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7章 勇者と魔王の正義
第312話 死神
しおりを挟む「どういうことだ!コントロールを奪えん!」
助けを呼ぶ声が聞こえた瞬間ニイを引き留めようとしたファルーグはまるで自分が鎖に繋がれたように干渉が出来なくなっていた。
「おかしいぞ、どのような時でも左腕と左足は奪えるはずなのになぜかそこにすら干渉出来ぬだと?」
ニイだけでは動かせないはずの左側の腕と足が自分の干渉無しで動かせていることから何かがおかしいと内側を改めて確認しようとしたファルーグに後ろから声がかけられた。
「邪魔立て不要。あれこそ主の望みである。貴様も主の一部なら受け入れるがいい。」
「!」
その声に振り向くとそこには頭の上から足元まで真っ黒な長髪の男が立っていた。
その男は無表情だった。一切の感情を感じさせぬ優しさすら一つも見えない無表情。
その男はただそこに立っているだけなのにファルーグに生物的な恐怖、初めて勇者と相対した時と同じものを感じさせる。
「貴様が勇者を動かしているのか。」
「然り。我は主の望みを叶える者なり。それ故に。」
「ここで助けさせてしまえばそれこそ誰でも助けてしまう!奴は罪に手を染めている。我は願いを叶えることこそ援助はしたが罪を赦すつもりは無い!」
「主には関係なし。助けられるのであれば助ける。それが主だ。」
取り付く島もない目の前の存在にイライラし始めるファルーグをよそにニイはビートを助け出した。
「我の出番はここまでだ。」
その言葉と共にファルーグは体をコントロールを出来るようになったことを悟った。
「さらばだ。異邦の魔王よ。これからも主の体にいるのであれば再び会うこととなるだろう。」
「待て!」
消えようとしたその男にファルーグが呼びかける。
「名を告げるがいい!」
「グリム、死神グリムだ。」
そう言い残すとファルーグの前からいなくなった。
「グリム、死神グリム、か。…貴様は何を抱えていたのだ勇者よ。」
そう呟いたファルーグは表へと現出する。ディレード達と話すなら体を奪った体でファルーグが話した方が都合が良い。
魔王と死神の初邂逅はこのように。
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