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墓場
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岩山の巨魔人達の集落を出発してかれこれ4日が経つ。
その間も見渡す限り岩山で草木が生えていない。
出てくる魔物もスライムなんかがほとんどで、たまに出てくるのが鹿の魔獣ワイルドディアやニードルラビット、ブレードラビットなどの低ランクの魔獣くらいなもので、魔獣は倒し次第、血抜きして影収納に格納していっている。
食料は大量に買い込んではいるが、現地調達出来る時にはしっかり確保している。
今も俺達の前には山羊の魔獣ジャイアントゴートが群れをなして襲いかかってきている。
その数約40体。
今は帝国軍は大きく後ろに引き離している為、俺達だけで対処する。
ランク自体は低い為に攻撃が当たりさえすれば倒せるのだが、何せ足元はゴツゴツした軽く高低差もある岩山独特の足場になっており、バランスが悪い。
それに引き換えジャイアントゴートは流石ここに住んでるだけはあってバランス感覚が抜群でぴょんぴょん跳ねるときた。
紫鬼なんかはさっきから空振りパンチばっかり繰り出している。
ここで活躍したのが黄豹だ。
足場が悪い事なんて気にもしていないかのように身軽な動きでジャイアントゴートを追い回し手にした刃付トンファーで狩っていく。
「うぬぬ。当たらん!」
紫鬼が癇癪を起こしたように地団駄を踏んでいる。
紫鬼の次に苦戦していたのが灰虎。
先の戦いで両腕の手甲に付いていた鉤爪が折れて仕舞った為にその両手の爪が唯一の武器になってしまっている。
元々闘技場でも今のスタイルで戦っていたとのことで、戦闘自体に問題はないらしいが、リーチが短くなった分戦い辛そうだった。
逆に上手い動きをしていたのは蒼龍と紅猿だ。
2人ともに槍と棍という長物を取り扱っている為、リーチ長い。
ぴょんぴょん跳ねるジャイアントゴートもその長さを活かした攻撃で沈めていく。
金獅子も獲物が長大な大剣という事でリーチはあったのだが流石にその重さもあり上手い事攻撃が当たらなかった。
俺は銀狼と共に緑鳥の護衛だ。
少しでも近付いてくる奴がいれば俺が両手のナイフで斬りかかる。
その攻撃を避け緑鳥に迫る奴がいても銀狼が片腕で振るった剣によってとどめを刺した。
討伐自体は1時間近く時間を要したが、こちらに被害はなく、生きの良い肉を手に入れたのだった。
岩山は昇ったり降ったりの繰り返しで、一向に頂上に辿り着かなかった。
少し平地に出た為、食事休憩にする。
メニューは先程狩ったばかりの山羊肉を塩コショウで焼いたものにする。
影収納に入れておけば鮮度はそのままだが、せっかくなら狩ってすぐ食べた方が気分的にはいい。
その辺に転がっている岩を使って即席の竈を作ると、山羊肉を直火で焼いていく。
やっぱりこういう時は魔道コンロじゃなく直火に限る。
全員分の骨付き肉を焼き、皆で一緒に食べる。
もう何度目になるか分からない大勢での食事。
慣れるまではどこか気恥ずかしさがあったが、今は皆で食べるのが当たり前になった。
これも俺が“普通“になってきた証拠かもしれない。
必然話題は今いる岩山についてになった。
「最短を行くつもりで直進したが、この岩山を迂回するルートもあったのかもしれんな。」
金獅子が言い出すと、
「いや九大魔将が配置されてたんじゃ。何にも無いところに魔将は配置しないじゃろ?だからこのルートが1番のはずじゃ」
