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64 戦いのあとの、穏やかなひと時(下)
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――カイルside――
「そして、陛下へ無事に三つのダンジョンを鎮静化する大役を終わらせた事をご報告し」
「まさか生きて帰ってくるとは思わなかったと言われ」
「陛下から報酬は全額出せないが、Sランク冒険者への昇格と、困ったことがあった際に、なんでも一つだけ願いを叶えてくれると言う約束を神殿契約でして貰ったよ」
「朝の露と雪の園、一つずつね」
「口約束じゃないだけまだマシ……ですかね」
思わず全員が遠い目をしたのは、言うまでもない。
この国は他国よりも小さい国だ。
それなのにダンジョンが三つもあるのだから何とか成り立っている節はある。
それにしても国王は、元から本当に皆さんが死ぬのを前提にした報酬を提案していた事を考えると、信用問題になるのではないだろうか?
これが他国との事だったら、もっと悲惨な事になるだろう。
「根掘り葉掘り聞かれそうになったから、それとなく話をしておいたから問題ないだろうが、それにしても……折角遊んで暮らせると思っていたのに、なぁ?」
「レイスの言う通りだな。折角遊んで暮らせるだけの金が入ってくると思ったのに」
「それだけ命を懸けて国を守ってくださった方に対して、少々人の命を軽くみすぎた国のように感じられますね」
「この国は貴族社会だからな。貴族以外の命なんてものは安いんだよ。貴族と言う立場であれば、他国の貴族にもヘコヘコするのがこの国の貴族や王族ってものだ」
どうやらこの国は、貴族社会ではあるものの、他国には強く出られない小国のような物だと理解出来た。
それでもダンジョンが三つもあるからこそ、冒険者がいるからこそ成り立っているのに、その冒険者の命を軽く見るのはやはり問題があるんだろう。
「カイルは余りこの国の事について知らないようだが、他国から来たのかな?」
「両親は隣国の出身で、生まれも育ちもこの国の近くにある村ですよ」
「だったら尚更この国の内容は分からないだろうな」
「案外カイル君は他国の貴族の御子息かも知れないぞ?」
「あはははは……」
イルノさん結構際どい所をついてくるな。
気を引き締めなくては。
そう思った矢先の事だった。
「私はカイルが貴族であっても、彼が彼らしくいてくれるのであれば良いと思っているよ」
「へぇ。貴族嫌いのレイスにそこまで言わせるとは……カイル君は中々人たらしだね」
「そんなことはありませんよ。魔付きに落とされて自分の身体を身売りしようとしたこともありましたから」
「それは……セシルとかいう小僧の所為かい?」
「ええ、ですがそのお陰で愛する女性と知り合う事が出来たと思えば、安いものです」
「カイル」
「そのカイル君の彼女にも是非お礼を伝えて欲しい。引きこもりの彼女なんだろう? きっと会う事は難しいだろうからせめてお礼をな。……本当に君たちの作ってくれたアイテムのお陰で五体満足で助かることが出来た事に、心から感謝する!」
「そして、心からの尊敬を」
「イルノさん……レイスさん」
「君に言われた言葉で私たち皆が救われた。生きていて良いのだと。帰ってきていいのだと。ただいまと言って良いのだと分かった時、皆で泣きじゃくったものだよ」
そう言って微笑むレイスさんに俺も微笑み返すと、ナナノとハスノがお菓子を食べながら俺の服を引っ張った。
どうしたのかと顔を向けると――。
「また作って欲しい物がある」
「身代わりの華……散っちゃったから」
「分かりました。この前と同じものでよろしいですか?」
「アレがいい」
「三人お揃いにしてくれると、もっと嬉しい」
「では、レイスさんの分もですね」
そう言うと二人は嬉しそうに微笑み、年相応の可愛らしさを見せてくれた。
「それじゃあ」と口にすると、俺は朝の露のメンバーにも目を向ける。
「生きて帰ってきてくださったお祝いに、朝の露の皆さんにも『身代わりの華』をご用意しましょうか」
「いいのか……?」
「作るのがとても大変だと聞いたことがある」
「本当に、宜しいのですか?」
「はい! 勿論です!」
寧ろ、意気揚々と作るリディアが想像できる。
