【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段

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49 カイルとリディアの失恋問題とすれ違いの新たな一歩。

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久しぶりの王都は、帰り支度をしている方や冒険帰りの冒険者が沢山いらっしゃって、お店の近くではカイルが良く声を掛けられていましたわ。


「ようサルビアの旦那! 隣の可愛い子は妹か?」
「ははは! 可愛いだろう? 余りにも可愛くって店にも出してないんだ」
「そんだけ可愛けりゃ妹目当ての客だらけになっちまうわな!」
「あ! アレか! その子がアイテム作ってくれてるんだろ!」
「妹ちゃん! ハッカ水本当にありがとうな!」
「アイテムも一割から三割も安くしてほしいって頼んだのも妹ちゃんだっけか! 本当に優しい妹ちゃんだぜ!!」
「あ……ありがとうございます!」


冒険者の方々からお礼を言われ、妹と呼ばれたことに少しだけショックを受けつつも、きっとわたくしを守る為だろうと思い、皆さんに頭を下げてお礼を伝えていく。
すると――。


「お嬢ちゃんがサルビア店主の妹ちゃん? それもアイテム制作の担当なのかしら?」
「はい、アイテム制作はわたくしの仕事です」
「孫が毎年この時期になると汗疹で困ってたんだけど、サルビアのアイテムを使い始めてから痒がったりしないわ。本当にありがとうね」
「うちの子のオムツかぶれもよ! 沢山お友達に紹介したわ!」
「ハッカ水のお陰で虫に刺されないのも素晴らしいわ!」
「刺されても痒み止め作ってくれたでしょう?」
「子供の事を思い合ってくれる商品を売ってくれる道具屋ってあんまりないから、本当に助かってるのよ」
「ありがとうね」


――沢山のありがとうが降り注ぐ。
隣で手を繋いで経っているカイルを見ると、嬉しそうに微笑んでいて……わたくしが根詰めてアイテム制作をしていたから気晴らしに連れて行ってくれてるのかと思ったけれど、少し違うような気がするわ。


「妹は誰かを思いやる気持ちが強い子なんです。きっとこれからもそうでしょうね」
「本当にいい御兄弟ね」
「ライトくんも優しい子ですしね」
「本当に何時もありがとう」


何度も何度も。
公爵家にいる頃は、存在自体がイラナイ者扱いで。
庶民に落とされてからは、外に出ることも無く、人と関わる事も殆どなく。
カイルが、カイルや皆がいたからこそ、わたくしはわたくしを保てていたのに。
こんなにも周囲の人に感謝されるなんて、思いもしなくて。

二人、王国の端にある海岸沿いのベンチに座ると、カイルがわたくしの頭を撫でながら口を開いた。


「リディアが作ったアイテムが、皆をこんなにも助けてくれてるんだって、頑張ってるリディアに見て欲しかったんだ」
「カイル……」
「でも俺は……出来ればリディアを外に出したくない気持ちが強かった」
「え?」
「リディアは可愛いからな。店の中が男だらけのむさ苦しい空間になるのが嫌だった」
「まぁ!」


もっと甘い言葉を期待したのに、カイルから出てきた言葉に目を見開きつつも、少しだけムッとしましたわ。
でも他所の道具屋を見る限り、道具屋って大抵むさ苦しいイメージがありましたけれど、サルビアは女性が多いネイルサロンが二階にありますから、多少は華やかですわよね。


「そう言うカイルだって、綺麗な女性が沢山いらっしゃるお店を持てて良かったですわね!」
「綺麗な女性は一人だけだよ」
「まぁ、特別な女性が既に!」
「ああ」


なんてこと!!
わたくしが気づかぬうちに、既に心に決めた女性がいらっしゃるのね!
何方かしら……。従業員の皆さんの中にいらっしゃるのか……はたまたお店のお客様なのか。
これは少々、由々しき事態かも知れませんわ!


「ただ、その特別な女性は、少々複雑な環境で育ってきたようだからな。人と関わる事が苦手らしい」
「そう……でしたの」
「スキルも関係しているんだろう。人に言えないスキルを持つ事は生きることが難しい」
「そう……ですわね」
「けれど、それに負けず頑張ってる姿を見ると、たまらなく愛しくなる」
「………」
「まぁ、相手は俺の事を好きだとか言う感情はなさそうだから、期待薄かな」


カイル……そんな大事な事をわたくしに話してくれるなんて……。


「失恋は……辛いですわね」
「いや、まだ失恋したわけじゃ」
「失恋ですわ! 新たな恋に生きるべきよ!」
「だから失恋してないって」
「カイルは良い男ですもの! 必ず次がありましてよ!!」
「だから………ああ、うん、お前はそう言う奴だよな」


何かしら? 凄い呆れた表情を為さってますわ。
折角慰めてあげてますのに、何かしら、小馬鹿にされてる気がしますわ。


「じゃあ次は、もう少しガンガン相手にいけるように、臆病にならずに行っても大丈夫だと思うか?」
「恋はがっしりと相手を掴んでおくものだと思いますわ! そう、監禁してでも!」
「監禁か……自分から閉じこもってる人の場合はどうするんだろうな」
「それは難しい人ですわね。意味がちょっと分かりづらいですけれど」
「じゃあリディアは自分が監禁されても良いと思うタイプか?」
「伊達に引き籠りじゃありませんもの。監禁されても多分気がつきませんわ」
「あ、うん、そうだな」
「でも恋……。監禁して閉じ込めて自分しか見えなくさせるような恋愛って、重いけど憧れますわよね」
「リディアはそっち系だったのか。良かった、相性が良さそうだ」
「?」
「よし、帰ろうか」
「そうですわね?」


なんだかモヤっとしますけれど、カイルの次の恋愛はもっとガンガンいくんでしょうね。
わたくしはちょこっとだけ、失恋した気分ですけれど……まぁ、それは仕方ありませんわ。
初恋は実らないと申しますものね。潔く諦めましてよ。
それに、カイルの恋愛様子を観察するのも、引き籠りとしてはアリなのかもしれませんわ。
こう……ストーカー的に観察するのも面白そう……なんて、思ってしまいますわ。


「次のスタートは、もっとガンガンせめていく事にするよ」
「応援してますわ!」
「リディアが重い男でも大丈夫な奴で良かったよ!」
「観察してますから頑張ってくださいませね!」
「期待しててくれ」
「はい!」


カイルの熱烈な恋模様を観察しますわ!
もうストーカー気味に!
そして、どの女性が好きな人なのか、ハッキリと見せて頂きましてよ!!


「今日はいいこと尽くしの一日だったと言う事にしましょう! カイルも新たなスタートを切れました事ですし!」
「そうだな、此れからは遠慮なく行かせてもらおう」
「応援してますわ!」
「ああ、覚悟して貰おう」


そう言うと、カイルはわたくしを抱き寄せたまま箱庭に戻りましたけれど、きっと監禁する相手とのやり方を試していらっしゃいますのね。
それに、箱庭だったら見られたとしてもロキシーお姉ちゃんとライトさんだけ。
仮令《たとえ》失敗しても、まだギリギリセーフでしょう。
新たなる恋の応援に、練習相手として身を差し出しますわ!
勘違いだけはしない様に心がけねばなりませんわね!!

さぁ、明日からはカイルの恋模様も観察しながら……また忙しい引き籠り生活になりそうですわね。
頑張りましょう!


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