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怨みの道理
神来パート 5人寄らば解決の知恵
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少しずつ、大事になってきている。
最初は浦木 里美の霊を探すだけだった。解決したと思ったら、今度は呪いもどきの騒動に巻き込まれて。しかし偶然の産物として解決した。そのはずだったのだが・・・
「突然頭をおさえて苦しみだした・・・か。
いよいよ本格的に呪いっぽくなってきたんじゃない?神来。」
机に突っ伏しながらも語りかける葛西に対して、返す言葉が思いつかない。いや、どの言葉も返したくない。
そうだな、と肯定したくもなければ、呪いなわけがない、と否定することもできない。しかし生返事で流せるほど、もはや他人事でも無かった。
「無視すんなよ同志。薄々気づいてるでしょ?今度の事件は"ガチ"だって。」
葛西の言う通り、今回はさすがに呪い以外では説明がつかない。
呪いの被害者と噂されている加藤に持病は無く、むしろバカ騒ぎして下級生をイジるくらいには元気だったらしい。病院での診断結果までは個人情報であるため知り得なかったが、少なくとも噂上では何が原因か不明。
過労になるほど勉強やバイトをしていたわけでもアレルギーがあったわけでもない。
「・・・ねぇ、あまり考えたくは無いんだけどさ。」
珍しく葛西が真剣な声で言う。嫌な予感しかしない。
「待て。言うな葛さ──」
「外れてたりしないよね?神来や私の見立ても、鬼払瀬さんの推理も。」
言われてしまった。1番考えたくもなかった可能性を。
俺たちが学校の中を探し回っていた間に見落としていたとしたら、鬼払瀬の推理が見当違いなものだったとしたら、未然に防げたかもしれない事態に陥っているということになる。
素人の頭で考えても結論は出ない。となると、至るは当然・・・
「私のもと、ということか。」
水鏡書堂に今一度集まり、緊急会議を開いた。
鬼払瀬は頭を抱えながら机上に人差し指で五芒星を描き続ける。彼女なりの思考整理なのだろうか。
「私の推理が外れていたのであれば、そして浦木 里美の亡霊が実は居るのであれば、それはとても厄介だね。」
「どういうことだ?」
「毒性を持つ絵具を使い絵を描いたのは浦木 里美だ。軽い症状による呪いのとき、私は彼女にミスリードされたということになる。」
それが故意なら、かなりの強者だ。
俺や葛西が霊感を持っていることを見抜いて接触を避けることも、死後自らの呪いが調べられる事を予見することも、ただの怨念に出来ることではない。
「モモちゃんのお姉さんって幽霊は信じるタイプだったの?」
「いえ、むしろ心霊番組どころかちょっとした手品までトリックや粗を探して見抜くタイプでした。」
「現実主義者かぁ・・・生前の見識だけなら私たちを避けられないハズだけど。」
浦木 里美が計画的に呪い騒動を起こしているならここまで手強いことも頷けたが、どうやらそういうわけでも無いようだ。
「現実主義というか、ミステリー好きだったんです。東野圭吾とか、江戸川乱歩とか。だから幽霊とか超能力みたいな話があまり好きではないみたいで。」
「ノックスの十戒か。お姉さんが生きているうちに知り合いたかったよ。きっと良いお酒の呑める相手だったのに。」
同じくミステリー好きの鬼払瀬はそう言ってため息をついているが、手品すら粗を探す浦木に祓い屋が受け入れられるものだろうか。
そんな雑談はさておき、問題は徐々にエスカレートする呪い騒動をどう解決するか、だ。
絵の具がいくら有毒だったとしても、人を気絶させるほどの毒性があるわけではない。
つまり、加藤が突然気絶した理由は絵の具の揮発以外によるものだということ。
「うーむ、分からない。香雪丸はどう思う?」
「これまでのお話と言霊の概念から、所感を述べさせていただきますと・・・まるで自らの存在を我々に認めさせようとしているように思います。」