紫鬼が反論する。
「そうだよ。ここまで来て周りを見渡しても全部岩山なんだ。きっとこの岩山を越えない限り先には進めないのさ。」
灰虎も言う。
「まぁ迂回路があったとしても今更だろう。さっさとこの山を降りる事を考えようや。」
銀狼が締めた。
『おい。クロよ。そんなことより肉が足りんぞ。もっと焼け。』
「うむ。拙者ももう少し食べたいのである。」
ヨルが言うと紅猿も続ける。
「じゃあもっと食べたい人は?手上げて。」
俺が言うと全員手を上げた。
と言うことで先程の竈で再度山羊肉を焼く。
同じ味付けでもいいが少し味変したいなと思った俺は味噌を塗って焼いてみた。
「なにこれ?!美味しいじゃない!」
「ん。さっきのよりこっちのが好き。」
「私もこちらの方が好きですね。」
「わたしもこちらの方が食べやすく感じました。」
灰虎と黄豹、白狐に緑鳥と女性陣にはこちらが好評。
「俺様はさっきのやつの方が好みだな。肉を食ってる感じがした。」
「拙者も先程の塩コショウの方が好みである。」
「ワシもどっちかと言えば塩コショウの方じゃな。」
金獅子と紅猿、紫鬼が言うが、
「作って貰っといて文句言うなよ?オレは両方好きだぜ。」
「うむ。どちらも美味だ。」
『儂は肉が喰えればどっちでもかまわん。』
銀狼と蒼龍、ヨルはどちらでもとの事だ。
今度は女性陣向けてと男性陣向けで味付けを変えて出した方がいいだろうか?
そんな事をカ考えながら食事を済ませるのだった。
食事を終えてから2時間程度登ったりところでようやく頂上に辿り着いた。
そこからは他に遮る物はなく遠くの龍鳴山脈まで見えた。
蒼龍曰く、龍鳴山脈の方が標高は高いらしい。
大陸一高い場所が龍鳴山脈の頂上なのだとか。
そんなうんちくを聞きながら下山する。
頂上から見ても下一面が岩肌に覆われていた為、下山にも3、4日はかかりそうな雰囲気である。
俺達は適度な休憩を挟みつつ下山を続け、夜になる前に適当な平地を見つけるとそこで一晩過ごすのだった。
頂上から下り始めて5日目にして下方に森があるのを発見した。
その間も相変わらず山羊やら鹿やら兎やら羊やらの魔獣に出くわしたが、そいつらは今は皆影収納の中に収まっている。
しばらく肉には困らない程度には貯まった。
「やったー!森に出たぁー!」
灰虎がはしゃぐ。
よほど岩山の登山に飽きていたのだろう。
「おい。あまりはしゃぎ過ぎるなよ。ここは敵地なんだからな。」
「わかってるって。大丈夫。」
紫鬼が注意するが灰虎は何食わぬ顔だ。
なんか最近あの2人の距離感が近い気がする。
白狐にそれとなく言ってみると、
「確かにそうですね。これはもしかしたらもしかするかもですよ。」
と訳のわからん返しが来た。
もしかしたら、もしかする。
“もしか“をしたならば“もしか“する。
当たり前の話だろう。
何言ってんだ?と思って白狐を見返していると、
「あの2人ですよ。良い感じなのかもしれないって事ですよ。」
「良い感じ?」
「全くクロさんは恋愛の機微ってのが分かってないですね。いいですか?2人だけの見張り番の後から妙に距離感が近くなったって事はそう言う事ですよ!きっと!」
それでようやく意味がわかった。
要するに2人はデキてるって事だ。
それなら妙に近しい距離感にも納得出来る。
流石年の功だけあって白狐はそう言う事にも詳しいらしい。
俺が素直にそう褒めると、
「全くここで歳の事言い出すとか、やっぱりクロさんはニブチンですね!」