一緒に喜びながら、素晴らしい作品を作ってくれるだろう。
「しかし、ロストテクノロジー持ちなのに、よく国の管轄から逃げられたものだな」
「実は彼女は少々訳アリでして。元は貴族なんですが持っているスキルが故に、成人してから直ぐ平民に落とされたんです。ロストテクノロジーを開花させたことを告げずに」
「なるほど、英断だ」
「もしやその彼女の持っているスキルとは……箱庭師かい?」
「ええ……その通りです」
「そりゃぁ……この国では生き辛いだろうな。かと言って貴族の娘であった者が、一人で国を出ることはとてもじゃないが難しい。出るまでに男に襲われるか、無理やり娼館にぶちこまれるか……。なんにせよ、その彼女と言うのは素晴らしい英断をしたうえで、箱庭に籠っているのは良い事だ」
「はい、俺もそう思います」
そう、この国では女性が一人で国を出ることは到底無理だと言われている。
仮令国を出る為の門まで来たとしても、門を守る騎士団の慰みものになるのが関の山だ。
だからリディアが箱庭でジッと耐えていたのは、英断だったんだ。
彼女が言う通り、『盾』となる信頼できる男性が居なければ、外へ出る事など夢のまた夢だっただろう。
だからこそ、不遇な扱いを受けてもこの国に残る女性は多い。
どの道を選んでも地獄が待っているのなら、せめてまともな体で居られる方法を取る。
此処はそんな国だ。
「さて、三つのダンジョンの鎮静化もした事だし、建国記念日には間に合ったな。これで他国から大勢の貴族が訪れるだろう」
「近しい所だと、隣国のナカース王国からか? あそこに行けばカイルの彼女も伸び伸びと過ごせるかもしれないな」
「と言うと?」
「ナカース王国では、箱庭師は【金を産む大いなるスキル】と呼ばれていて、とても重宝されるんだ。その上ロストテクノロジー持ちとなると、身の安全は完全に保証されるだろう」
「かといって、国と契約させるという真似もしない。個人が好きなように伸ばしたい方向で進む自由の国ともいえる」
「へぇ……」
「カイル」
「はい」
「君の持つスキル、炎の咆哮を探している人物がいるのも、ナカース王国の貴族だよ」
思わぬ情報に手が止まると、レイスさんは笑顔で、そして嬉しそうに微笑んだ。
「最高の貴族と名高い貴族のお孫さんが君とライトくんだ」
「え……っ」
「ダンノージュ侯爵。それが君のお爺様のお家柄だよ。厳しい人ではあるが、この貴族嫌いの私でも尊敬している程の人物だ」
「おいおい! ダンノージュ侯爵家の孫かよお前!! いえ、貴方様は!!」
「いえ、本当に知らなかったんです。ですが本当に祖父が探しているんでしょうか?」
「探していらっしゃるよ。もう23年も前からね」
その言葉に、俺が産まれた時からずっと探している事を知り、胸が熱くなった。
父に祖父の事を聞いたことがある。
とても厳しい人だったが、人間のデカさを感じる人だったと。一生勝てないと思ったと笑顔で答えていた。
母にも聞いたことがあるが、母の両親は余りいい人ではなかったらしく、「クズってあんな人を言うのねって常々思っていたわ」と言っていた為、二度と聞くことは無かった。
「そう……ですか。では今度の建国記念日には来られるんですね」
「ああ、ダンジョン問題が片付けば直ぐにでもと連絡があったそうだ。明日には通達が行くだろうから、もう直ぐ来られるだろう」
「ですが、俺は貴族の礼儀などはあまり詳しくはありません」
「そこは追々。あの方のことだ、悪いようにはしないさ」
そう言って語るレイスさんの言葉に嘘はない。
ならば、時が来たら覚悟を持って対面するのが一番失礼にならないだろう。
「分かりました」
「それでいい。そしてカイルは、そのままでいいんだよ」
そう言うと時間が時間だと言う事で、雪の園と朝の露の皆さんはお帰りになり、俺も箱庭へと戻った。
すると――。
「カイル! 貴方……ダンノージュ侯爵家のお孫様でしたの!?」
「俺も初めて知ったが、リディアは知っているのか?」
「知ってるも何も、昔、養女に来ないかと言われたことがありましたわ」
「は?」
「わたくし、箱庭師でしょう? ですから……」
どうやら、色々と面倒くさい事になりそうな気がする。
だが、面倒くさいながらも、もしかしたら俺とリディアはもう一歩進めるかもしれない。
――期待しよう、うん!
