を見てくると伝えて、俺は一人スラムを出て道具店サルビアが見える位置に陣取った。
どうせ無理やり働かされているんだ……絶対そうに違いない。
そう思って待った。
朝6時の鐘が鳴り、路地からジッと道具店サルビアを見ていると不思議な事が起きた。
閉じたドアがぼんやり光ると、小さな屋台を引いた爺と婆が二組現れた。
美味そうな匂いがする……。腹が鳴りそうなのを堪えて様子を伺った。
「さて、初日じゃ初日! 頑張るぞ!」
「セイロの準備もシッカリ出来てるよ!」
元気な爺と婆の声がすると、匂いにつられたのか、結構な人数の人だかりになった。
それは、本当にあっという間だった。
「サルビアの店主から聞いてたんだよ!」
「肉まん一つくれ!」
「俺は珈琲セットで!」
「出来立てホヤホヤだから熱いからねぇ? 気を付けて食べるんだよ~」
「あちち!」
「熱いけど、うめぇ!!」
匂いと言葉だけで腹がすく。
ジッと様子を伺っていると、人だかりはどんどん増えては流れていった。
扱き使われているであろう爺と婆はずっと笑顔だった。
笑顔で仕事して、笑顔で「仕事頑張ってきな」って言ってやがった。
こんな事ってあり得るのか?
だって奴隷だろう?
そう思いながら見つめていると、屋台の婆と目が合った。
直ぐに身体を引っ込めたが、婆は爺に何かを言うと、手に肉まんとか言う奴と飲み物らしきもんを持って俺に近づいてきた。
「坊や?」
「!」
「さっきからジッと見てただろう? 腹が減ってちゃ余計な事を考えちまうからねぇ。これでも食べて、身体を温めなさいな」
「……金なんて持ってねぇ」
「お金はいらんよぉ? だって、アンタは孤児の子だろう?」
思いもよらぬ言葉に俺はビクッとした。
けど、婆は笑顔を絶やさず俺に肉まんと高級なミルクがタップリ入った容器を渡してきた。
「リディアちゃんから聞いてるよぉ? アンタ達、今日からうちの子になるんじゃね?」
「うちの子って……」
「大丈夫、大丈夫。アンタ達の為の家もこさえた。アンタ達の為に、机も椅子も増やした。沢山沢山、お腹いっぱい食べれるように、保護されてる娘たちはご飯をい――っぱい作ってる。皆、アンタたちを待っとるよ?」
「嘘だ! 奴隷にして扱き使うんだろ!」
「あっはっはっはっは!」
「笑うな!」
「奴隷の為に、真新しい家を建てるかね? 奴隷の為に、美味しいご飯を作るかね?」
「それは――……」
「家族として、アンタ達を受け入れるって皆が決めた事じゃよ。いいかい坊や。今まで辛かったことの方が多かったじゃろう。でも、良い事もこれから増えていく。戸惑う事があってもええ。それが人間じゃからねぇ。だから、アタシたちは待っとるよ?」
「――……」
「美味しいご飯作って、待ってるからね?」
そう言って汚れた頭を撫でて微笑む婆に、俺はムズ痒くて手に持った肉まんって言う奴と、ミルクが沢山入った容器を手に巣へと戻った。
起きていた子供たちは匂いにつられて、ミルクは小さな子供に、肉まんは小さく一口もないくらいに千切って、皆で食べた。
……温かい物を食べるなんて、初めてだった。
「どうだったのリーダー!」
「やっぱり、奴隷みたいに扱き使われてた?」
「……いいや。笑顔で働いてた」
「笑顔で? 嘘だ~!」
「嘘だっていうなら、お前たちが今食べた温かい飯は幻だな」
「「「「……」」」」
「それで? リーダー本当に皆で箱庭って言う牢屋に入りに行くの?」
「ああ、行く。沢山飯を用意して待ってるっていうんだから、行くしかねーだろ」
「それもそうね……。食べていけるならそっちの方が良い」
「ああ……」
ムズ痒さはまだ残ってる。
婆さんの笑顔も、耳に残る言葉も残ってる。
でも、それを仲間に言う事がどうしてもできなかった。
出来なかったけど――……。
「俺達の住む家を作ってくれてるんだってさ」
「「「「本当?」」」」
「婆さんが言うには、皆待ってるんだってさ! くだらねーよ!」
くだらない。
俺達を待ってくれる家族なんていないのに、くだらない!!
くだらないけど……家があるなら帰りたいと思うのは、なんでだろうか……。
「靴、貰えるかな?」
「アタシ、服が欲しい」
「ひとりいっこ、さっきのがたべられう?」
「ミルクおいしかった!」
「熱が出たら、薬貰えるのかな?」
「そこまでして貰えるわけねーじゃん」
「そうだよ、薬なんて高級品だぞ!」
「「「だって……」」」
「うるせーぞ! 兎に角、行ってみりゃわかるだろ。どうせ王太子様には逆らえねぇんだからよ!」
騒ぐガキ共に怒鳴りつけると、一部のガキたちは喜んで、一部のガキたちは不安そうにしている。
そうさ、殺されるよりましだ。
殴られるのも嫌だけど、殺されないだけマシなんだ。
「赤ん坊は?」
「そろそろ腹を空かせて泣く時間。ヤギの乳貰いに行く?」
「いや、もう城の前に集まらないとダメな時間だ。そのまま連れて行く」
「分かった」
「お前たち! そろそろ城の前に移動するぞ! はぐれんなよ!!」
そう言うと、俺達は着の身着のまま歩いた。
道行く大人からは怪訝な目で見られたが知った事か!
