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116 王太子への報告と、秘密の会話。

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――カイルside――


「ほ―――ん? 没落貴族たちがそうなってるのか」
「ええ、大変迷惑を受けております」
「よし、斬首刑にすっか!」
「直ぐ首を跳ねようとするな」


朝から王太子に会いに行き、事情を説明するとコレである。
ナジュ王太子の斬首刑好きは、暴君の気があるのか、はたまたそう言う癖なのか扱いに困る。
カリヌさんのツッコミが無ければこの場が持たないだろう。


「でもさー。いい加減俺達も暇じゃないんだし、自分の事を何一つ出来ない奴って要らなくないか?」
「必要ではない人材なんていないさ」
「カリヌのいい子ぶりっこ」
「酷い言い草だな。俺は単純に、使えない奴でも鉱山送りにして死ぬまで働かせてやろうと言う、新しい就職先を斡旋してやろうと言う優しさはあるんだぞ」
「片道切符の一方通行な! 斬首刑とどっちがマシだと思うカイル」
「カリヌさんに一票入れたいと思います」
「えー…まぁ確かに鉱山は何時も人手不足だけどさ」
「慈悲の店、サルビアですら手を焼く奴らだ。一瞬であの世に行くよりジワジワ逝かせた方が優しさと言う物だろう。なぁ? カイル」


前言撤回。
カリヌさんも闇が深い人だった。


「だが、ある程度食いつくような言い回しじゃないと来ないだろう?」
「衣食住の約束は果たします! 元貴族男性募集! 貴方も働いてみませんか! みたいなノリじゃないとな」
「でもそれだと、」
「安心しろカイル、人選はするさ。伊達に属国だった頃の貴族把握はしていない」
「そ、そうですか」
「そうと決まれば、まだギリギリ貴族でいられる奴らもまとめて鉱山に送るか?」
「ザクっと行きたかったなぁ」
「それは罪人にしてくれ。没落しただけで罪人扱いは良くないぞ」


でも、死ぬまでジワジワ雇うんですよね……。
この王太子にこのカリヌさん……。一番トップにしてはいけないような気もしなくはない。
しかしダンノージュ侯爵家としては、一番関わりの出てくる二人でもあるのだから、俺も慣れないといけないんだろうな……。


「纏めて鉱山送りに出来るってのは、ある意味助かるんだよカイル」
「そうなんですか?」
「何せ鉱山と言うのは体力が居る上に、欲しい貴金属が出る確率も運によるからな。いくら掘ってもクズ石しか出ない場合も多い」
「そう言うものなんですね。リディアの採掘場とは随分と違います」
「リディア嬢の採掘場ってどんな感じだ? どんなレアが掘れた?」
「そうですね、俺がアイテム整理する前までは、その辺に転がってたダンジョンコアに一番恐怖しましたね。あとは俺が掘っていた時だと、クリスタルゴーレムの腕がボロッと出てきて恐怖しました」
「「それは……凄いな」」
「他にもドラゴンの首とか」
「リディア嬢の箱庭の採掘場は異次元と繋がっているんじゃないのか?」
「そう言われても納得しますね」
「はぁ……まだ見ぬリディア嬢……美人なんだろうなぁ……。くそうカイルめ……っ」
「ナジュ王太子も是非、好みの女性とご婚約できることをお祈りします」
「嫌味か!? 嫌味だろ!!」
「ナジュ落ち着け。それに俺だってそろそろ良い女性と巡り合いたい」
「お二人の好みの女性は聞いてみても宜しいので?」


そう問いかけると、ナジュ王太子は一言。


「俺は、おっぱいの谷間と、尻の谷間が好きだ」
「凄いマニアックな好みなのは理解しました。ですがそれは好きな部位です。女性です女性」
「俺と同じ趣味の人が良いな。血を見るのが好きとか、斬首刑が趣味とか、出来ればこう……俺を反対に襲ってくれるような女性がいい」
「カリヌさん、これは聞いて良かったんでしょうか?」
「忘れてくれ」


