上 下
1 / 1

近未来の新型ウイルス感染症の治療法

しおりを挟む
「すごいぞ、これは」 
「肺炎が、時間ごとに回復している」
 と、中村博士は、CT画像を見ながら、驚いた顔をして市山博士と助手の大津君に言った。
 サンエイ科学研究所の市山博士と、助手の大津君は、国際ウイルス科学研究所に来ていた。
 2050年、国際ウイルス科学研究所で、市山博士が開発した免疫増強装置を用いて、新型ウイルスに感染させ肺炎を発症させた実験用のサルの免疫を増強し、その経過を見るための24時間に渡ってのCT画像を中村博士は、見て、肺炎が回復していく様子がはっきりと示されていたのを確認したのである。
 サンエイ科学研究所の市山博士と助手の大津君は、5年ほど前から、免疫システムの脳の役割について、研究していた。
 市山博士は、脳には、過去から現在までに存在したウイルスのタンパク質構造を記憶するウイルスタンパク質構造記憶部位と、それらのタンパク質を攻撃し、分解するための抗体を形成する指令を出す抗体形成指令部位と、ウイルスが身体に侵入したことを感知するウイルス感知部位を備え、身体の細胞表面には、ウイルスに接触したときに感知するセンサー機能を備え、そのセンサーからの信号を神経を通して脳のウイルス感知部位に伝達し、その脳のウイルス感知部位で感知したウイルスを、ウイルスタンパク質構造記憶部位によって、特定し、抗体形成指令部位が指令を出し、抗体を身体で形成するのではないかと考えていた。
 その考えを実証するために、市山博士は、助手の大津君といっしょに、国際ウイルス科学研究所の研究室で、多数の近赤外光入力端子と近赤外光出力端子を取り付けたヘルメットを実験用のサルの頭部にかぶせ、あるウイルスを投与したときの近赤外光出力信号を、コンピュータで解析する実験を行っていたのである。
「大津君、見たまえ。」
「ウイルスを投与した瞬間に、脳の第102部位からの近赤外光信号が急激に増加しているのが分かるだろ」
と、市山博士は、コンピュータの画面を見ながら、助手の大津君に言った。
第102部位というのは、この実験をするにあたり、脳の各部位をマッピングして、部位ごとに番号を付けたものである。
「今度は、第103部位からの近赤外光信号が、増加しているぞ」
「第104部位からの近赤外光信号も、増加し始めたぞ」
と、市山博士は、大津君に言った。
それとともに、サルの全身を覆ったウイルス検知装置からの信号が徐々に減少していくのが、コンピュータ画面に映し出された。
サルに投与されたウイルス数が減少していっているのである。
「第102部位は、ウイルス感知部位に対応し、第103部位が、ウイルスタンパク質構造記憶部位に対応し、第104部位が、抗体形成指令部位に対応していると考えられますね」
と、助手の大津君は、市山博士に言った。
「そのようだな」
と、市山博士は、うなづきながら、大津君に言った。
「私は、こう考えているんだ」
「未知の新型ウイルスが発生したとき、その未知の新型ウイルスのタンパク質構造を解析し、そのタンパク質構造のデータを、近赤外光信号を用いて、第103部位のウイルスタンパク質構造記憶部位に記憶させる」
「それにより、新型ウイルスに感染したサルは、身体の細胞表面のセンサーからの信号を神経を通して脳の第102部位のウイルス感知部位に伝達し、その脳のウイルス感知部位で感知したウイルスを、新たに新型ウイルスのタンパク質構造データを記憶させた第103部位のウイルスタンパク質構造記憶部位によって、特定でき、第104部位の抗体形成指令部位が指令を出し、抗体を身体で形成する」
「そのとき、近赤外光信号を用いて、第104部位の抗体形成指令部位に、抗体形成速度を速め、抗体を身体で形成する速度を速めることができるようにするんだ」
「そうすることによって、免疫増強ができると考えるんだ」
この考えに従って、市山博士と助手の大津君によって、免疫増強装置の開発を行い、2050年に完成し、国際ウイルス科学研究所の中村博士と共に、新型ウイルスに感染させた実験用サルに、免疫増強装置を用いて、実験を行っていたのである。
実験は、成功した。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと
SF
 えいえいおう、えいえいおうと声をあげながら、私たちは竹槍を突く訓練をつづけています。  約2メートルほどの長さの竹槍をひたすら前へ振り出していると、握力と腕力がなくなってきます。とてもつらい。  訓練後、私たちは山腹に掘ったトンネル内で休憩します。 「竹槍で米軍相手になにができるというのでしょうか」と私が弱音を吐くと、かぐやさんに叱られました。 「みきさん、大和撫子たる者、けっしてあきらめてはなりません。なにがなんでも日本を守り抜くという強い意志を持って戦い抜くのです。私はアメリカの兵士のひとりと相討ちしてみせる所存です」  かぐやさんの目は彼女のことばどおり強い意志であふれていました……。  日米戦争の偽史SF短編です。全4話。

