黒猫と12人の王

病床の翁

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都市4

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 無能の街に滞在して3日目になる。
 今日もルイチェン邸を訪れた俺達は魔族についてあれこれ聞く。
 金獅子達は昨日聞いていたらしかったが、俺は初めてルイチェン達の先祖が人間だったと聞いて驚いた。
 魔素の濃い土地に居続けると体に魔素が溜まり魔力を持つようになるなんて聞いたこともなかった。
 そもそも人族領にそんな魔素の濃い地域などないのだから当然と言えば当然だが。
 色々話しているうちにルイチェンが口籠もりながら言ってきた。
「こんな事を旅の人族の方々に頼むのは本来違うのでしょうが。1つ我々を助けては頂けませんか?」
 どこか切羽詰まった様子で言うので、詳細を話すように促す。
「実は街の北西側にキメラが住み着きましてね。キメラと言うのは獅子の頭に山羊の体をしていて尻尾が蛇の魔獣なんですが、こいつが街と北西にある西の村を行き来する人達を襲うんですよ。1度街の兵士達が討伐に向かったのですが、強すぎて太刀打ち出来なくて。皆さんのお力であのキメラをどうにかして頂く訳にはいきませんか?」
 それを聞いた白狐が目を輝かせながら言う。
「いいじゃないですか。キメラ退治!」
「いや、お前は刀が振れる機会が欲しいだけだろ。」
 ツッコミを入れておいた。
「しかし、無償で泊めて貰っている恩もあるしな。」
 金獅子も言う。
「うむ。拙者も修行の一環としてキメラ討伐には賛成である。」
「じゃあ何人かだけで行ったらどうだ?」
 紅猿も乗り気だった為、銀狼が提案する。
「では私とクロさん、それに紅猿さんの3人で行きましょう。」
「なんで俺まで?」
「妻の戦う姿を見たくはないですか?」
「なんだそりゃ。」
 とか何とか言ってるうちに3人でキメラ討伐に出向く事が決まった。

 キメラは街の北西側に出ると言う事で西門から出て北西へと向かう。3時間も歩けば西の村に辿り着くらしいのでそれよりも時間はかからずキメラに出くわすはずだ。
 街を出てから1時間あまりが経過した頃、周りは林になっており、獣が住み着いていてもおかしくなさそうだった。
 それから暫く歩いたところでキメラとのご対面となった。