ナジュ王太子の酷い性癖を知ってしまった気がする。
これは誰にも話すことのできない、墓まで持っていくしかない事だろうと理解した。


「カリヌの好みのタイプはどんなタイプなんだよ」
「俺の好みのタイプは、強い女性だな」
「強い女性ですか」
「一撃で相手の急所を貫けるだけの力をもつ女性がいい。邪魔な輩は多いからな」
「それは、本当に好みのタイプなんですか?」
「ふむ……胸も尻も別に小さかろうが大きかろうが関係ないな。出来れば笑顔で殺していくようなサイコパスが良いかもしれない」
「ナジュ王太子、これは聞いて良かったのでしょうか」
「あ――出来れば忘れた方が良いかもしれない」
「そうします」


このナカース王国を担う若者二人の好みが、余りにもマニアックすぎた。
二度と聞かないでおこうと心に誓う。


「そう言うカイルこそ、リディア嬢のどこに惚れたんだ?」
「見た目も美しいって聞いたけど、それだけじゃないんだろう?」
「そうですね……。最近だと、笑顔で無茶ぶりしてくる所でしょうか」
「「と言うと?」」
「死ぬ気で動き回らないといけないような案件を笑顔で『お願いしますね!』と平然と言ってのけてくるあたりがゾクゾクします」
「「カイルはドMだったのか」」
「……そうかも知れません」


否定はできない自分が居る。
だがリディアに無茶なお願いされた上に『できますわよね?』みたいな、当たり前でしょ? みたいなノリで見られると……こう、ムズムズするというか、甘えてくれているのかと勘違いしたくなるというか……後で覚えていろよと思うと言うか……色々複雑だが燃える。


「そうか、リディア嬢はドSだったのか」
「ドMにドSコンビか……。やっぱりカイル羨ましいぞ! アレだろ? リディアちゃんから襲ってくれたりするんだろ? イケメンな襲い方してくれるんだろ!? あ――俺の嫁もそう言う人が良いぞおお……」
「良いんですか? 本当に?」
「なんでだよ、いいじゃん凄く」
「忙しすぎてストレスで禿げるっていうと、禿げても素敵だから良いですよ? って平然と言われますよ」
「「……ハゲはいやだ」」


二人は己の頭を撫でながら口にした。
男性なら誰だって禿げたくはない。
だが、リディアは平然と「禿げても良いだろう?」的に言ってくる為、覚悟が必要だ。


「話は逸れましたが、元貴族と現在死にかけている没落前の貴族男性もまとめて鉱山送りお願いしますね。俺も暇ではないので、矜持ばかりの元貴族男性と没落寸前男性は纏めて早めにお願いします」
「了解した、早めに始末しておくよ。それにカイル達は色々商売する為に進めてるんだってな!」
「おかげで随分と貴族が雇われたと聞いている。ダンノージュ侯爵家にもお礼の手紙を送ったばかりだ。今頃届いている事だろう」
「有難うございます」
「これからも色々と貴族に雇われていた者たちを雇ってくれると聞いている。ダンノージュ侯爵家には頭が上がらないよ」
「無論、カイル達にも感謝している。君たちの働きがあってこその我々だ」
「そう言って頂けると幸いです」
「それと、今回の好みの女性は此処だけの話にしておいてくれよな?」
「そうだな、うっかり口から本音がお互いに出てしまったからな」
「ええ、此処だけの話にしましょう」


こうして王太子たちとの会談も終わり、俺はその足で焼肉店が出来るエリアや少し離れた場所の酒場を走り回ってビールを試してもらい、今後迷惑をかける可能性もある事も伝えたうえで、個数限定で冷やしてからビールを出して欲しい事を伝えると、全ての酒場で許可がおりた。
また、ビール瓶に関しては回収に来る事も伝えると、酒場の主人たちは喜んでくれたのも有難い。

ビールは酒場には各店舗一日200本限定で出す事になり、それなりの収入になりそうだとホクホクしてしまった。

さて、午後はお爺様との久しぶりの面談だ。
色々と寝る前に纏め上げたダンノージュ侯爵領の問題やダンノージュ侯爵領全部に言える問題などを話し合う為にも、早めに箱庭に戻って食事をし、身なりをある程度整えてから会いに行った方が良いだろう。


「しかし……」


王太子とカリヌさん、意外とアレな性癖していたな……。
俺も人の事言えないけれど。
彼らが結婚した暁には、そういう目で思わず見そうになるかもしれないが、頑張って堪えようと決めた昼食前の事――。
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