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

ファイナルアンサー、Mrガリレオ?

ちみあくた
SF
 1582年4月、ピサ大学の学生としてミサに参加している若きガリレオ・ガリレイは、挑戦的に議論をふっかけてくるサグレドという奇妙な学生と出会った。  魔法に似た不思議な力で、いきなりピサの聖堂から連れ出されるガリレオ。  16世紀の科学レベルをはるかに超えるサグレドの知識に圧倒されつつ、時代も場所も特定できない奇妙な空間を旅する羽目に追い込まれるのだが……  最後まで傍観してはいられなかった。  サグレドの望みは、極めて深刻なある「質問」を、後に科学の父と呼ばれるガリレオへ投げかける事にあったのだ。

【一話完結】一分で読めるショートショート集

tentenpoo
SF
全話一話完結型でショートショートをあげてます。毎日投稿できるように頑張るのでよろしくお願いします。

【完結】最弱テイマーの最強テイム~スライム1匹でどうしろと!?~

成実ミナルるみな
SF
 四鹿(よつしか)跡永賀(あとえか)には、古家(ふるや)実夏(みか)という初恋の人がいた。出会いは幼稚園時代である。家が近所なのもあり、会ってから仲良くなるのにそう時間はかからなかった。実夏の家庭環境は劣悪を極めており、それでも彼女は文句の一つもなく理不尽な両親を尊敬していたが、ある日、実夏の両親は娘には何も言わずに蒸発してしまう。取り残され、茫然自失となっている実夏をどうにかしようと、跡永賀は自分の家へ連れて行くのだった。  それからというもの、跡永賀は実夏と共同生活を送ることになり、彼女は大切な家族の一員となった。  時は流れ、跡永賀と実夏は高校生になっていた。高校生活が始まってすぐの頃、跡永賀には赤山(あかやま)あかりという彼女ができる。  あかりを実夏に紹介した跡永賀は愕然とした。実夏の対応は冷淡で、あろうことかあかりに『跡永賀と別れて』とまで言う始末。祝福はしないまでも、受け入れてくれるとばかり考えていた跡永賀は驚くしか術がなかった。  後に理由を尋ねると、実夏は幼稚園児の頃にした結婚の約束がまだ有効だと思っていたという。当時の彼女の夢である〝すてきなおよめさん〟。それが同級生に両親に捨てられたことを理由に無理だといわれ、それに泣いた彼女を慰めるべく、何の非もない彼女を救うべく、跡永賀は自分が実夏を〝すてきなおよめさん〟にすると約束したのだ。しかし家族になったのを機に、初恋の情は家族愛に染まり、取って代わった。そしていつからか、家族となった少女に恋慕することさえよからぬことと考えていた。  跡永賀がそういった事情を話しても、実夏は諦めなかった。また、あかりも実夏からなんと言われようと、跡永賀と別れようとはしなかった。  そんなとき、跡永賀のもとにあるゲームの情報が入ってきて……!?

第3惑星レポート

野洲たか
SF
「きみを見込んで、協力してもらいたいことがあるのです。こういう話をするのも変だと分かっているのですが、わたしたちには時間が残されていないものですから」はじめて失恋した夜、映画館で運命的に出逢った人気女優の円塔美音さんは、おおいぬ座のα星からやってきたシベリアンハスキーだった。作家志望の青年・秋田真瑠斗くんは、美しい女優が暮らすクラッシックホテルに招かれ、人類の存在意義を証明するために『第3惑星レポート』という題名の小説を執筆することなる。過去も未来も星座も超える恋人たちの楽しい同居生活を描く、とても風変わりなSF小説。

処理中です...