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23 【道具店サルビア】での騒動(上)

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――カイル視点――


今日は付与アイテムが入荷する日として、雪の園を含める冒険者達の間ではちょっとした話題になっているのは知っていた。
レジ横にある、殴っても割れないガラスで出来たショーケースに、朝からせっせとライトが付与アイテムを並べ、32個の付与アクセサリーが並んでいる。
その一つずつにリボンがされており、どんな付与がされているのか記載されている。
内、二つだけ、二種の付与がされたアクセサリーは、お値段はやはり高かった。
偶然作ったのか分からないが、【体力徐々に回復+速さアップ】【MP徐々に回復+魔力アップ】の二つは冒険者にとって喉から手が出るほど欲しいアイテムだろう。
付与が一つのモノに関しては、銀貨20枚と言う値段がついた。
他の店と殆ど変わらない値段ではあるが、問題はこの二つだ。
普通、二つの付与がついたアクセサリーは銀貨60枚からが相場だ。
それをライトは、銀貨59枚と言う少しだけ安く出したのだ。


「それだと即売れするぞ?」
「良いんですよ即売れで」
「なんでだ?」
「店に置いてあるというだけで、閉店後狙ってくる客は多いですからね」


つまり、店を守る為に他の店舗より安くして売り、安全を買ったという訳らしい。
とは言え、銀貨59枚というのは中堅冒険者の一か月の収入とあまり変わりはない。
貯めている冒険者ならば、中堅辺りからは買うだろう。
今日は忙しくなりそうだと思いながら店をオープンさせるために鍵を開けた途端、扉が開いてやってきたのは雪の園のレイスだった。
その他二人、どうやら双子の女の子らしいが一緒に付いて来ている。


「お早い御着きで」
「人が増える前に取引を終わらせておこうかと思ってね」
「分かりました。奥の商談スペースへどうぞ。それと付与アイテムが入ってますよ」
「先に付与アイテムを見せてもらおう」


三人は急ぎ付与アイテムエリアへと向かうと、ジックリと付与されているアクセサリーを見ているようだ。
ネックレス、ブレスレットと言った付与アクセサリーには、シッカリと宝石も使われている為、前回安く出したものと違い値段が高い。
付与アイテムは宝石や魔物の素材が使ってあるだけで、威力が上がるのだ。


「シッカリとした付与がされている」
「表通りの付与師のアイテムよりずっといい」
「使われている鉱石も銀じゃなくてプラチナ……これは良い品です」


三人はウットリとした表情で付与アイテムを見つめ、同時に目玉商品の2つ付与アイテムに目が行ったようだ。


「「まるで私達二人の為にある付与アクセサリー」」


双子はスクッと背筋を伸ばすと「「店員」」と呼びつけた。


「私はこっちの体力徐々に回復+速さアップを」
「私はこっちのMP徐々に回復+魔力アップを」
「お買い上げですか? 付与アイテムは一括払いとなっておりますが」
「「構わない」」


対応したライトは驚きつつも二つを取り出し、彼女たちは銀貨59枚を並べた。
開店早々、いきなり目玉商品が売れた事に驚きを隠せないが、俺とライトで銀貨を数えて確かに59枚あるのを確認すると、ライトと二人、彼女たちにネックレスになっていた付与アイテムをつけた。


「自分たちの稼いだ金で買うなんて凄いじゃないか!」
「ボッタクリ付与アイテムは腐る程見てきた」
「ここの付与アイテムは確実」
「二人が言うのなら確かなのだろうな。カイルくん、例の品を」
「こちらへどうぞ」


そう言うと俺はアイテムボックスを三つ机に置き、三人は目を輝かせてアイテムボックスを手に取った。
中を確認したり外を確認したりと忙しそうにしていたが、フ――ッと息を吐くと目を輝かせて「「良い品物です」」と双子は口にする。


「なめらかで繊細な付与の仕方」
「それでいて強度もバッチリ」
「「ここの付与師は凄い」」
「有難うございます。今度伝えておきます」
「出来れば欲しいものがある」
「付与師に伝えて」
「「可愛い髪留めの付与アイテムが欲しいと」」
「分かりました、伝えておきます。付与は何が宜しいのでしょうか?」
「「お守りがいい。出来ればだけれど」」
「分かりました、伝えておきます」
「すまないね、この二人は付与アイテムコレクターでもあるんだ。だから色々詳しくてね」


そう言ってレイスは苦笑いしつつ双子の頭を撫で、彼女たちに一つずつアイテムボックスを手渡すと即装備していた。
そして、これからも道具店サルビアを贔屓にしてくれるとの事で、困ったことがあったら相談して欲しいと言われた為、ありがたく言葉を受け取る事にした。
雪の園のメンバーが帰ると同時に、オバサマ方や冒険者達がワラワラと店に訪れ、各々欲しいものを買っていく。
まぁ、冒険者の一部は付与アイテムエリアから動こうとしなかったり、分割払いで支払いたいという申し出に対しては「付与師との信用問題になるのでご遠慮願いします」と答えることが何度もあった。

それでも、お金を貯めていたであろう冒険者の中には、数名一括払いで付与アイテムを購入する者もいて、大きな歓声が巻き起こっていた。
どうしても諦めきれない冒険者達も居たが、お金を貯めて買って下さいねとやんわり伝えると渋々帰っていった。

そこまでは平和だった。
アイテムも順調に売れ、オバサマ方も夕暮れ時には帰られるだろう頃合いに、群れを成してやってきた奴らさえ来なければ、いつも通りの閉店になっていただろう。
乱暴にドアが開いたかと思えば、渋々帰っていった冒険者とガラの悪そうな冒険者達。
何事かと思いライトを庇って前に出ると、厳つい冒険者が口を開く。


「此処にある付与アイテム全部貰おうか」
「支払いは一括払いとなっておりますが」
「一括払いだ? 寄こせって言ってんだよ全部な!」
「奪おうという事ですか?」
「おうともよ! 俺達冒険者が使ってナンボの商品だろうが!


ソイヤソイヤと言わんばかりに叫ぶ冒険者達に、俺は眉を寄せた。
どうみてもEランクやDランク、Cランク冒険者のようだ。
彼らの様な冒険者では付与アイテムは手に入れることは難しい。


「申し訳ありませんが、こちらも付与師との信用問題になりますので」
「そっちの事情なんかしったことか!」
「よこせ!」
「出せ!!」
「金は無いがアイテムが欲しいなんて、強奪と同じです。憲兵を呼ばせてもらいます」
「冒険者が憲兵怖がってたんじゃ情けなくて涙がでらぁな!」


ソイヤソイヤ!
と盛り上がる冒険者達、どうにかして近くの駐屯所まで行ければと思ったその時だった。


「良かった! まだお店開いてる!」
「このお店だよな? ナナノちゃん、ハスノちゃん。なんだかお取込み中みたいだけど?」
「「うん。丁度良かった。欲しい付与アイテムまだあったから」」
「おやおや、この連中は何だね?」
「雪の園の皆さん!」
「アラクネさん!」


ライトと俺の声に冒険者達は静まり返った――。

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