と白狐が怒ってしまった。
年の功とか言ったのが不味かったか。
しばらく冷ましてから謝ろうと心に決めた。
森に入り出てくる魔物も変化した。
兎系は相変わらずだが、猪に熊にと、ワンズにいた頃によく出会った魔獣が増えた。
中でもクリムゾンベアをボスとする熊の群れがまた出てきたのには苦戦した。
クリムゾンベアはAランクと言うこともあり、金獅子と蒼龍が王化して対応した。
他の面々は次にいつ強敵と出会うとも限らないので王化は控える。
やはり時間制限があるのが厳しいがそれだけ王化した際の能力向上が強大な証拠でもある。
緑鳥の守りは銀狼に任せて俺も熊退治に出る。
ヨルは相変わらず俺の外套のフードの中から、
『危なくなったらいつでも交換してやるからな。』
と言ってきた。
なに、レッドベアくらいなら俺でもなんとかなるさ。
俺は全身火だるまになりながら突貫してきたレッドベアと対峙する。
レッドベアは俺を弾き飛ばす勢いで向かってくる。
俺は跳躍しその突撃を避けながら、その背中に両手のナイフを突き刺した。
レッドベアは自身の特攻の勢いそのままに背中を切り裂かれて呻き声を上げる。
傷口を押さえたいようだが体の構造的に背中には手が回らない。
そんなレッドベアの首元に向けてナイフを走らせると、レッドベアは首筋から血を吹き出して倒れ込む。
あれ?もう終わり?と言う感じだった。
傭兵試験の時にはもっとナイフの刃が通らずに苦戦したはずなんだが。
やはりアダマンタイト製のナイフの切れ味のおかげだろうか。
それとも俺も魔物と戦う中で成長しているのだろうか。
『やっぱりクロよ。お前強くなったな。体の使い方が前とは違う。』
ヨルが言ってくる。
「具体的にはどう変わったん?」
『ナイフの性能もあるだろうが、余計な力が抜けてスムーズな体の運びが出来るようになっとる。まぁ儂の動きを常に感じておるのだ。勉強になるだろうて。』
確かにヨルに体の制御を任せている時の体の運び方は少し意識している。
あぁ、こう動けばいいのかとかこんな動かし方もあるのかとか思いながら見ていた。
だから素直に礼を言う。
「あぁ。ヨルのおかげだな。ありがとう。」
『なんだ?殊勝な態度をとりおって。別に礼などいらん。儂もお前の体で好き勝手にやらせて貰ってるからな。』
照れたように言うヨル。
その後もジャイアントベアなどを退治して血抜きしてから影収納に収めた。
クリムゾンベアも金獅子と蒼龍によって倒されていた。
魔獣は強ければ強いほど美味い。
Aランクの魔獣ともなればその味は格別である。
今日の夕飯の献立を考えながら血抜き作業を進めたのであった。
森に入ってしばらく進むと広い平地に出たので、そこで夜を過ごす事にした。
ふと気になって岩山の方を見れば帝国軍の兵士達の姿が見えてきた。
俺達が戦闘で時間を食ってるうちに近付いてきたらしい。
それでもまだ距離がある。
まぁ今のペースで進むとなれば明日には追いつかれそうだなと思いながらクリムゾンベアで熊鍋を作った。
肉にはちょうど良いサシが入り脂身も甘い。
まさに最上級の肉であった。
これには皆軽い衝撃を受けたようで一様に無言で食べ続ける。
夕飯の片付けをしてから見張り番のペア組みのジャンケンをするのが定番になっていたが、白狐と2人で画策して紫鬼と灰虎がペアになるように仕組んだ。
これも1種の思いやりである。
そんな俺は白狐とペアになった。
白狐と2人でってのも久しぶりな気がする。
俺と白狐は紫鬼と灰虎の恋の行方が気になってそんな会話ばかりした。
