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序章 総ての始まり
第5話 こちらユーレイ課
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次に目が覚めた時、飛び込んできたのは全く知らない天井だった。
(……ここ、ドコ?)
真っ先に浮かんだのはそんな疑問。少なくとも築三十年以上の、ウチの住んでるボロい学生寮でだけは断じてない。
だって妙に小綺麗だし、蛍光灯だって丸型じゃなくて直線型だし、そもそも木の天井じゃないし。
(何で、ウチ、こんな所にいるんだっけ……?)
「あら。目が覚めたのね」
事の成り行きをウチがぼんやり思い出そうとしていると、どこからか女の人の声が降ってきた。その声に、ウチは反射的にガバッと跳ね起きる。
改めて見回せば、そこは、どこかのオフィス内のようだった。どことなく、学校の職員室に雰囲気が似ているような気もする。
「こっちよ、こっち」
クスクスと可笑しそうな笑い声のした方を振り返れば、そこにはキャスター付きの椅子に腰掛けた白いスーツ姿の美人さんがいた。長い黒髪を一つに纏めてアップにしていて、どこかとろんとしたような目の目元にある泣きぼくろがどことなくセクシーだ。
「気分はどう? 気持ち悪いとかない?」
「あ……大丈夫……です」
優しく問いかける美人さんに、小さくかぶりを振り返す。けど頭の中は、ますます混乱する一方だった。
この人ダレ? て言うかここドコ? うちの身に一体ナニがあったの?
美人さんはウチの困惑を察したように、綺麗な顔に苦笑を浮かべた。そして優しい口調は崩さずに、再び口を開く。
「ごめんなさい、何が起きてるか解らないわよね。……そうね、すぐに説明してもいいんだけど、まずは全員と面通しした方がいいかしらね」
「全員……?」
ウチが脳内のハテナマークを更に増やしていると、急に部屋の扉が開いて二人組の男の人が入ってきた。その内片方、灰色スーツのイケメンが美人さんに声をかける。
「瞳さん、アイツ、あっさり自供したよ。やっぱり持つべきものは強面の後輩だね」
「オレ、ただ、睨んだだけッスよ……」
「それが役に立ってるんだから、結果オーライでしょ? 戌井君。……あ、起きたんだ、毛虫ちゃん」
美人さんや一緒にいた厳つい巨漢とにこやかに談笑していたイケメンは、起きたウチに気付くとそう言って軽く手を振る。その呼び名に、漸くウチはそれが誰なのかを思い出した。
「……っあああああ! 昨日の変な客!」
そう、それは、のっぺらぼうの自分の似顔絵を千円で買っていったあの口の悪い客だった。同時にウチの脳裏に、気を失う直前の出来事が一気にフラッシュバックする。
「ね、ねえっ! 化け物は、あの化け物はどうなったの!?」
不安で胸が一杯になりながら、ウチは声を上げる。そうだ。ウチは化け物を見たのだ。
あと一歩で殺されるところで、そこを、多分、このイケメンに助けられて……。あの恐ろしい姿を思い出すだけで、自然と体が震えてくる。
「化け物? ……ああ、『網切り』の事?」
「『網切り』……?」
「漁に使う網を切り刻んじゃうってモノノ怪。アイツは網じゃなくて、女の髪に執着してたみたいだけどね」
けどイケメンは、ウチが怯えてるのなんか気にもならないみたいに軽い調子でそう言い放つ。モノノ怪……つまり……あれって妖怪なの!?
「……大丈夫ッスよ。犯人は留置場にブチ込んでおいたッスから。これ以上あなたに危害を加える事はないッス」
ますますウチが怯えていると、ポリポリと頬を掻きながら強面がそう言ってくれた。その言葉に、一気に肩の力が抜ける。
「言っておくけど、白川先輩にデリカシーを期待するだけ無駄ですよ」
ひとまず安心したウチの耳に、ここにいる三人のうち誰のものでもない声が響いた。誰だろうともう一度辺りを見回すと、デスクトップパソコンの向こう側に小さな頭がほんの僅かだけ見えた。
「手厳しいね、小詠ちゃん」
「事実じゃないですか。この間も事情聴取で被害者カンカンに怒らせたばかりでしょう」
「そんな事もあったっけ。生憎僕は過去は振り返らない主義なんだ」
「少しは振り返って下さい。後で苦労するのは私達なんですから」
全く堪えた様子のないイケメンに、声の主が盛大に溜息を吐く音が聞こえる。そんなやり取りを苦笑しながら見ていた美人さんが、不意にウチの方を向いた。
「改めて、自己紹介させて貰うわね。私達は警視庁捜査零課、通称は『ユーレイ課』」
「捜査……零課?」
「モノノ怪……人間の言う妖怪が引き起こす事件、『あやかし事件』専門部署よ」
そう言った美人さんの目が、一瞬、黄金色に輝いた気がした。
(……ここ、ドコ?)
