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6章 魔王と英雄モドキ
第275話 フルルの願い
しおりを挟むなんで私はディレードの手を握ってしまったんだろう
いや理由は分かってる
ディレードが上を向いた瞬間私の中でなにかが囁いた
ここで止めないと彼は二度と止まらないって
だけど私はここまで考えて決めてはずだ
理解もしたはずだ
そうしなければいけないのだと
そうしなければ私達は勝てないのだと
でも…私はこうして彼の手を握っている
「フルル。」
彼が私の名前を呼ぶ
どこか責めるような声色で
ゾクゾクするけど今はそんな場合じゃないことは分かってる
「私は大丈夫なので巻き込んだら危ないですからエリルをお願いします。」
私の不安を悟ったのか表情を変えて笑顔で大丈夫だと言った
そして不安を考えなくてもいいようにやることを与えてくれる
いつものディレードだと分かる
だけど…
「…大丈夫ですフルル。私は必ず生きて帰ってきます。」
頭を何度か振りながら励ましの声を聞かせてくれる
狂いそうなのだろう
いつもあれを使う度にこうなる
いつも可愛らしいくらい狂うのは戦闘後だ
自分の思ったことを口にしてくれるし敬語が本気で外れるから親しくなった気分になれる
だけど戦闘中は私達を振り回さないように理性を保とうとする
本当にかわいい…
違う今はそんなことを話してる場合じゃない
「その帰ってくるってディレードとして?」
そう聞きたいのはこれだけなのだ
ディレードは勝つし生きて帰ってくるって分かってるし
けど彼が変わってしまうんじゃないか
それだけが怖い
その言葉を聞いたディレードは驚いた顔になったあと一度目を瞑り頷くと私をまっすぐに見つめ始めた
「ええ。私のまま帰ってきます。」
「本当に?」
「嘘は神も勇者様もお許しにはなりませんからね。」
「本当の本当に?」
「はい。」
「…」
私は彼の手から手を離した
それを確認したディレードは今も攻撃し続けていた魔王を見つめる
そして詠う
私はきっともう何も出来ない
だから彼から目を離さない
そして私は願う
彼が変わりませんように
という人間のいや生物の最大の特徴を否定する願いを
だけどこの瞬間だけは正しいはずの願いを
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