「存在を・・・認めさせる?」
「はい。分かりやすいように桃香様からの視点で整理いたします。
まず、桃香様のもとに里美様の死亡が伝わり、この時点で里美様の幽霊は居るか居ないかが曖昧な状態になります。
そして幽霊の存在を確認できる稔様と掬江様の観測により、一旦は居ないと結論が出ました。
桃香様に"浦木 里美の呪い"という噂が伝えられたのは、この直後です。それにより、今度は里美様の怨念が居るか居ないかが曖昧な状態、事実上の振り出しに戻されました。」
むしろ、自殺の裏づけや呪いの被害者が存在する分、浦木 里美の亡霊実在説が濃厚になった状態で再検討する羽目になった。
「それに対して新たな観測者である美晴様が介入、推理によって呪いの噂は否定され、再び里美様の怨念は居ない、という結論に落ち着きました。美術部員の加藤様という方が倒れられたのは・・・」
「その直後、だね。確かに、エスカレートすると共に、浦木 里美の亡霊説に有利な状況へと変わってる。」
「言霊の概念として、口に出した言葉に心霊的な力が宿る、という原則があります。
より多くの人が、里美様の亡霊が実在するという旨の発言、噂をされたならば、転じて里美様の亡霊を実際に形作ることになる可能性は否定できません。」
ということは、俺たちが浦木 里美の霊の存在を認めることになれば本当に浦木 里美の怨霊が形作られるかもしれない。本物の浦木 里美ではなく、噂によって尾ひれのついた怨霊として。
「噂で作られたお姉さんなんてモモちゃんにとっても意味ないもんね。かき消しにかかるしかないよ?神来。」
「そうだな。本物ならともかく、好き勝手に怨霊の濡れ衣を着せられるなんて、それこそ浦木が浮かばれない。」
「では、みんなに協力してもらうとしよう。今回の件は浦木 里美の自殺について、より詳細に調査しなければならない。表田くん、キミの家庭の事情が複雑なのは承知の上だが、お姉さんの名誉を守るためだ。浦木の家も、調べさせてもらうよ?」
「・・・大丈夫、です。お願いします。」
最初は浦木 里美の霊を探すだけだった。解決したと思ったら、今度は呪いもどきの騒動に巻き込まれて。しかし偶然の産物として解決した。そのはずだったのだが・・・
「突然頭をおさえて苦しみだした・・・か。
いよいよ本格的に呪いっぽくなってきたんじゃない?神来。」
机に突っ伏しながらも語りかける葛西に対して、返す言葉が思いつかない。いや、どの言葉も返したくない。
そうだな、と肯定したくもなければ、呪いなわけがない、と否定することもできない。しかし生返事で流せるほど、もはや他人事でも無かった。
「無視すんなよ同志。薄々気づいてるでしょ?今度の事件は"ガチ"だって。」
葛西の言う通り、今回はさすがに呪い以外では説明がつかない。
呪いの被害者と噂されている加藤に持病は無く、むしろバカ騒ぎして下級生をイジるくらいには元気だったらしい。病院での診断結果までは個人情報であるため知り得なかったが、少なくとも噂上では何が原因か不明。
過労になるほど勉強やバイトをしていたわけでもアレルギーがあったわけでもない。
「・・・ねぇ、あまり考えたくは無いんだけどさ。」
珍しく葛西が真剣な声で言う。嫌な予感しかしない。
「待て。言うな葛さ──」
「外れてたりしないよね?神来や私の見立ても、鬼払瀬さんの推理も。」
言われてしまった。1番考えたくもなかった可能性を。
俺たちが学校の中を探し回っていた間に見落としていたとしたら、鬼払瀬の推理が見当違いなものだったとしたら、未然に防げたかもしれない事態に陥っているということになる。
素人の頭で考えても結論は出ない。となると、至るは当然・・・
「私のもと、ということか。」
水鏡書堂に今一度集まり、緊急会議を開いた。
鬼払瀬は頭を抱えながら机上に人差し指で五芒星を描き続ける。彼女なりの思考整理なのだろうか。
