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人間社会における秩序無秩序転移

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「大津くーん、最近、なんか変な事件が多いわね」 
「なんか、社会が乱れているような感じよね」 
と友子は、テレビを見ながら、大津君に言った。 
「そうだね。なんか変だよね」 
と、大津君も、テレビを見ながら、友子に言った。 
 2060年、変な感染症が流行し、人との距離を2m以上離れ、それより近づいたらいけないというソーシャルディスタンスというものが奨励されるようになった。
 それから、これまでになかった変な事件が頻繁に起こるようになった。
 「大津くーん、この社会なんとかならないの」
 と友子は、コーヒーを飲みながら、大津君に言った。
 友子は、続けて、
「大津くーん、何かいい方法、考えてよ」
と、大津君の顔を見ながら、甘えた声で言った。
「うん、そうだね」
と、大津君は、言った。
 友子は、大津君が週3回行っている大学の研究室の1年先輩で、おとなしくまじめな大津君が気に入っていて、ときどき、大津君を自分のマンションにさそって、コーヒーをいっしょに飲んでいた。
 その日も、友子のマンションで、2人で、コーヒーを飲んでいたのである。
 次の日、サンエイ科学研究所で市山博士と助手の大津君は、コーヒーを飲みながら、最近の社会の乱れ方についての話をした。
「所長、しかし、最近の社会の乱れ方は普通じゃないですよね」
と大津君は、市山博士にコーヒーカップを手にして言った。
市山博士は、
「そうですね、異常ですよね、これまでになかった事件が頻繁に起こってますからね」
と、やはり、コーヒーカップを手にして、大津君に言った。
「大津君」
と市山博士は、突然真面目な顔になり、言った。
「実は、ぼくは、最近考えているんだが」
「大津君、秩序無秩序転移は知っているよね」
と市山博士は、大津君に得意げに言った。
「はい、聞いたことあります、所長」
と大津君は、市山博士に、興味深そうに言った。
市山博士は、
「ここからは、ぼくの考えだが」
と言った。
市山博士は、続けて大津君に話した。
「秩序無秩序転移とは、物質が、物質を構成する粒子同士の相互作用がお互いに影響し合えるようなとき、ある規則正しい並び方であるような秩序を持つ状態になっているのだが、その温度が上がり、その粒子間の相互作用より熱の影響が大きくなると、物質の粒子の並びが乱れ、無秩序な状態になるということだが」
「すなわち、粒子間の相互作用が及ばなくなると無秩序になるということです」
「人間社会も、人の持つぬくもりや、においや、ふれあいなどが人間同士で及ぼすことができる距離、すなわち相互作用することができる距離に近づけるときは社会は秩序状態にあり、変な事件は起こらないのだと考えるんだ」
「しかし、人と人との距離を2m以上離れ、ソーシャルディスタンスを守るということになると、人の持つぬくもりや、においや、ふれあいなどが人間同士で及ぼすことができる距離、すなわち相互作用することができる距離より遠くなるので、社会は無秩序状態になり、社会が乱れ、変な事件が起こるのだと考えるんだ」
「人間社会も、そういうことなんだと思う」
「それで、この社会は、秩序無秩序転移が起きてしまったのではないかと思う」
と市山博士は、説明した。
「今の社会は、無秩序状態なのですね」
と大津君は、市山博士に驚いた顔で言った。
市山博士は、続けて、大津君に言った。
「それで、ぼくは、考えたんだ」
「ソーシャルディスタンスを保ったまま人同士の相互作用を取り戻す装置を考えたんだ」
「その装置は、自分の体温、ぬくもりや、におい、はだざわりを、2mほど離れた相手にも感じさせることができる手で持つマジックハンドなんだ」
「名付けて、エキスパンドハンド」
「お互いにそれを手に持ち、そのエキスパンドハンドで握手すると、お互いの体温、ぬくもりや、におい、はだざわりが、2mほど離れた相手にも感じさせることができるんだ」
と市山博士は、大津君に言った。
「それは、すごいですね」
「この社会を再び秩序状態に戻すことができるのですね」
 大津君は、市山博士に感心した顔で言った。
 市山博士は、大津君に、言った。
「大津君、仕事だ」
「このエキスパンドハンドの特許明細書を書いてください」
「そして、特許出願するんだ」
「さっ、はじめよう」
と市山博士は、言い、
「はい、分かりました」
と大津君は、言い、自分の席に戻り、パソコンに向かって、書類の作成を始めた。
 こうして、サンエイ科学研究所のコーヒータイムは、終わりました。

 
 


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