そうして夜は更けていった。
結局森を抜けたのは次の日の夕方過ぎになってしまった。
岩山の麓の森を抜けたところは完全なる平地となっており、見渡す限りに等間隔で石が置かれていた。
「なんだか気味が悪いところだねぇ。」
灰虎が言う。
「どことなく寒気もしますよ。」
白狐も言う。
そう言われてみれば体感温度でー5、6度は冷えた気がする。
「これって全部墓石じゃないのか?」
「うむ。等間隔に置かれた石といい、この自然石ではなく四角く成型された形状といい墓石で間違いなかろうて。」
銀狼が気付き、紅猿が答える。
「魔族にも死者を埋葬する習慣があるのでしょうか?」
緑鳥が誰にともなく問い、
『魔人はそもそも魔力を持つ人を指すからな。人であるならば人間と同じく死者を埋葬することがあってもおかしくはあるまい。』
ヨルが答える。
「ってことはここら一面が墓地ってことかい?なんか嫌だねぇ。」
灰虎が言う。
「ん。大丈夫。死んだら襲ってこない。」
黄豹が答えるがどこかフラグっぽい事を言う。
その時、墓石が置かれた辺りの地面が蠢いた。
まるで土の中から何かが這い出てくるかのように。
「なんだ?地震ではないぞ?」
蒼龍が訝しがる。
「これはやばいじゃろ。この数だぞ。」
紫鬼も何かに気付いたように言う。
俺達はしばらく事のなりゆきを見守っていた。
そして、ついに墓石を押しのけて1本の腕が地面から生えた。
その腕の数はどんどん増えていく。
最初は俺達の周りの地面だけが蠢いていたが、それも段々と広がり見渡す限りの墓石が揺らされていく。
「これは出ましたね。」
白狐が言う。
「アンデッドってやつです。」
白狐が言い終わるのと同時に地面から生えている腕が一気に抜け出してその上半身を見せ始める。
かなり硬く埋められているようで出てくるまでに時間がかかる。
それまでに俺達は戦闘準備を済ませる。
『あぶなくなったらいつでも言えよ。交代してやるからな。』
ヨルに言われる。
「あぁ。その時は頼む。」
答えた時には1体がその姿を完全に地上に現わしていた。
ゾンビだ。
次々に地上に姿を現すアンデッド達。
中には完全に白骨となったスケルトンの姿もある。
「来るぞっ!」
金獅子の一言をきっかけにゾンビにスケルトン達が一斉に襲い掛かってきた。
俺達とアンデッドの戦いが始まったのだった。
その間も見渡す限り岩山で草木が生えていない。
出てくる魔物もスライムなんかがほとんどで、たまに出てくるのが鹿の魔獣ワイルドディアやニードルラビット、ブレードラビットなどの低ランクの魔獣くらいなもので、魔獣は倒し次第、血抜きして影収納に格納していっている。
食料は大量に買い込んではいるが、現地調達出来る時にはしっかり確保している。
今も俺達の前には山羊の魔獣ジャイアントゴートが群れをなして襲いかかってきている。
その数約40体。
今は帝国軍は大きく後ろに引き離している為、俺達だけで対処する。
ランク自体は低い為に攻撃が当たりさえすれば倒せるのだが、何せ足元はゴツゴツした軽く高低差もある岩山独特の足場になっており、バランスが悪い。
それに引き換えジャイアントゴートは流石ここに住んでるだけはあってバランス感覚が抜群でぴょんぴょん跳ねるときた。
紫鬼なんかはさっきから空振りパンチばっかり繰り出している。
ここで活躍したのが黄豹だ。
足場が悪い事なんて気にもしていないかのように身軽な動きでジャイアントゴートを追い回し手にした刃付トンファーで狩っていく。