真っ先に浮かんだのはそんな疑問。少なくとも築三十年以上の、ウチの住んでるボロい学生寮でだけは断じてない。
だって妙に小綺麗だし、蛍光灯だって丸型じゃなくて直線型だし、そもそも木の天井じゃないし。
(何で、ウチ、こんな所にいるんだっけ……?)
「あら。目が覚めたのね」
事の成り行きをウチがぼんやり思い出そうとしていると、どこからか女の人の声が降ってきた。その声に、ウチは反射的にガバッと跳ね起きる。
改めて見回せば、そこは、どこかのオフィス内のようだった。どことなく、学校の職員室に雰囲気が似ているような気もする。
「こっちよ、こっち」
クスクスと可笑しそうな笑い声のした方を振り返れば、そこにはキャスター付きの椅子に腰掛けた白いスーツ姿の美人さんがいた。長い黒髪を一つに纏めてアップにしていて、どこかとろんとしたような目の目元にある泣きぼくろがどことなくセクシーだ。
「気分はどう? 気持ち悪いとかない?」
「あ……大丈夫……です」
優しく問いかける美人さんに、小さくかぶりを振り返す。けど頭の中は、ますます混乱する一方だった。
この人ダレ? て言うかここドコ? うちの身に一体ナニがあったの?
美人さんはウチの困惑を察したように、綺麗な顔に苦笑を浮かべた。そして優しい口調は崩さずに、再び口を開く。
「ごめんなさい、何が起きてるか解らないわよね。……そうね、すぐに説明してもいいんだけど、まずは全員と面通しした方がいいかしらね」
「全員……?」
ウチが脳内のハテナマークを更に増やしていると、急に部屋の扉が開いて二人組の男の人が入ってきた。その内片方、灰色スーツのイケメンが美人さんに声をかける。
「瞳さん、アイツ、あっさり自供したよ。やっぱり持つべきものは強面の後輩だね」
「オレ、ただ、睨んだだけッスよ……」
「それが役に立ってるんだから、結果オーライでしょ? 戌井君。……あ、起きたんだ、毛虫ちゃん」
美人さんや一緒にいた厳つい巨漢とにこやかに談笑していたイケメンは、起きたウチに気付くとそう言って軽く手を振る。その呼び名に、漸くウチはそれが誰なのかを思い出した。
「……っあああああ! 昨日の変な客!」
そう、それは、のっぺらぼうの自分の似顔絵を千円で買っていったあの口の悪い客だった。同時にウチの脳裏に、気を失う直前の出来事が一気にフラッシュバックする。
「ね、ねえっ! 化け物は、あの化け物はどうなったの!?」
不安で胸が一杯になりながら、ウチは声を上げる。そうだ。ウチは化け物を見たのだ。
あと一歩で殺されるところで、そこを、多分、このイケメンに助けられて……。あの恐ろしい姿を思い出すだけで、自然と体が震えてくる。
「化け物? ……ああ、『網切り』の事?」
「『網切り』……?」
「漁に使う網を切り刻んじゃうってモノノ怪。アイツは網じゃなくて、女の髪に執着してたみたいだけどね」
けどイケメンは、ウチが怯えてるのなんか気にもならないみたいに軽い調子でそう言い放つ。モノノ怪……つまり……あれって妖怪なの!?
「……大丈夫ッスよ。犯人は留置場にブチ込んでおいたッスから。これ以上あなたに危害を加える事はないッス」
ますますウチが怯えていると、ポリポリと頬を掻きながら強面がそう言ってくれた。その言葉に、一気に肩の力が抜ける。
「言っておくけど、白川先輩にデリカシーを期待するだけ無駄ですよ」
ひとまず安心したウチの耳に、ここにいる三人のうち誰のものでもない声が響いた。誰だろうともう一度辺りを見回すと、デスクトップパソコンの向こう側に小さな頭がほんの僅かだけ見えた。
「手厳しいね、小詠ちゃん」
「事実じゃないですか。この間も事情聴取で被害者カンカンに怒らせたばかりでしょう」
「そんな事もあったっけ。生憎僕は過去は振り返らない主義なんだ」
「少しは振り返って下さい。後で苦労するのは私達なんですから」
全く堪えた様子のないイケメンに、声の主が盛大に溜息を吐く音が聞こえる。そんなやり取りを苦笑しながら見ていた美人さんが、不意にウチの方を向いた。
「改めて、自己紹介させて貰うわね。私達は警視庁捜査零課、通称は『ユーレイ課』」
「捜査……零課?」
「モノノ怪……人間の言う妖怪が引き起こす事件、『あやかし事件』専門部署よ」
そう言った美人さんの目が、一瞬、黄金色に輝いた気がした。
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