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第1章 狼男が鳴く夜に
第20話 モノノ怪の世界のルール
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「……じゃあ、その人を襲うとか、そういうつもりは別になかったんですね?」
「ああ」
ウチの問いに、赤城さんが小さく頷く。良かった……この人悪い人……悪いモノノ怪?やなかったんや……。
白川さんを振り返ると、白川さんはまだ難しい顔をしていた。……もしかして、赤城さんが嘘を吐いてると思ってるんかな……?
「……お前、その日の前日辺りに体調を崩してなかったか」
そう思ってると。白川さんが、静かに口を開いた。
「あ、ああ。何故それを?」
「個人差はあるが、体調が悪いと人型を保てなくなる事がある。恐らく今回は体調不良と、惚れた女を前にした感情の乱れが合わさっちまったんだろうさ」
「そんな事あるんや……」
感心して、ウチは白川さんをジッと見る。こういうとこ、本当に刑事みたい。いや刑事なんだけど!
「……だが、これで解っただろ」
けれど。白川さんは厳しい表情を崩さなかった。
「白川さん?」
「お前の人間の姿は、そんな程度の事で簡単に解けちまう程度のものだ。……いつまでも、この都会で、正体を隠しながら生きていけると思うか?」
「……」
白川さんの言葉に、赤城さんは重々しく俯いてしまう。辺りはいつの間にか、沈痛な空気に包まれていた。
え……。赤城さんに悪意はなかったんだから、それで話は終わりとちゃうの……?
「……解っている」
やがて、赤城さんが重い口を開ける。
「どんなに望んでも、彼女の側にいつまでもいる事は出来ないと……俺だって、解っているんだ……」
「なら、お前のするべき事は解るな?」
「……ああ」
「ち、ちょっと待って下さい!」
沈んだ様子の赤城さんに黙ってられず、ウチは声を張り上げた。
だって……赤城さんは、ただ好きな人の側にいたかっただけで……。それなのに、ここから離れなきゃいけないなんて……!
「別に誰かを襲おうとして変身した訳やないって、ちゃんと解ったやないですか! 何でここを離れる必要があるんですか!?」
「危害を加える意思があったかは、この際重要じゃねえんだよ」
けれど、白川さんは。非情さすら感じさせる声で、そう言った。
「狼男の件が、これだけ噂になった事。そしていつまた、ソイツが狼男の姿を晒すか解らん事。今一番重要なのは、そっちだ」
「何でですか!」
「……円。俺達ユーレイ課にはモノノ怪の犯罪を取り締まる他にもう一つ、重要な役割がある」
「役割?」
「モノノ怪の存在を一般人に知られないようにする役割だ」
息を飲む。ここまで言われたら、いくらモノノ怪の事情に詳しくないウチでも白川さんの言いたい事が解った。解ってしまった。
つまり――今のままだといつ、赤城さんが本物の狼男と知れてしまうか解らない。白川さんはそう言っているのだ。
「コイツ自身、自分が危うい立場にいるのは解ってるはずだ。だからユーレイ課の名を聞いて逃げだそうとしたり、人質を取って抵抗しようとしたりした。違うか?」
「……その通りだ。今では馬鹿な事をしたと思ってる」
白川さんの指摘を、赤城さんはアッサリ認めた。そして優しげで、同時に悲しげな眼差しを向ける。
「ありがとう。だがもういいんだ、女刑事さん。俺が禁忌を犯しかけてるのは事実。どこか遠い町で、また一からやり直すさ」
「でも!」
「どっちみち、アンタに危害を加えようとした俺だ。無罪放免とはいかないさ。……人間だろう、アンタ。匂いで解る」
「そ……れは」
「この仕事を続けたいなら忠告しとくぜ、女刑事さん。俺達モノノ怪に、変な情けはかけない事だ。大人しいフリをして人間に危害を加えようとする奴だって、少なくないんだからな」
「そういう事だ。……さっさと人型に戻って服を着ろ。上には俺が話をつけておく」
「……」
ウチにはそれ以上、何も言えなかった。そんな資格なんて、ない気がした。
だって、ウチは、モノノ怪の世界の事をあまりにも知らなすぎる。
「……あの、俺、服着るから出来れば向こう向いてくれると……」
「あ……す、すみませんっ」
恥ずかしそうに言う赤城さんに慌ててそっぽを向きながら、ウチの胸には、晴れない気持ちが沈んで溜まっていった。
「ああ」
ウチの問いに、赤城さんが小さく頷く。良かった……この人悪い人……悪いモノノ怪?やなかったんや……。
白川さんを振り返ると、白川さんはまだ難しい顔をしていた。……もしかして、赤城さんが嘘を吐いてると思ってるんかな……?