「うぬぬ。当たらん!」
紫鬼が癇癪を起こしたように地団駄を踏んでいる。
紫鬼の次に苦戦していたのが灰虎。
先の戦いで両腕の手甲に付いていた鉤爪が折れて仕舞った為にその両手の爪が唯一の武器になってしまっている。
元々闘技場でも今のスタイルで戦っていたとのことで、戦闘自体に問題はないらしいが、リーチが短くなった分戦い辛そうだった。
逆に上手い動きをしていたのは蒼龍と紅猿だ。
2人ともに槍と棍という長物を取り扱っている為、リーチ長い。
ぴょんぴょん跳ねるジャイアントゴートもその長さを活かした攻撃で沈めていく。
金獅子も獲物が長大な大剣という事でリーチはあったのだが流石にその重さもあり上手い事攻撃が当たらなかった。
俺は銀狼と共に緑鳥の護衛だ。
少しでも近付いてくる奴がいれば俺が両手のナイフで斬りかかる。
その攻撃を避け緑鳥に迫る奴がいても銀狼が片腕で振るった剣によってとどめを刺した。
討伐自体は1時間近く時間を要したが、こちらに被害はなく、生きの良い肉を手に入れたのだった。
岩山は昇ったり降ったりの繰り返しで、一向に頂上に辿り着かなかった。
少し平地に出た為、食事休憩にする。
メニューは先程狩ったばかりの山羊肉を塩コショウで焼いたものにする。
影収納に入れておけば鮮度はそのままだが、せっかくなら狩ってすぐ食べた方が気分的にはいい。
その辺に転がっている岩を使って即席の竈を作ると、山羊肉を直火で焼いていく。
やっぱりこういう時は魔道コンロじゃなく直火に限る。
全員分の骨付き肉を焼き、皆で一緒に食べる。
もう何度目になるか分からない大勢での食事。
慣れるまではどこか気恥ずかしさがあったが、今は皆で食べるのが当たり前になった。
これも俺が“普通“になってきた証拠かもしれない。
必然話題は今いる岩山についてになった。
「最短を行くつもりで直進したが、この岩山を迂回するルートもあったのかもしれんな。」
金獅子が言い出すと、
「いや九大魔将が配置されてたんじゃ。何にも無いところに魔将は配置しないじゃろ?だからこのルートが1番のはずじゃ」
紫鬼が反論する。
「そうだよ。ここまで来て周りを見渡しても全部岩山なんだ。きっとこの岩山を越えない限り先には進めないのさ。」
灰虎も言う。
「まぁ迂回路があったとしても今更だろう。さっさとこの山を降りる事を考えようや。」
銀狼が締めた。
『おい。クロよ。そんなことより肉が足りんぞ。もっと焼け。』
「うむ。拙者ももう少し食べたいのである。」
ヨルが言うと紅猿も続ける。
「じゃあもっと食べたい人は?手上げて。」
俺が言うと全員手を上げた。
と言うことで先程の竈で再度山羊肉を焼く。
同じ味付けでもいいが少し味変したいなと思った俺は味噌を塗って焼いてみた。
「なにこれ?!美味しいじゃない!」
「ん。さっきのよりこっちのが好き。」
「私もこちらの方が好きですね。」
「わたしもこちらの方が食べやすく感じました。」
灰虎と黄豹、白狐に緑鳥と女性陣にはこちらが好評。
「俺様はさっきのやつの方が好みだな。肉を食ってる感じがした。」
「拙者も先程の塩コショウの方が好みである。」
「ワシもどっちかと言えば塩コショウの方じゃな。」
金獅子と紅猿、紫鬼が言うが、
「作って貰っといて文句言うなよ?オレは両方好きだぜ。」
「うむ。どちらも美味だ。」
『儂は肉が喰えればどっちでもかまわん。』
銀狼と蒼龍、ヨルはどちらでもとの事だ。
今度は女性陣向けてと男性陣向けで味付けを変えて出した方がいいだろうか?
