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106 癒しの箱庭

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急いで居住エリアに入る岩の隙間を見つけたけれど、今までよりも太い道に変わっていたわ。ここもレベルアップしたのね。
居住エリアへと入ると、そこには今までの倍以上の広さになった居住エリアが誕生していた。
集合アパートが更に7つは作れるだけの広さが誕生し、温泉は全部で5つに増え、滝も温泉にあわせて5つに増えていた。
海側に滝と温泉、その隣に身体を涼める休憩所が出来上がっていて驚きの声を上げると、サーシャさんとノマージュさんが走って私たちの許へやってきた。


「一瞬何事かと思ったんですが、箱庭が」
「レベルアップしたんですね! 凄いです! これならもっとアパートも作れますね!」


と、大興奮で語りかけてきた。
確かにこれだともっとアパートも作れるし、老人専用の長屋も沢山作れるだろう。
皆さんと食事をとる所も大きくなり、居住エリアの端っこにあった食事処兼休憩所はさながらレストランくらいの広さになっている。
会議が出来るように別の休憩所も増えていて驚きを隠せない。
それにしても、畑が二つに増えてその大きさはドームの大きさと外の駐車場まで入るくらいの大きさに変わっていたのには驚いた。
わたくし自身が九州から出たことがないから、そっちのドームでの大きさ感覚なのだけれど……とにかく広い。


「わたくしの箱庭……どうなっているのかしら」
「俺にも分からないが……」


人が増えれば大きくなるのではないか? と言う予想は当たったと思う。
けれど増えた人数は乳児を含めて17人と何時もよりは少なかった、にも関わらずだ。
もしかして……『破損部位修復ポーション』を使った回数?
それによって変わるのかしら……。
それでも、現状箱庭のレベルはマックスではないかとも思う。
このままでは一つの村が出来るレベルだわ。
いいえ、既に村ね。
流石に街が出来る程大きくはならない筈……。
呆然とするわたくしとカイルを他所に、住んでいる住人たちは「広くなったー」と当たり前に受け入れている状況が反対に冷静さを取り戻させてくれたわ。


「ええ、箱庭のレベルが上がったようですわ。これ以上は上がらないと思うけれど……箱庭に関しては未知数なの」
「そうなのですね!」
「でも、これだけ広くなったんだったら、もっとアパートを増やせます!」
「もっともっと、苦労に苦労を重ねてきた方々を助けましょう!」
「だって、此処は癒しの箱庭ですもの!」


――癒しの箱庭。
確かに、あのゲーム中、わたくしはログインすると外へ冒険に出かけることもせず、ずっと箱庭にいたわ……。
リアルの仕事に疲れ果てて、癒しを求めて箱庭で過ごしていたのを思い出した。
畑の世話をして、釣り堀や池の手入れをして、伐採所の手入れをして、採掘場で時間が来るまでつるはしで叩いて……一通り終わったら、海辺に座ってボーっと眺めながら癒されていた。
つまり――わたくしの箱庭は『癒しの空間』?
住民が増えるごとに、その住民が癒されるように広がる『癒しの箱庭』なのかしら?


「でも、ジャックさん、マリウスさん、ガストさんもいい加減建築ばかりじゃなくて裁縫もしたいと言ってましたし」
「この際、魔法が使える方を雇います?」
「それだと裁縫師皆で色々出来るから嬉しいわ!」
「それもそうね、魔法が使える建築士も雇いましょうか」
「確かにそうだな、魔法が使えて家を建てられる建築士、ちょっと商業ギルドに行って雇いたい人たちをお願いしてくるよ。ついでに焼肉店用の店舗と工場と倉庫も買いたいしな」
「あら、王太子様はあの属国となった場所はどこが管理するか決められましたの?」
「ああ、あそこは王太子領になるらしい。だから俺達は好きなように今まで通り商売が出来る」
「まぁ! 素晴らしい事ですわ!」
「色々物入りで金がまた少なくなるけど、また稼げばいいしな」
「ええ、皆で稼ぎましょう! そして投資した分だけ利益を出しましょう!」
「「頑張りましょう!」」


こうしてカイルは王太子領の商業ギルドへと走り、わたくしは満員になった3LDKのアパートを今後増やす事、お年寄り用の長屋を増やすことも考え、ジャックさん、マリウスさん、ガストさんの三人を拡声器にしたブレスレットで呼び出すと、今後建築士を雇う為に一応は図面を書いて欲しいと頼みましたわ。
すると――。


「そうね、そうね。今後も増えることを考えると建築士は必要だと思うわ」
「欲しいスキルの人は沢山いるけれど、まず箱庭に欲しいのは建築士よ」
「図面は私たちが一応描いておくけれど、建築士の方々がこうしたい、ああしたいって言ったらそれを受け入れてもらってくださいね」
「ええ、無論ですわ」


そう言うと三人は大きな画用紙に図面を引き始めた。
ジャックさんは3LDKの子持ち専用のアパートを。
マリウスさんは独り身用の2LDK専用アパートを。
ガストさんは今ある長屋を見たうえで、長屋専用スペースを考えて図面を作り始めたわ。


「そう言えば、海辺に教室を作りたいわね」
「ああ、子供達用の」
「青空教室も良いけれど、大人が仕事をしているのを見てるとウズウズしちゃう子供達が多いみたいなのよ」
「働きたいのね」
「でも、数字も文字も覚えておいて損は無いわ」
「作業小屋も移動させたいわね」
「そうね、奥が住む場所、中央が作業小屋、畑に繋がる道の近くにある食事兼休憩場所はそのままとして」
「波の音を聞きながらの日差し除けの南国風の教室」
「「「いいわぁ~」


ズバババババっとノッテきたのか図面を描き上げると、作業小屋、南国風の教室の図面を三人で会話しながら作っていく姿を見て、彼らのような元貴族ならば、心よく迎え入れられそうだと胸を撫でおろした。

人を羨むだけではなく、妬むのではなく、子供達の為に、困っている誰かのために。

そういう心を持った住民の多さと出会いに感謝しながら、わたくしは空を見上げましたわ。
――確かに箱庭師だと言われた時に求めたのは、あの時やっていたゲームの箱庭。
それはわたくしの気付かない場所で、癒しの空間を求めていたのだと気が付いたとき。
わたくしの箱庭は――住んでいる全員の癒しの為の空間なのだと、理解することができた。

一方その頃、カイルは――。


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