黒猫と12人の王

病床の翁

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侵攻1

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 そんなこんなで昼夜戦闘を繰り返しながらガダン跡地に向かっていた俺達であったが、城塞都市モーリスを出立してちょうど1週間が経過する頃になってようやくその姿を確認する事が出来た。

 近付いてみた元要塞都市ガダンはその防壁が破壊され、家々も破壊、延焼していた。
 砦部分についても同様であちこちに焦げた跡が残る。
 そんな中、銀狼はまだ辛うじて家の様相を残した区画に足を向けた。
 一軒の家の前で立ち止まり、扉をノックする銀狼。最初は反応がなかったが2度3度とノックし続けるうちに扉が開けられた。
「なんじゃ?誰じゃ?なんの用じゃ?」
 老人は訝しむように扉を半分程度開けて首を出す。
「やぁじいさん。オレの事覚えているか?」
 銀狼が顔を見せる。
 老人はまじまじとその顔見て何かを思い出したようだった。
「あぁ!あの時の青年か。その銀髪はやはり目立つの。一瞬誰だかわからんかったがその銀髪で思い出したわい。」
「今日はじいさんに伝えたい事があって来たんだ。」
 銀狼が言う。
 老人は、
「まぁ中に入ってゆっくりするといい。」
 と銀狼を室中へと誘うがこれを銀狼は遠慮した。
「いや。実は仲間を多数連れていてな。皆で押しかけたら大変な事になる。話はここで。」
「そうか。で、どうしたというんじゃ?」
 老人が問う。
 これに対して銀狼は
「実はこれからオレ達は魔族領に進撃して魔族軍を壊滅させてこようと考えている。」
「なにを言い出すんじゃ?あんな化け物をまた相手にすると言うのか?せっかく拾った命じゃ大切にした方がいい。」
 老人は諫めるように言う。
「大丈夫だ。もうあの時のオレじゃない。それに仲間達もいる。今日はこの街の仇を取ってくるとじいさんに伝えたくて立ち寄ったんだ。」
「そうか。また仲間を集めたのか。わかった。くれぐれも気を付けて言ってきておくれ。出来るなら仇を取ってきておくれ。ただ危なくなったら逃げるんじゃぞ?」
 銀狼は強く頷く。
 そして老人の元を去るのであった。

「あのご老人とはどういった関係で?」
 白狐が気になったのか銀狼に問う。
「あぁ。以前の魔族侵攻の際に傷つき倒れていたオレを介抱してくれたのがあのじいさんだったんだ。」
「それから随分と日が経つのにまだこの地にいるなんて変わった人ですね。」
 白狐が単純に感想を口にする。
「頼れる親族もなく、別の町に行っても生活できないと言っていた。それにもうすぐ帝国軍が来てくれると信じていた。実情はまだ帝国軍は来ていないようだが。」
「確かに帝国では特に軍の出撃とかの話は聞かなかったかな」
 帝国の闘技場にいた灰虎が言う。
「うむ。我々が真っ先に魔族領に向かう一番槍である。」
 紅猿も言う。
「あぁ。だからオレは団員達の、いや街の皆の敵討ちを決意したんだ。ここに来て改めてその想いが強くなった。」
 銀狼は言う。
「それにしても街は破壊の限りを尽くされた状態だな。なにをしたらここまで酷くなるのか。」
 蒼龍が声に出す。
「魔法だ。あの目玉の魔神は魔法を使っていた。それこそ橙犬が使うファイアボールだ。だがその威力はけた違いだった。一撃で城門が吹き飛んだよ。」
「なに?オイラだって王化すればそのくらいの威力は出せるんだぞ。王化すれば大地からも魔素を吸収出来てどんな魔術も威力が増すんだ!」
「そうだな。橙犬もあの威力は出せるかもしれない。だがあいつは詠唱もなしにぽんぽん魔法を打ち出してきた。残念ながら魔法使いと魔術師では明確な差が存在するようだ。」
 銀狼は橙犬を宥める。
「そんな魔人を相手取るわけだな。」
 蒼龍が言う。
 何処か思案顔だ。
 何事かと思っていると、
「魔法が連発で繰り出されるのだとすれば我々は神から授かった技で対抗出来ないか?それこそ詠唱もいらない。各自様々な属性の加護を受けているんだ。相手が炎を使うというのなら水属性の我が出た方が良いのではないだろうか?」
 と言い出した。
 これに対して銀狼は言う。
「いや。奴だけはオレのこの手で倒す。やつの連れる単眼の魔物達も相当なものだ。特に単眼の大鬼、サイクロプスは脅威だった。皆にはそいつらの相手を頼みたい。オレがあの魔人とさしで勝負出来るように。」
 その決意は固そうだった。
 蒼龍は諦めて言う。
「わかった。ただ無理はするなよ。我らもついているのだ。もしもの時は頼ってくれて構わないからな。」
「あぁ。感謝する。」
 銀狼が言うとこの話題は終了となった。
 俺達は元要塞都市ガダンを出立し、北の魔族領に向けて歩みを進める。