そんな事をカ考えながら食事を済ませるのだった。
食事を終えてから2時間程度登ったりところでようやく頂上に辿り着いた。
そこからは他に遮る物はなく遠くの龍鳴山脈まで見えた。
蒼龍曰く、龍鳴山脈の方が標高は高いらしい。
大陸一高い場所が龍鳴山脈の頂上なのだとか。
そんなうんちくを聞きながら下山する。
頂上から見ても下一面が岩肌に覆われていた為、下山にも3、4日はかかりそうな雰囲気である。
俺達は適度な休憩を挟みつつ下山を続け、夜になる前に適当な平地を見つけるとそこで一晩過ごすのだった。
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その間も相変わらず山羊やら鹿やら兎やら羊やらの魔獣に出くわしたが、そいつらは今は皆影収納の中に収まっている。
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白狐にそれとなく言ってみると、
「確かにそうですね。これはもしかしたらもしかするかもですよ。」
と訳のわからん返しが来た。
もしかしたら、もしかする。
“もしか“をしたならば“もしか“する。
当たり前の話だろう。
何言ってんだ?と思って白狐を見返していると、
「あの2人ですよ。良い感じなのかもしれないって事ですよ。」
「良い感じ?」
「全くクロさんは恋愛の機微ってのが分かってないですね。いいですか?2人だけの見張り番の後から妙に距離感が近くなったって事はそう言う事ですよ!きっと!」
それでようやく意味がわかった。
要するに2人はデキてるって事だ。
それなら妙に近しい距離感にも納得出来る。
流石年の功だけあって白狐はそう言う事にも詳しいらしい。
俺が素直にそう褒めると、
「全くここで歳の事言い出すとか、やっぱりクロさんはニブチンですね!」
と白狐が怒ってしまった。
年の功とか言ったのが不味かったか。
しばらく冷ましてから謝ろうと心に決めた。
森に入り出てくる魔物も変化した。
兎系は相変わらずだが、猪に熊にと、ワンズにいた頃によく出会った魔獣が増えた。
中でもクリムゾンベアをボスとする熊の群れがまた出てきたのには苦戦した。
クリムゾンベアはAランクと言うこともあり、金獅子と蒼龍が王化して対応した。
他の面々は次にいつ強敵と出会うとも限らないので王化は控える。
やはり時間制限があるのが厳しいがそれだけ王化した際の能力向上が強大な証拠でもある。
緑鳥の守りは銀狼に任せて俺も熊退治に出る。
ヨルは相変わらず俺の外套のフードの中から、
『危なくなったらいつでも交換してやるからな。』
と言ってきた。
なに、レッドベアくらいなら俺でもなんとかなるさ。
俺は全身火だるまになりながら突貫してきたレッドベアと対峙する。
レッドベアは俺を弾き飛ばす勢いで向かってくる。
俺は跳躍しその突撃を避けながら、その背中に両手のナイフを突き刺した。
レッドベアは自身の特攻の勢いそのままに背中を切り裂かれて呻き声を上げる。
傷口を押さえたいようだが体の構造的に背中には手が回らない。
そんなレッドベアの首元に向けてナイフを走らせると、レッドベアは首筋から血を吹き出して倒れ込む。
あれ?もう終わり?と言う感じだった。
傭兵試験の時にはもっとナイフの刃が通らずに苦戦したはずなんだが。
やはりアダマンタイト製のナイフの切れ味のおかげだろうか。
それとも俺も魔物と戦う中で成長しているのだろうか。
『やっぱりクロよ。お前強くなったな。体の使い方が前とは違う。』
ヨルが言ってくる。
「具体的にはどう変わったん?」
『ナイフの性能もあるだろうが、余計な力が抜けてスムーズな体の運びが出来るようになっとる。まぁ儂の動きを常に感じておるのだ。勉強になるだろうて。』
確かにヨルに体の制御を任せている時の体の運び方は少し意識している。
あぁ、こう動けばいいのかとかこんな動かし方もあるのかとか思いながら見ていた。
だから素直に礼を言う。
「あぁ。ヨルのおかげだな。ありがとう。」
