上 下
102 / 274

102 あちらの道具屋と道具店サルビアの格の違い。

しおりを挟む
――カイルside――


翌日からは、道具屋と見切りをつけた冒険者が多数押しかけていた。
質の悪い冒険者はあちらに回しておいたので、特に困るようなことは無いだろう。
しかし――朝から凄い人の数だった。

洋服店は箱庭から保護された女性達もヘルプにやってきていたが、既に長蛇の列。
『ひんやり肌着』や『ひんやり糸』を使った洋服を買う為に並んでいるようだ。
布団店には、朝から子供を抱えた母親たちが長蛇の列を作っていた。
こちらはガーゼシリーズを求めて、そしてガーゼシリーズの横に並べた、汗疹対策の乳児用品や幼児用品、他、おもちゃを並べているので、それを求めてだろう。

列の真ん中は開けておいてもらい、冒険者や買い物が終わった客が行き来出来る様にして貰っているが――道具店サルビアも大変な賑わいだった。


「おうおう、このハッカ水ってのを使ったら地下神殿でもサッパリと過ごせたぜ!」
「俺もだ! このハッカ水は俺達冒険者の為の商品に違いない!」
「いえいえ、ハッカ水は子供が体に触れても大丈夫なように作っているんです。虫も寄ってきませんからアッチでは子供にと買って行く主婦の方々も多いんですよ」
「なるほど、ガキにも使える商品ってなると、体に優しいってことか」
「こっちのポーションはあっちの道具屋よりも効果が高いって話だぜ」
「それを言ったら、ちょっとした傷だったらこの傷薬がありゃ治っちまう。スゲー店だぜ」


そうなのだ、冒険者が多すぎて、仕事をしている平民にまで必要なアイテムが回らないのが問題だ。
そこで、傷薬などは洋服店や布団店でも取り扱って貰うようにしたので、きっと夫の為にと買って行く主婦も多くいる事だろう。
無論、洋服店と布団店にもハッカ水はオープニングセールという事で、一本オマケでつけさせて貰っている。説明書も書いてあるので大丈夫だろう。
それに、各店舗には手洗い石鹸や液体石鹸のポスターを貼らせてもらっている。
それらも効果があるようで、石鹸や液体石鹸も飛ぶように売れているようだ。



「ところで、このポスターにあるボディーソープってのは、そんなに身体が綺麗になるのか?」
「シャンプーってのも気になるよな」
「ええ、女性だけではなく男性にも人気の商品ですね。体の体臭も抑えてくれますし、此れを使った男性が女性から『貴方からは良い香りがするわ』と言われたそうですよ」
「「「「へぇ……」」」」
「シャンプーを使うと、より効果的なようで。アチラでは両方身体を洗う際の必須アイテムです」
「ふん! 属国の奴らめ……。俺達だって先にアンタの店がこっちにあればもっと身綺麗にできたんだ」
「すみません、こちらに来るのが遅れてしまいまして。アチラの王国が潰れてからは、何かと忙しい日々を送っていたもので」
「別に店長を責めてるわけじゃねぇよ。ただ、こんな良い店を属国の奴らが独占してたと思うとモヤモヤするっていうかさ」
「そう言って頂けると嬉しいですね。是非、アチラに負けない様に皆様も、もっともっと身綺麗になる事を願っています」
「当たり前だ! こっちはダンノージュ侯爵領で活動している冒険者だぞ!」
「それより店長、俺達全員で周辺の宿屋に直談判したんだ。寝具を変えてくれとな」
「流石に人数で押しかけてやったから、近いうちに宿屋から話がくるだろうよ」
「でないとストライキ俺達が起こすからな!」
「ははは! 有難い事です」


一つずつ、あちらの道具店との癒着が周りの冒険者達によって潰されているようだ。
宿屋は冒険者がいるからこそ成り立っている。
その冒険者に『質の悪い寝具』と罵られて大勢で直談判されれば、否応にも動かねばならないだろう。


「是非、店の奥には商談スペースも置いていますので、お話でしたら早めにお聞きしますとお伝えください」
「そいつはありがてぇ!」
「やっぱあっちの道具屋とこっちのサルビアは店長の器が違うぜ!」
「これからもよろしく頼むぜ!」
「ええ、こちらこそ是非御贔屓に」


笑顔で答えながら商品を捌いていくと、Sランク冒険者の鳥の瞳のメンバーがやってきた。
そうなると他の冒険者も少しだけ静かになる。


「店長、君の店の商品は実に素晴らしいな!」
「有難うございます」
「付与アクセサリーについても全く問題がない。作りも丁寧だが効果も抜群だ」
「そう言って頂けますと、付与師や彫金師たちは喜ぶでしょう」


このダンノージュ侯爵領で驚いたことは、冒険者の儲けがアチラよりも多いのか、皆が付与アクセサリーを買うだけの余裕がある事だ。
皆と言っても、ランクの低い冒険者は中々手が出せるものではないのだが、それでもCランク冒険者からは付与アクセサリーを持っている。