全員で42人、集まって城の前までくると王太子らしき人が立っていた。
そして、隣には綺麗な服を着た同じくらいの年の人と――。
「42人、全員だな」
「よし! 俺はこの国の王太子だ! 今からお前たちはダンノージュ侯爵家の持つ箱庭で保護して貰う事が決まっている! 今後は箱庭で生活するが、何かあれば箱庭に住む住人に聞くことを約束するように!」
「返事!」
「「「「「はい」」」」」」
「後はダンノージュ侯爵家のカイルより話がある」
今にも赤ん坊が泣きそうなほど愚図ってるって言うのに、呑気な王太子だなと思っていた所にカイルって奴からの言葉まで待つのかと思ったが――。
「赤ん坊にミルクをやれていないんだろう? 箱庭で母乳の代わりになるミルクを直ぐ用意できるようにしている。挨拶は後だ」
「え」
思わぬ言葉だった。
そして、カイルとか言う奴が手を翳すとぼんやりと……朝見た爺や婆が出てきた時と同じ光を放つ道みたいなのが見えると、カイルってやつは手を入れて中に入れることを確認したみたいだ。
「今から箱庭に42人来てもらう。まずはご飯だな! リーダーは誰だ」
「お、俺だ!」
「光に入ってくれ。リーダーが入ったら皆も続くように。中には案内する人たちがいるからついて行きなさい。そしたらご飯を食べてから話をしよう」
良いのか?
本当に大丈夫か?
そう思った時、ぼんやりと光っている場所から一人の綺麗な女性が出てくると、俺達に手招きしてくれた。
「さ、皆ご飯にしますよ! 中に入ってくださいませ!」
「――皆入るぞ!」
その声を最後に、俺は光の中に飛び込んだ。
次から次に仲間たちが入ってくるのを確認して、全員が入ったところでさっきの綺麗な姉ちゃんとカイルって人が入ってきた。
そして箱庭の中を見て驚いた。
空は高くて。
空気が綺麗で。
見たことも無い風景が広がってて。
驚きを隠せないまま、案内された場所には沢山の料理が並んでた。
我先にと小さいガキどもが走っていったが、背の高いキレイな姉ちゃんが「皆が座ってから食べるんだよ」と言ってくれた。
そして、全員が席に座ると、机にある綺麗な皿とフォークにスプーンに驚いた。
しかも子供用の小さいものまであったんだ。
「さ、食べる時は『いただきます』で、食べ終わったら『ごちそうさま』だよ!」
「「「「「いただきます!!」」」」」
そう言うと、皆一心不乱に食事をした。
温かい。
温かい飯だ!
スープだって食べたことが無いほど美味い、そう思ったところで、赤ん坊たちが泣いていない事に気が付いた。
気になって辺りを見渡すと、母親に近い年齢の女たちが何かの瓶を手にしていて、上手に赤ん坊に何かを飲ませている。
「あら、気になるかしら? あれは母乳に近い飲み物よ。赤ちゃんのご飯なの」
「スゲー勢いで飲んでる……」
「余程お腹が空いていたのね。ここは子供を持つ親も多いから、赤ちゃんのご飯やオムツの事は大丈夫よ」
「アンタ……名前は?」
「わたくしはリディア、この箱庭の箱庭師よ」
そう言って笑顔を見せてくれた綺麗な姉ちゃんに、俺は胸を締め付けられる感じがした。
そう言えば王太子からの手紙に書いてあった気がする。
ダンノージュ侯爵家のカイルの婚約者がリディアで、そのリディアの持つ箱庭で生活するんだって。
「じゃあ、アンタがここのボスか」
「ふふふ、そうかも知れないわね」
「ガキ共を頼む……」
「あなたの事も、大事な家族よ?」
「……そっか」
「ええ、そうよ。まずはお腹いっぱい食べなさい。それから話をしましょう?」
「うん」
そう言うと俺は出ている料理を全種類食べた!
全部美味しくて、でも食べ慣れてない俺達の為に柔らかいご飯が多くて……パンだって食べたことが無い程柔らかくて美味しかった。
俺達の為に用意してくれたミルクだって新鮮だったし、本当に何もかもが美味しくて、夢の中でもこんなに食べたことは無かった!
「兄ちゃん美味しいよ!!」
「こんなに美味しいごはん食べたの、初めてだよ!!」
「本当に全部食べても良いの? あとで怒られない?」
「ははは、怒らないからシッカリ食べるんだぞ?」
「お腹がびっくりしない程度にしなさいな~」
「大丈夫ですよリディア様、食べ過ぎてお腹が痛い子には、お薬用意してきてますから」
「お薬前提なのね」
「ええ、今日は薬師全員がいますから」
まさか、俺達が病気になったら薬までくれるのか!?
思わぬ言葉に顔を向けると、白いお揃いの服に身を包んだ人たちが、薬箱っていうモノを持って立っていた。
なんだよ、牢屋じゃねぇじゃん。
楽園じゃん!!!
そう思ったら涙が止まらなくて。
止まらないけどご飯が美味しくて。
涙は連鎖するように皆に移ったけれど、皆笑顔でご飯を食べた。
お腹いっぱいになって、『ごちそうさま』したら、今度は薬師たちから健康診断を受けた。
栄養状態が悪いのは仕方ないけれど、皆病気をしてない事が分かって安心した。
「さて、今から話をするけど大丈夫か~?」
「「「「「はーい!」」」」」
「じゃあ、皆さんカイルの話とわたくしの話をシッカリ聞いてね?」
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――こうして、俺達は箱庭で暮らすための注意点や、今後の話を聞くことになった。
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