雪の園と朝の露の皆さんが無事だった事だって思いきり叫んで喜びたい。
明日の朝一番に箱庭に来て、海に向かって叫ぼうと誓った、そんな日だった。
「そして、陛下へ無事に三つのダンジョンを鎮静化する大役を終わらせた事をご報告し」
「まさか生きて帰ってくるとは思わなかったと言われ」
「陛下から報酬は全額出せないが、Sランク冒険者への昇格と、困ったことがあった際に、なんでも一つだけ願いを叶えてくれると言う約束を神殿契約でして貰ったよ」
「朝の露と雪の園、一つずつね」
「口約束じゃないだけまだマシ……ですかね」
思わず全員が遠い目をしたのは、言うまでもない。
この国は他国よりも小さい国だ。
それなのにダンジョンが三つもあるのだから何とか成り立っている節はある。
それにしても国王は、元から本当に皆さんが死ぬのを前提にした報酬を提案していた事を考えると、信用問題になるのではないだろうか?
これが他国との事だったら、もっと悲惨な事になるだろう。
「根掘り葉掘り聞かれそうになったから、それとなく話をしておいたから問題ないだろうが、それにしても……折角遊んで暮らせると思っていたのに、なぁ?」
「レイスの言う通りだな。折角遊んで暮らせるだけの金が入ってくると思ったのに」
「それだけ命を懸けて国を守ってくださった方に対して、少々人の命を軽くみすぎた国のように感じられますね」
「この国は貴族社会だからな。貴族以外の命なんてものは安いんだよ。貴族と言う立場であれば、他国の貴族にもヘコヘコするのがこの国の貴族や王族ってものだ」
どうやらこの国は、貴族社会ではあるものの、他国には強く出られない小国のような物だと理解出来た。
それでもダンジョンが三つもあるからこそ、冒険者がいるからこそ成り立っているのに、その冒険者の命を軽く見るのはやはり問題があるんだろう。
「カイルは余りこの国の事について知らないようだが、他国から来たのかな?」
「両親は隣国の出身で、生まれも育ちもこの国の近くにある村ですよ」
「だったら尚更この国の内容は分からないだろうな」
「案外カイル君は他国の貴族の御子息かも知れないぞ?」
「あはははは……」
イルノさん結構際どい所をついてくるな。
気を引き締めなくては。
そう思った矢先の事だった。
「私はカイルが貴族であっても、彼が彼らしくいてくれるのであれば良いと思っているよ」
「へぇ。貴族嫌いのレイスにそこまで言わせるとは……カイル君は中々人たらしだね」
「そんなことはありませんよ。魔付きに落とされて自分の身体を身売りしようとしたこともありましたから」
「それは……セシルとかいう小僧の所為かい?」
「ええ、ですがそのお陰で愛する女性と知り合う事が出来たと思えば、安いものです」
「カイル」
「そのカイル君の彼女にも是非お礼を伝えて欲しい。引きこもりの彼女なんだろう? きっと会う事は難しいだろうからせめてお礼をな。……本当に君たちの作ってくれたアイテムのお陰で五体満足で助かることが出来た事に、心から感謝する!」
「そして、心からの尊敬を」
「イルノさん……レイスさん」
「君に言われた言葉で私たち皆が救われた。生きていて良いのだと。帰ってきていいのだと。ただいまと言って良いのだと分かった時、皆で泣きじゃくったものだよ」
そう言って微笑むレイスさんに俺も微笑み返すと、ナナノとハスノがお菓子を食べながら俺の服を引っ張った。
どうしたのかと顔を向けると――。
「また作って欲しい物がある」
「身代わりの華……散っちゃったから」
「分かりました。この前と同じものでよろしいですか?」
「アレがいい」
「三人お揃いにしてくれると、もっと嬉しい」
「では、レイスさんの分もですね」
そう言うと二人は嬉しそうに微笑み、年相応の可愛らしさを見せてくれた。
「それじゃあ」と口にすると、俺は朝の露のメンバーにも目を向ける。
「生きて帰ってきてくださったお祝いに、朝の露の皆さんにも『身代わりの華』をご用意しましょうか」
「いいのか……?」
「作るのがとても大変だと聞いたことがある」
「本当に、宜しいのですか?」
「はい! 勿論です!」
寧ろ、意気揚々と作るリディアが想像できる。
一緒に喜びながら、素晴らしい作品を作ってくれるだろう。
「しかし、ロストテクノロジー持ちなのに、よく国の管轄から逃げられたものだな」