「流石ダンノージュ侯爵家の傘下と言う訳か」
「皆さん働きものですから、丁寧な仕事を徹底されております」
「そうだろうとも。あちらの道具屋で買っていた付与アクセサリーは何時壊れるか分かったものではなかったが、こちらは長持ちしそうだ」
「壊れるとは……身代わりの華のようにですか?」
「身代わりの華などアチラが作ったら、その日の内に壊れるぞ」
「高い金を支払っても、身代わりにならずに散っていくな」
「でしたら、現在身代わりの華を作れるようになった彫金師及び付与師が居ますので、商談次第ではお取り寄せが出来ますが」
「「「「「なんだと!!」」」」」


この一言に鳥の瞳以外の冒険者ですら声を上げた。


「ですが、作るのに時間が掛りますので」
「それはそうだろう」
「出来れば我々男性陣はブローチで欲しいのだが」
「では、ブローチの身代わりの華を作って貰う様頼んでおきましょう」
「実に助かる! もしよければ5つ、用意して欲しい」
「分かりました。鳥の瞳様からのご依頼として承ります。出来上がりましたらお越しの際に奥の商談スペースでお話します」
「頼む。後は難しいだろうが……アイテムボックスをお願いしたい」
「そちらも5つですか?」
「ああ、何せあちらの道具屋で買ったものはすぐに壊れる」
「分かりました。ご用意させて頂きます」


そう言うと鳥の瞳のリーダーであるナインさんは笑顔で店を去ろうとしたが――。


「む、このシャンプーとボディーソープとやらは何かね」
「はい、そちらのポスターにも書いてあるように、」
「なるほど、風呂に入る際に使う身綺麗にするものか。各自一つずつ買って行くように」
「「「「はい」」」」
どうやら統制がとれているようだ。
鳥の瞳のメンバーは石鹸や液体石鹸の他、ボディーソープやシャンプーを買って帰っていった。

そうなると――あやかりたい冒険者達も我先にと商品に手が伸びる。
三回ほど補充に走って貰い、何とか品切れだけは避けることができた。
そして、鳥の瞳のメンバーが頼んだ『身代わりの華のブローチ5つ。アイテムボックス5つ』とメモした紙をライトに手渡し、ライトは箱庭に向かい今から作業に入って貰う事だろう。

そんな慌ただしい中、八百屋や魚屋に肉屋のタイムセールには群れを成して主婦たちが押し寄せてくる時間帯だ。


「そろそろ八百屋と魚屋と肉屋のタイムセールが始まります。冒険者の皆様は主婦と喧嘩なさらぬようお願いします」


と、俺が店内で言うと――。


「よし、そろそろ俺達も帰ろう」
「買えるものは買った!」
「あの主婦の猛獣たちと戦える気はしねーよ……」


と言って、買い物を素早く終わらせた冒険者達は我先にと帰っていく。
此処からは少しだけのんびりできそうだ。
そう思った途端、ガランガランと鐘の音が聞こえ、タイムセールが始まった様だ。
主婦の雄叫びと甲高い悲鳴が木霊すこの時間だけは、冒険者も少ない。
昨日から始めた店ではあるが、タイムセールになるとあっという間に野菜も果物も、そして魚さえも消えていくのだという。
魚に関しては、二回目のタイムセールの時にまた新鮮な魚を並べるらしいが、その二回でも売り切れるらしく、雇った人たちは「商売ってやり方次第なんですね」と感心していたようだ。

また、肉屋ではコロッケが爆発的に売れているようで、夕方前には売り切れるらしい。
量を増やして欲しいという声が既に上がっているらしいが、これ以上は無理だという事で「早い者勝ちだと言っただろう? 俺でもこれ以上は無理だ」と嬉しい悲鳴でお手上げ状態らしい。

商店街に元気が戻ったというより、元気すぎて止められない状態になっているのだが、あちらの道具屋はどうなっているんだろうな。
リディア辺りが調べているだろうから今日にでも聞いてみよう。
そう思いながら一日の仕事を商店街全員が終わらせ、売り上げを教えに来てくれた各店舗及び、あらゆる情報を聞きながらメモしていくと――。


「角打ちに新しい酒が欲しいっていうんだよ。何かないかね」
「リディアが何か酒を作ってましたね。満を持して出したいと言っていたので、焼肉屋が出来る前には出してもらえると思いますよ」
「そりゃええわ。それとホレ、客から聞いた情報だ」
「ノートを取ってくださっていたんですね、有難うございます」
「ああ、日記だといって書かせて貰ってたわ」


そういて笑うバグ爺さんに笑いながらノートを受け取り、朝返しに行くと言うと「一本でいいから酒をくれとリディア様にいっといてくれ」と言われた為、伝えておこうと思う。
そして、皆が帰り、俺も店を閉めようとしたその時だった――。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

処理中です...