「私の推理が外れていたのであれば、そして浦木 里美の亡霊が実は居るのであれば、それはとても厄介だね。」
「どういうことだ?」
「毒性を持つ絵具を使い絵を描いたのは浦木 里美だ。軽い症状による呪いのとき、私は彼女にミスリードされたということになる。」
それが故意なら、かなりの強者だ。
俺や葛西が霊感を持っていることを見抜いて接触を避けることも、死後自らの呪いが調べられる事を予見することも、ただの怨念に出来ることではない。
「モモちゃんのお姉さんって幽霊は信じるタイプだったの?」
「いえ、むしろ心霊番組どころかちょっとした手品までトリックや粗を探して見抜くタイプでした。」
「現実主義者かぁ・・・生前の見識だけなら私たちを避けられないハズだけど。」
浦木 里美が計画的に呪い騒動を起こしているならここまで手強いことも頷けたが、どうやらそういうわけでも無いようだ。
「現実主義というか、ミステリー好きだったんです。東野圭吾とか、江戸川乱歩とか。だから幽霊とか超能力みたいな話があまり好きではないみたいで。」
「ノックスの十戒か。お姉さんが生きているうちに知り合いたかったよ。きっと良いお酒の呑める相手だったのに。」
同じくミステリー好きの鬼払瀬はそう言ってため息をついているが、手品すら粗を探す浦木に祓い屋が受け入れられるものだろうか。
そんな雑談はさておき、問題は徐々にエスカレートする呪い騒動をどう解決するか、だ。
絵の具がいくら有毒だったとしても、人を気絶させるほどの毒性があるわけではない。
つまり、加藤が突然気絶した理由は絵の具の揮発以外によるものだということ。
「うーむ、分からない。香雪丸はどう思う?」
「これまでのお話と言霊の概念から、所感を述べさせていただきますと・・・まるで自らの存在を我々に認めさせようとしているように思います。」
「存在を・・・認めさせる?」
「はい。分かりやすいように桃香様からの視点で整理いたします。
まず、桃香様のもとに里美様の死亡が伝わり、この時点で里美様の幽霊は居るか居ないかが曖昧な状態になります。
そして幽霊の存在を確認できる稔様と掬江様の観測により、一旦は居ないと結論が出ました。
桃香様に"浦木 里美の呪い"という噂が伝えられたのは、この直後です。それにより、今度は里美様の怨念が居るか居ないかが曖昧な状態、事実上の振り出しに戻されました。」
むしろ、自殺の裏づけや呪いの被害者が存在する分、浦木 里美の亡霊実在説が濃厚になった状態で再検討する羽目になった。
「それに対して新たな観測者である美晴様が介入、推理によって呪いの噂は否定され、再び里美様の怨念は居ない、という結論に落ち着きました。美術部員の加藤様という方が倒れられたのは・・・」
「その直後、だね。確かに、エスカレートすると共に、浦木 里美の亡霊説に有利な状況へと変わってる。」
「言霊の概念として、口に出した言葉に心霊的な力が宿る、という原則があります。
より多くの人が、里美様の亡霊が実在するという旨の発言、噂をされたならば、転じて里美様の亡霊を実際に形作ることになる可能性は否定できません。」
ということは、俺たちが浦木 里美の霊の存在を認めることになれば本当に浦木 里美の怨霊が形作られるかもしれない。本物の浦木 里美ではなく、噂によって尾ひれのついた怨霊として。
「噂で作られたお姉さんなんてモモちゃんにとっても意味ないもんね。かき消しにかかるしかないよ?神来。」
「そうだな。本物ならともかく、好き勝手に怨霊の濡れ衣を着せられるなんて、それこそ浦木が浮かばれない。」
「では、みんなに協力してもらうとしよう。今回の件は浦木 里美の自殺について、より詳細に調査しなければならない。表田くん、キミの家庭の事情が複雑なのは承知の上だが、お姉さんの名誉を守るためだ。浦木の家も、調べさせてもらうよ?」
「・・・大丈夫、です。お願いします。」
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