竜の契約者

4章 聖人と少女と暗殺者

第128話 アリスの心

ビートが壁にめり込んだあとその場の空気は固まった。
「決着は付きました。さあ、アリスさんを開放して確保されなさい。」
「くっ……ビートが負けるとはな…分かったこの先だ。」
「フルル二人を見張ってなさい迎えに行ってきます。」
「むっ…いってらっしゃい」
一瞬止めようかと思ったがどちらがこの二人を見張った方が良いか考えた結果、本当は嫌だが、アリスのところに向かわせることにした。

そうしてディレードは部屋の奥へと入っていった。


「なっ、なに！？」
眠ったように体を休ませていたアリスは何かが壁に衝突した衝撃と音で目を覚ました。
「誰かが戦ってる？」
扉の方に目を向けた瞬間その扉が開いた。
そこにはディレードが立っていた。
「ディ、ディレードさん…」
「どうもアリスさん昨夜ぶりですね。」
とんでもなくいい笑顔だった。普通に見れば優しい笑顔なのだが、後ろめたいことがある人から見ると恐怖を感じる笑顔だ。
「単独行動は好ましいですが運が悪かったですね。」
「ご、ごめんなさい…」
笑顔のまま、アリスに歩みよってくるディレードから体が逃げようとするのだが縛られている為身動き一つできない。
そうしてついに目の前にディレードが立った。そして腰の剣を引き抜いた。
「はぁ…体重を出来るだけ前にかけてください。」
「は、はい…」
言われた通りに前に体重をかけると手と足を縛っていた鎖が切れた。
「わっ」
そして掛けられていた体重の方向に倒れていく。そして倒れた先はディレードの胸の中だった。
「あっ…」
「無事ですか？」
「う、うん…」
「なら戻りましょう立てます？」
「だ、大丈夫。」
「さあ、行きますよ。フルルああ見えてお人好しですから心配ですし。」
そうして扉の方に向いて歩いていく。
「あ、あの…」
「なにか不調ですか？」
「ううん。ええと…なんで助けてくれたの？」
「助けるに決まっているでしょう？貴女は被害者ですし。」
「それも、そうだねうん。」
「貴女が望んでいるような答えを返すなら。」
「え？」
「私は貴女を一度助けましたからね。期待させてしまっているでしょうから助けました。」
「…ふふ。全然ドキドキしない理由だなぁ。」
笑ってしまった。なにせそれは期待したろ？なら期待どうり助けてやると言うことなのだ。
正直に言うとアリスはめちゃめちゃ期待してしまっていた、劇的に自分をもう一回助けてくれるのを。
だからすごいドキドキしている。
つい、嘘をついた。
だって言葉にしてしまえばフルルに殺されてしまう感情を持ってしまうだろうから。
そう、恋を、してしまうから。
「そうですか。早く行きますよアリスさん。」
「うん！行こう、ディレードさん！」

旅人は一般的な人とは釣り合わないとはよく言われる。
だからこの感情は無いことにしようと決めたアリスだった。