竜の契約者

ホワイトエンド

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間章 勇者と森妖精の泡沫の鎮魂歌

第358話 観戦

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ホテルを中心に結界が広がる。ホテルに集っていたアンデット達が勢いよく弾き飛ばされていく。人も魔物も区別なく襲いかかってくるものだけを弾きとばし必死に戦うもの、必死に逃げるものを守る。差別なく優しさの盾が貼られる。
それを破壊しようとアンデット達が拳を振るうも波紋が広がるだけで砕ける気配がない。
そしてそれまで戦士達を回復魔法で治していた魔法使い達が戦士達と立ち位置を交代し光の魔法、もしくは炎の魔法でアンデット達を薙ぎ払っていく。

それを窓からニイ達は見ていた。
『ふむ、不安だったが…リアも中々戦えているな。』
「不安すぎて左手から水の魔法を使っているくらいの手汗が出ているんだが。」
『…まあ、隠しはせん。』
どこか軽い会話をする二人と一人のリザードマンに視線が吸い寄せられているルアーナ、そしてアンデット達が浄化、もしくは焼却されるごとに辛そうに胸を押さえるティア。その三人は戦線が組まれた辺りから部屋から戦場を眺めていた。
最初こそルアーナは出て行きたがったがティアを見て何度も息を落ち着けていた。
一切の視線をティアに向けずにニイは彼女に語りかける。
「そろそろ、全てを投げ出して、全てを巻き込んで、全てを終わらせる覚悟は出来たか?」
「それ、は…」
「出来てないならいい。」
「はい…」
何度も続けられたこの会話は戦線が組まれる前から始まったものだ。
ニイが動かないのはこのためだ。

あくまで彼女を助けると決めたのだ。敵を薙ぎ払うではなくティアを助けるそのために今回は動くと決めた。だから、動かない。

行動を始めないニイを不思議に思ったファルーグとルアーナがニイに問いただしたときに帰ってきたのがこれだ。それ以上は語らず静かに下を見つめるニイに動かないだろうと言うことを理解した二人は下の戦場の観戦を始めたのだった。

掌を握りしめすぎて手に傷がついたティアの手からは血は流れず見た目は平気な手に指が延々とめり込んで行くだけだ。
もはや機能のほとんどを失った肺に何度も空気が通る。
自分の為にやったことのせいで皆が死んでいく。死んでしまっていた皆が死んでいく。救いのはずだ。なのに最期の踏ん切りがつかない。優しい彼に、優しい彼女に、優しい彼等を殺させる事を躊躇う。だけど目を、そらせない。
「ニイ…さん…」
「なんだ?」
「死ぬのって助けになると思いますか…?」
「そうだな…」
彼は少し考える様な素振りを見せると変わらない表情で予想だにしなかった答えをだす。

「ならない、死は罰でしかない。」

救いになると言って背を押して欲しかった彼の口から出されたのは全く逆の言葉だった。
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