 キメラは2体いた。
 雄と雌の番のようだ。
 どちらも体体長は5m程度ある大物だ。
「ギョエェェェェエ!」
「キョエェェ!」
 獅子頭からとは思えない甲高い声で鳴くキメラは俺達を挟み撃ちにするこの様に分かれて向かって来た。
「王化は?」
「必要ない!」
 俺の問いに紅猿は端的に答えると雄と思われるたてがみがある方のキメラへと向かって行った。
「問題ないですよ。クロさん。あちらは私が貰いますね。」
 そう言うと雌と思われる鬣のない方のキメラへと向かって行った。
 俺は2人の戦闘の様子をヨルと一緒に観察した。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 巨大な口を開き紅猿へと迫る雄のキメラ。
 紅猿は手にした棍でキメラの下顎を突いた。
 それだけで開いていた口を閉ざされたキメラ。しかしその突進は止まらない。
「てりゃぁぁぁあ!」
 紅猿は棍を回し突いた方とは逆側で強かにキメラの脳天を叩く。
「ギョフッ!」
 自身の突進していた勢いそのままに頭を地面に叩き付けられたキメラ。
 しかしすぐさま立ち上がり巨大な口を開ける。
「ギョエェェェェエ!」
 2度目の咆哮を上げるとそのまま紅猿に噛み付こうとしてくる。
 紅猿はすくい上げるように棍をキメラの下顎へと叩き付ける。
 ガギッ。
 キメラは上の牙と下の牙を打ち鳴らし上を向く。
 そのがら空きとなった喉に向けて棍を突き出す紅猿。
「グフッ…。」
 急所の1つである喉を強打されたたらを踏むキメラ。
 ところで紅猿の持つ棍、猛烈な勢いでキメラを突き、叩いても折れない強度があり、ただの木の棒とは思えないしなやかさもある。
 実はこの棍、元は1本の木の幹なのだ。直径1m強の木の幹を石で叩いて圧縮したものであり、紅猿自身の手で自分の手に馴染む太さにまで圧縮された状態なのである。
 その為、その重量は直径1mの高さ2mの木そのままの重みがあり、切り出して作り上げた同じ2mの木の棒とは訳が違う。
 そんな重みのある棍で突き、叩かれたキメラはもうすでにフラフラであった。
 それでも目の前の獲物に向けて牙を剝く姿勢は野生の成せる技である。
 三度大きく口を開き紅猿へと迫るキメラだったが、今度は上からの痛打を受けまた牙を打ち鳴らす。
 そのまま眉間に棍を突き入れた紅猿。
 その突きは頭蓋をかち割り脳へと達し、雄のキメラを地に沈めたのであった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 巨大な口を開き白狐へと迫る雌のキメラ。
 そんなキメラに対して白狐は抜剣の構えを取る。
「抜刀術・飛光一閃!」
 高速で振り抜かれた刀により一閃はキメラの下顎を斬り飛ばす。
 それでも上顎の牙を向けて迫ってくるキメラ。
 そんなキメラに向けて抜き身の刀を再度振るう白狐。
「抜刀術・閃光二閃!」
 抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げると迫って来ていた上顎も縦3つに切断された。
 一瞬で2回刀を振るったのだ。
 流石に立ち止まるキメラ。尻を向けて尾の蛇が白狐に迫る。
 白狐は跳び上がり蛇を避けると刀を振るった。
「抜刀術・発光三閃!」
 その剣閃が通った先ではキメラの胴体が横4つに斬り刻まれていた。
 超高速で振るわれた刀は一瞬のうちに3回も敵を斬り刻んでいたのだ。
 都合6回の剣技で雌のキメラは死骸と化したのである。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 俺は2人の戦いを呆けっと眺めていた。
 もう圧巻である。
 キメラも決して弱くはなかったのだろう。
 しかし、2人ともに数える程度の攻撃回数で倒してしまった。
 戦闘時間は5分もかかっていないだろう。
 俺はこんな動きが出来るメンバーと一緒に旅をしていたのかと驚きよりも唖然とした。
 俺が戦ったとしたら30分はかかっただろう。
 負ける想定はないが、あそこまでスマートに倒しきる事は出来なかっただろうと思う。
 まだまだ強くなる必要かあるなと1人反省するのであった。

 討伐証明としてキメラの尻尾を斬り取って帰った。
 ルイチェンに見せたら大変喜ばれた。
「ありがとうございます。これで西の村との交流が今まで通りに行えます。」
 そんなお礼の言葉も上の空だった俺に気付いた銀狼が話しかけてきた。
「どうした黒猫?どっか呆けたような面して。」
「あ?いや、実はさ…。」
 俺はさっきの戦闘状況を銀狼に伝える。
 すると銀狼は笑って言う。
「いや、だってお前、片や100年も刀を振るってきた刀剣士で、片や自分の武を高める為だけに80年も山に籠もってた奴だぜ?そんな奴らと自分を比べること自体がまちがってるぜ。」
 確かに言われてみて気付いた。2人ともに俺が生きてきた年数の数倍の時間を生きて戦いに身を置いていた奴らだった。
「オレだってキメラ相手に5分足らずで倒しきる自信はないな。30分あれば行けるだろうけどな。」
 俺と同じ感想だった事に少し安堵した。
『儂は同じ事が出来るがな。』
 ヨルが言ってくる。
「はははっ。ヨルも数百年生きてる化け物だろうが。同じ事が出来ても驚かねーよ。」
 銀狼は笑って返す。
 だが俺は思った。
 ヨルが出来るって事は俺の体を使って出来るって言っているわけであり、それなら俺にも出来るようになるって言っているようなものじゃないか?
「俺でも出来るようになるかな?」
 気が付いたら口に出していた。
『まぁ、お前の努力次第だな。』
「お?マジか。ならオレにも出来るようになるかな?」
『ん?お前の事は知らんよ。』
 ヨルは銀狼に素っ気なく言った。
 そっか。努力次第でいけるか。
 なんかいける気がしてきた。これなら勝てる。
 いや、何に勝つのか分からんが、何となく負けた気になってたから。

 って事でその日の夕飯はカツカレーにした。
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