上 下
24 / 274

24 【道具店サルビア】での騒動(下)

しおりを挟む
――カイルside――

恐怖からなのか、厳罰になるからなのか……先ほどの集団は滝のように汗をかきながら止まっている。
俺は溜息を吐くと、冒険者ギルドマスターの補佐官であるアラクネさんに、笑顔で対応した。


「すみませんアラクネさん、少々お聞きしたいことが」
「なんでしょうか」
「そちらの冒険者ギルドでは、欲しいアイテムがある際、集団で押しかけて強奪することが許可されているのでしょうか? 先ほどこの集団がやってきて強奪すると言われたのですが」
「それはそれは」
「お話をお伺いせねばなりませんね」


一気に店の気温が下がったのが分かった。
アラクネさんはギルドマスターと同じチームで活動していた元Sランク冒険者の一人。
更に雪の園の面子に、雪の園の面子に連れられてきた冒険者達の姿があった。


「これはこれは、素行の悪さで有名なDランクにCランク、Eランク冒険者も集まって店に強盗しにきたんですか?」
「いや、これは……」
「こいつらが付与アイテムを俺たちに渡さないから……」
「アイテムを渡さないとは? 無論、お金は支払ったんでしょうね? ええ、一括払いで」
「それは……」
「このお店の付与アイテムは一括払い。それはこの店に来ている客ならば知っていることでは?」
「俺は聞いてねぇぞ!!」
「それでもアイテムは欲しい、だから暴力で奪おうとしたという訳ですね」
「そりゃ……その……」
「今ここにいる面子の方々の顔は覚えましたよ。一度冒険者ギルドに来て頂いて、皆さんのランクを罰として下げねばならないようですね。Eランクはもちろん、冒険者としての地位を剥奪です」
「「「そんなっ!」」」
「カイルさん、これ以上の罰をお求めになりますか?」
「はい、この店に入る事を禁じます」
「分かりました。入るとランクが落ちる仕組みにしておきましょう」
「お願いします」
「と、言う訳で、雪の園のメンバーと、朝の露のメンバーの皆さんは、この強奪事件を起こしそうになった冒険者達を、即、ギルドマスターの許へ一緒に届けてください」


まさか巻き込まれるとは思っていなかったのか、雪の園の面子と朝の露と呼ばれた面子は驚きつつも、溜息を吐いて「了解」言いつつ縄を取り出し全員を捕縛。
暴れればそれだけ不利になる事を理解しているのか、皆が静かに捕まって連行されていった。


「そう言う訳ですので、銀鉱石50個はまた明日にでも取りに来ますね」
「申し訳ありません」
「いえいえ、私達が居る時に騒ぎを起こした彼らが悪いんですから仕方ありません。シッカリと処分させて頂きます」


アラクネさんは笑顔で深々と頭を下げると、彼らを率いて冒険者ギルドへと帰っていった。


◆◆◆


「と、言う事があってな。最後は大変だった」
「まぁ……お二人に怪我が無くて良かったですわ」
「ガラの悪い冒険者ってあんな感じなんだなって勉強になりました。これからは直ぐに憲兵を呼べるようにしますね!」
「そうですわね……でも女性従業員も増えますし、レベルの高い元冒険者を一人くらい雇ってもいい気がしますわ」
「レベルの高い元冒険者か……」
「そのような方、いらっしゃいませんわよね……」
「一人だけ、いるには、いる」


そう、一人だけ有名な元冒険者が居る。
だが、彼女が話を聞いてくれるかどうかは別だ。


「元Sランク冒険者の、紅蓮の華……ロキシーなら酒場で飲んだくれているのは知ってる」
「まぁ! でも何故飲んだくれてますの?」
「失恋したらしい」
「「失恋」」
「紅蓮の華の魔法使いに振られたとかで、冒険者もやめて抜けた」
「失恋は」
「辛いですわね」
「後、彼女は用心深い。こちらの事を箱庭師であることも含めて話さないとダメだろうな」


頭の痛い問題だ。
だが、ロキシーは強い。
今では、飲んだくれロキシーと呼ばれているが、彼女は武術も強く腕っぷしは信頼できる。


「暇を見て俺が声を掛けてみる。どうなるかは分からないが……」
「それなら私も行きます。どのような方かは一緒に働く私もみたいですし」
「それなら今から行くか? 何時もの酒場に居ると思うから、了承を得られれば店に彼女を連れてくる。その時、ライトはリディアを店に連れて来てくれ」
「分かりました」
「夜戦ですわね! 胸が高鳴りますわ!」


こうして、俺とライトはロキシーが何時もいる酒場近くの路地に降り立つと、人通りも疎らな道を歩き酒場へと入っていった。
すると、酒場の隅に酒を飲みながら虚ろな目でどこかを見ているロキシーの姿があった。
『夜戦ですわね!』と言ったリディアの言葉通り、夜戦になりそうだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

うどん五段
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...