『なんだ?殊勝な態度をとりおって。別に礼などいらん。儂もお前の体で好き勝手にやらせて貰ってるからな。』
照れたように言うヨル。
その後もジャイアントベアなどを退治して血抜きしてから影収納に収めた。
クリムゾンベアも金獅子と蒼龍によって倒されていた。
魔獣は強ければ強いほど美味い。
Aランクの魔獣ともなればその味は格別である。
今日の夕飯の献立を考えながら血抜き作業を進めたのであった。
森に入ってしばらく進むと広い平地に出たので、そこで夜を過ごす事にした。
ふと気になって岩山の方を見れば帝国軍の兵士達の姿が見えてきた。
俺達が戦闘で時間を食ってるうちに近付いてきたらしい。
それでもまだ距離がある。
まぁ今のペースで進むとなれば明日には追いつかれそうだなと思いながらクリムゾンベアで熊鍋を作った。
肉にはちょうど良いサシが入り脂身も甘い。
まさに最上級の肉であった。
これには皆軽い衝撃を受けたようで一様に無言で食べ続ける。
夕飯の片付けをしてから見張り番のペア組みのジャンケンをするのが定番になっていたが、白狐と2人で画策して紫鬼と灰虎がペアになるように仕組んだ。
これも1種の思いやりである。
そんな俺は白狐とペアになった。
白狐と2人でってのも久しぶりな気がする。
俺と白狐は紫鬼と灰虎の恋の行方が気になってそんな会話ばかりした。
そうして夜は更けていった。
結局森を抜けたのは次の日の夕方過ぎになってしまった。
岩山の麓の森を抜けたところは完全なる平地となっており、見渡す限りに等間隔で石が置かれていた。
「なんだか気味が悪いところだねぇ。」
灰虎が言う。
「どことなく寒気もしますよ。」
白狐も言う。
そう言われてみれば体感温度でー5、6度は冷えた気がする。
「これって全部墓石じゃないのか?」
「うむ。等間隔に置かれた石といい、この自然石ではなく四角く成型された形状といい墓石で間違いなかろうて。」
銀狼が気付き、紅猿が答える。
「魔族にも死者を埋葬する習慣があるのでしょうか?」
緑鳥が誰にともなく問い、
『魔人はそもそも魔力を持つ人を指すからな。人であるならば人間と同じく死者を埋葬することがあってもおかしくはあるまい。』
ヨルが答える。
「ってことはここら一面が墓地ってことかい?なんか嫌だねぇ。」
灰虎が言う。
「ん。大丈夫。死んだら襲ってこない。」
黄豹が答えるがどこかフラグっぽい事を言う。
その時、墓石が置かれた辺りの地面が蠢いた。
まるで土の中から何かが這い出てくるかのように。
「なんだ?地震ではないぞ?」
蒼龍が訝しがる。
「これはやばいじゃろ。この数だぞ。」
紫鬼も何かに気付いたように言う。
俺達はしばらく事のなりゆきを見守っていた。
そして、ついに墓石を押しのけて1本の腕が地面から生えた。
その腕の数はどんどん増えていく。
最初は俺達の周りの地面だけが蠢いていたが、それも段々と広がり見渡す限りの墓石が揺らされていく。
「これは出ましたね。」
白狐が言う。
「アンデッドってやつです。」
白狐が言い終わるのと同時に地面から生えている腕が一気に抜け出してその上半身を見せ始める。
かなり硬く埋められているようで出てくるまでに時間がかかる。
それまでに俺達は戦闘準備を済ませる。
『あぶなくなったらいつでも言えよ。交代してやるからな。』
ヨルに言われる。
「あぁ。その時は頼む。」
答えた時には1体がその姿を完全に地上に現わしていた。
ゾンビだ。
次々に地上に姿を現すアンデッド達。
中には完全に白骨となったスケルトンの姿もある。
「来るぞっ!」
金獅子の一言をきっかけにゾンビにスケルトン達が一斉に襲い掛かってきた。
俺達とアンデッドの戦いが始まったのだった。
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「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
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