「実は彼女は少々訳アリでして。元は貴族なんですが持っているスキルが故に、成人してから直ぐ平民に落とされたんです。ロストテクノロジーを開花させたことを告げずに」
「なるほど、英断だ」
「もしやその彼女の持っているスキルとは……箱庭師かい?」
「ええ……その通りです」
「そりゃぁ……この国では生き辛いだろうな。かと言って貴族の娘であった者が、一人で国を出ることはとてもじゃないが難しい。出るまでに男に襲われるか、無理やり娼館にぶちこまれるか……。なんにせよ、その彼女と言うのは素晴らしい英断をしたうえで、箱庭に籠っているのは良い事だ」
「はい、俺もそう思います」
そう、この国では女性が一人で国を出ることは到底無理だと言われている。
仮令国を出る為の門まで来たとしても、門を守る騎士団の慰みものになるのが関の山だ。
だからリディアが箱庭でジッと耐えていたのは、英断だったんだ。
彼女が言う通り、『盾』となる信頼できる男性が居なければ、外へ出る事など夢のまた夢だっただろう。
だからこそ、不遇な扱いを受けてもこの国に残る女性は多い。
どの道を選んでも地獄が待っているのなら、せめてまともな体で居られる方法を取る。
此処はそんな国だ。
「さて、三つのダンジョンの鎮静化もした事だし、建国記念日には間に合ったな。これで他国から大勢の貴族が訪れるだろう」
「近しい所だと、隣国のナカース王国からか? あそこに行けばカイルの彼女も伸び伸びと過ごせるかもしれないな」
「と言うと?」
「ナカース王国では、箱庭師は【金を産む大いなるスキル】と呼ばれていて、とても重宝されるんだ。その上ロストテクノロジー持ちとなると、身の安全は完全に保証されるだろう」
「かといって、国と契約させるという真似もしない。個人が好きなように伸ばしたい方向で進む自由の国ともいえる」
「へぇ……」
「カイル」
「はい」
「君の持つスキル、炎の咆哮を探している人物がいるのも、ナカース王国の貴族だよ」
思わぬ情報に手が止まると、レイスさんは笑顔で、そして嬉しそうに微笑んだ。
「最高の貴族と名高い貴族のお孫さんが君とライトくんだ」
「え……っ」
「ダンノージュ侯爵。それが君のお爺様のお家柄だよ。厳しい人ではあるが、この貴族嫌いの私でも尊敬している程の人物だ」
「おいおい! ダンノージュ侯爵家の孫かよお前!! いえ、貴方様は!!」
「いえ、本当に知らなかったんです。ですが本当に祖父が探しているんでしょうか?」
「探していらっしゃるよ。もう23年も前からね」
その言葉に、俺が産まれた時からずっと探している事を知り、胸が熱くなった。
父に祖父の事を聞いたことがある。
とても厳しい人だったが、人間のデカさを感じる人だったと。一生勝てないと思ったと笑顔で答えていた。
母にも聞いたことがあるが、母の両親は余りいい人ではなかったらしく、「クズってあんな人を言うのねって常々思っていたわ」と言っていた為、二度と聞くことは無かった。
「そう……ですか。では今度の建国記念日には来られるんですね」
「ああ、ダンジョン問題が片付けば直ぐにでもと連絡があったそうだ。明日には通達が行くだろうから、もう直ぐ来られるだろう」
「ですが、俺は貴族の礼儀などはあまり詳しくはありません」
「そこは追々。あの方のことだ、悪いようにはしないさ」
そう言って語るレイスさんの言葉に嘘はない。
ならば、時が来たら覚悟を持って対面するのが一番失礼にならないだろう。
「分かりました」
「それでいい。そしてカイルは、そのままでいいんだよ」
そう言うと時間が時間だと言う事で、雪の園と朝の露の皆さんはお帰りになり、俺も箱庭へと戻った。
すると――。
「カイル! 貴方……ダンノージュ侯爵家のお孫様でしたの!?」
「俺も初めて知ったが、リディアは知っているのか?」
「知ってるも何も、昔、養女に来ないかと言われたことがありましたわ」
「は?」
「わたくし、箱庭師でしょう? ですから……」
どうやら、色々と面倒くさい事になりそうな気がする。
だが、面倒くさいながらも、もしかしたら俺とリディアはもう一歩進めるかもしれない。
――期待しよう、うん!
雪の園と朝の露の皆さんが無事だった事だって思いきり叫んで喜びたい。
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