 ガダンを出てからも魔物には遭遇した。
 その多くはオーク種だったが、1度にだけ誰も見た事のない魔物達に遭遇した。
 その魔物はスライムのようなゼリー状の人型をしており、斬ってもその破片がまた本体へと戻って行き、一向に倒しきれなかった。
「双狼刃!」
 銀狼が闘気を纏わせた双剣を頭上に構えて勢いよくクロスに切り裂く。
 一時的には4つに切り分けられた魔物だったが、やはり斬った4つの破片が中央へと集まって来て再び人型を成す。
「なんだこいつは?!斬っても斬っても元に戻るぞ!」
 銀狼は皆に聞こえるように言う。
 その魔物はちょうど7体で橙犬と緑鳥を護る俺と紫鬼以外の面々と1対1で戦っている。
「私の斬撃でもダメです!数十に切り分けても元に戻ります。まるで魔核がないようです!」
 その手にもつ刀で滅多斬りにした白狐も言う。
「拙者もダメである。棍で爆散させてもなお蘇るのである。」
 棍を振り回した紅猿が言う。
「アタイの爪撃でもダメだよ!バラバラにしてるんだけど戻っちゃう。」
 その両腕の鉤爪を縦横無尽に振るった灰虎も言う。
「むむ。俺様の剣でも駄目だな。」
 大剣で人型スライムを真っ二つにした金獅子が言う。
「ん。僕もダメ。」
 その両手にもつ刃付きトンファーで微塵切りにした黄豹も言う。
「我の槍撃も効かんな。」
 手にした三又の槍で滅多刺しにした蒼龍が言う。

 ここでもまた橙犬が大活躍だ。
「みんな下がって!」
 そう言うと呪文を唱え始める。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。氷の力へとその姿を変えよ。」
 杖の先にまた魔法陣が描かれ始める。
「魔素よ凍れ、凍れよ魔素よ。我が目前の敵達をその氷で突き倒し氷塊へと変えと給え!アイシクルランス!!」
 今度は魔法陣から全長10cm程度の氷の槍が数十個生まれ、敵に向かって飛んでいき、人型のスライム達を貫き凍らせる。
 凍った人型スライム達はそのまま倒れ込み、砕け散ったのだった。
「やはり凄いな魔術と言うのは。火炎魔法だけなく氷結魔術も使えたのか。」
 紅猿が橙犬に言う。
「オイラは火炎魔法が得意なだけで他の属性の魔術も使えるんだぞ。」
 得意げになって橙犬は言うのであった。

 ガダン跡地を出てからさらに4日が経った頃、ようやく元々聖邪結界が張られていた場所までたどり着いた。
 緑鳥が言う。
「わたしも聖王としてその座を継いだ時にこちらに一度参ったことがございます。その時には天まで届く強大な結界が張られていたのですが、今は見る影もありませんね。」
 また呪詛返しを受けた時の事を考えているのかもしれない。
「いずれにせよ。邪神の復活と魔族侵攻が関連しているのであれば結界は破られていたさ。あんたが気にする事はないよ。たまたまその方法が呪詛返しだっただけだ。あんたは悪くないさ。」
 灰虎が慰める。
 白狐と3人で行動していた時に仲が深まったのだろう。
 俺が続けて言う。
「そうだぞ。後悔役に立たずだ。」
 灰虎が訝しがる。
「それを言うなら後悔先に立たずだろう?」
「いや。俺の親父の口癖だったんだ。後悔しても過去には戻れない。だったら後悔するのではなく反省して次に活かせるようにしろって意味らしい。」
「そうですね。後悔ではなく、反省。良い言葉ですね。」
 緑鳥は言ってくれた。
「わたしもいつまでも後悔していても仕方ありませんね。気持ちを切り替えて今後の事を考える事に致します。」
「そうだ。それがいい。」
 俺は言ってやった。
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