「……お前、その日の前日辺りに体調を崩してなかったか」
そう思ってると。白川さんが、静かに口を開いた。
「あ、ああ。何故それを?」
「個人差はあるが、体調が悪いと人型を保てなくなる事がある。恐らく今回は体調不良と、惚れた女を前にした感情の乱れが合わさっちまったんだろうさ」
「そんな事あるんや……」
感心して、ウチは白川さんをジッと見る。こういうとこ、本当に刑事みたい。いや刑事なんだけど!
「……だが、これで解っただろ」
けれど。白川さんは厳しい表情を崩さなかった。
「白川さん?」
「お前の人間の姿は、そんな程度の事で簡単に解けちまう程度のものだ。……いつまでも、この都会で、正体を隠しながら生きていけると思うか?」
「……」
白川さんの言葉に、赤城さんは重々しく俯いてしまう。辺りはいつの間にか、沈痛な空気に包まれていた。
え……。赤城さんに悪意はなかったんだから、それで話は終わりとちゃうの……?
「……解っている」
やがて、赤城さんが重い口を開ける。
「どんなに望んでも、彼女の側にいつまでもいる事は出来ないと……俺だって、解っているんだ……」
「なら、お前のするべき事は解るな?」
「……ああ」
「ち、ちょっと待って下さい!」
沈んだ様子の赤城さんに黙ってられず、ウチは声を張り上げた。
だって……赤城さんは、ただ好きな人の側にいたかっただけで……。それなのに、ここから離れなきゃいけないなんて……!
「別に誰かを襲おうとして変身した訳やないって、ちゃんと解ったやないですか! 何でここを離れる必要があるんですか!?」
「危害を加える意思があったかは、この際重要じゃねえんだよ」
けれど、白川さんは。非情さすら感じさせる声で、そう言った。
「狼男の件が、これだけ噂になった事。そしていつまた、ソイツが狼男の姿を晒すか解らん事。今一番重要なのは、そっちだ」
「何でですか!」
「……円。俺達ユーレイ課にはモノノ怪の犯罪を取り締まる他にもう一つ、重要な役割がある」
「役割?」
「モノノ怪の存在を一般人に知られないようにする役割だ」
息を飲む。ここまで言われたら、いくらモノノ怪の事情に詳しくないウチでも白川さんの言いたい事が解った。解ってしまった。
つまり――今のままだといつ、赤城さんが本物の狼男と知れてしまうか解らない。白川さんはそう言っているのだ。
「コイツ自身、自分が危うい立場にいるのは解ってるはずだ。だからユーレイ課の名を聞いて逃げだそうとしたり、人質を取って抵抗しようとしたりした。違うか?」
「……その通りだ。今では馬鹿な事をしたと思ってる」
白川さんの指摘を、赤城さんはアッサリ認めた。そして優しげで、同時に悲しげな眼差しを向ける。
「ありがとう。だがもういいんだ、女刑事さん。俺が禁忌を犯しかけてるのは事実。どこか遠い町で、また一からやり直すさ」
「でも!」
「どっちみち、アンタに危害を加えようとした俺だ。無罪放免とはいかないさ。……人間だろう、アンタ。匂いで解る」
「そ……れは」
「この仕事を続けたいなら忠告しとくぜ、女刑事さん。俺達モノノ怪に、変な情けはかけない事だ。大人しいフリをして人間に危害を加えようとする奴だって、少なくないんだからな」
「そういう事だ。……さっさと人型に戻って服を着ろ。上には俺が話をつけておく」
「……」
ウチにはそれ以上、何も言えなかった。そんな資格なんて、ない気がした。
だって、ウチは、モノノ怪の世界の事をあまりにも知らなすぎる。
「……あの、俺、服着るから出来れば向こう向いてくれると……」
「あ……す、すみませんっ」
恥ずかしそうに言う赤城さんに慌ててそっぽを向きながら、ウチの胸には、晴れない気持ちが沈んで溜まっていった。
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