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イベントがあるときに細い坂道に設置する入場制限ゲート

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 「大津くん、大変な事故ね、このソウルの事故」
 と友子は、テレビを見ながら、大津君に言った。
 「そうだね、大変な事故だよね」 
と大津君は言った。
 2022年10月29日にソウルの繁華街・イテウォンで150人以上が亡くなる事故についてのニュースをテレビで放送していた。
細い坂道で多くの人が折り重なって倒れ、大きな混乱に陥った事故である。
まだ、被害の全体像も明らかになっていないという。  
 友子は、いっしょにテレビを見ている大津君に言った。
友子は、続けて、
「大津くん、何かいいもの考えてよ」
と、大津君の顔を見ながら、真剣な声で言った。
「うん、そうだね」
と、大津君は、言った。
 友子は、大津君が週3回行っている大学の研究室の1年先輩で、おとなしくまじめな大津君が気に入っていて、ときどき、大津君を自分のマンションにさそって、コーヒーをいっしょに飲んでいた。
 その日も、友子のマンションで、2人で、コーヒーを飲みながらテレビを見ていたのである。
 次の日、大津君は、助手として働いているサンエイ科学研究所の自分の席で、パソコンに向かって書類を書いていた。
 この日は、コーヒータイムになっても、大津君は、コーヒーを飲みに来なかったので、所長の市山博士は、大津君の席に行って、パソコンの画面をのぞきこみ、
「なんか、おもしろいことを考えついたのですか」
と市山博士は、ニヤニヤしながら、大津君に言った。
「そうなんです。実は、昨日、先輩とテレビのニュースでソウルの雑踏事故を見ていて、考えてたんですが、ちょっといい方法を思いつき、今のうち、書類に書いているんです」
と大津君は、市山博士の方に向き直って、言った。
「それは重要ですね」
と市山博士は、真剣な顔をして大津君を見て言った。
「そうなんです」
「ソウルの雑踏事故は、細い坂道に何人もの人が一度に入り込んだために起こったと思います。東京でも渋谷には、細い坂道がありますからね、雑踏事故が起こらないように何か考えないといけないと思いまして」
「そこで考えたんですが、入場を制限するゲートを設けたらどうかと」
「イベントがあるときなどに、細い坂道の入り口に、入場する人数をカウントするセンサーと退場する人数をカウントするセンサーを設け、その坂道に入場している人数が所定の人数になったら、入場ができなくなるようなゲートを設置するのです」
「それによって、細い坂道に何人もの人が一度に入り込めないようにするのです」
と、大津君は、市山博士に説明した。
「それは、いいアイデアだね」
と市山博士は、大津君に真剣な顔で言った。
 市山博士は、大津君に、言った。
「大津君、じゃ、続けてその「イベントがあるときに細い坂道に入場制限ゲートを設置する必要性」という提言書を書いてください」
「そして、知り合いの議員さんに提言して、議案にしてもらいましょう」
「さっ、続けてください」
と市山博士は、言い、
「はい、分かりました」
と大津君は、言い、自分の席でそのまま、パソコンに向かって、書類の続きの作成を始めた。
 こうして、サンエイ科学研究所のコーヒータイムは、終わりました。


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