黒猫と12人の王

病床の翁

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旅路

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 翌朝俺達一行は城塞都市モーリスの領主カイゼスの元を訪れていた。
 今日ここを立つ事を伝えに来たのだ。
 再び領主邸宅の会議室へと通される俺達。
 会議室にはなぜかあの勇者パーティーもいた。
 聞けばモーリスに滞在中は領主邸で過ごしているらしかった。
 代表して銀狼が言う。
「お陰様でこうして待っていた仲間達とも合流出来た。我々は今日ここを立とうと思っているんだ。今はその事を伝えに来た。」
 相手が貴族だろうと謙ったりはしない。
「そうか。行ってしまうのか。それは残念である。」
 カイゼスが言う。
 そこでまたあの戦士ライオネルが声を上げる。
「なにこんな奴等いなくたって俺達には勇者様がいらっしゃる。なんの問題もなかろう。」
「そうですよ。勇者様がいれば何も心配する事はありません。」
 聖女サーファも続く。
「えぇ。それはもう頼りにさせて頂きます。」
 カイゼスが謙って言う。そのまま視線を銀狼に戻し、
「それでその方らはこれから何処へ向かうのだ?」
 質問を投げかけてきた。
「我々はこのまま魔族領へと進撃し、魔将を打ち倒しに向かう予定だ。」
 素直に答える銀狼。
 これにはまたしてもライオネルが騒ぎ出す。
「なんだと?!勇者様を先置いて魔族領に向かうだと!」
「そうだよ!あたし達が帝国軍と合流してから向かう予定なんだ。抜け駆けは許さないんだからね!」
 魔術師ドリストルも喚き出す。
 そこで勇者バッシュが口を開く。
「まぁいいさ。近々帝国軍も合流するだろう。そうしたら僕達も魔族領に攻め込む。彼等には精々梅雨払いをして貰おうじゃないか。」
「まぁなんて心の広い、流石は勇者様ですわ。私、惚れ直しましたわ。」
 サーファが言う。
 何回惚れ直せば気が済むのだろう。
 そんな訳で話し合いは終わり、俺達は領主邸を出るのであった。

 ここから先、魔族領に入れば逗留出来る街もなく野宿確定である。
 水や食料の確保も難しいかもしれない。
 そこで俺はまだ伝えていなかった面々に影収納について説明した。
「なんと!?格納した時のまま保存が出来ると?しかも、容量制限なしだと?そんな便利な術があったのか。」
 金獅子が驚いて言う。
『ふふふっ。儂の術じゃ。凄いだろ。もっと褒め称えよ。』
「つまりここで水や食料の確保をして影収納に格納して貰えば魔族領に入ってから水や食料を探し求める必要もなくなるのだな?」
 ヨルの呟きを無視して蒼龍に念を押される。
「あぁその認識で大丈夫だ。ただこの街も防備を固める為に水や食料の確保をしているだろう。それに物流も正常に機能していない街であれもこれも買い占める訳にはいかない。」
「いかにも。黒猫の言う通りである。」
 紅猿が頷く。
「では我らは街に負担がかからない程度に水に食料、それに野営の準備に必要なものを買い集めれば良いのだな?」
 蒼龍が問いかける。
「あぁそれでいい。夜間の出立は避けたいからな。皆で手分けして昼前には北門に集合するってのでどうだ?」
 俺の意見に皆賛成してくれる。
「では水の確保、食料の中でも野菜類の確保、肉類の確保、野営の準備品の確保の4チームに分かれましょう。」
 白狐の提案で3人一組となる。
 銀狼と金獅子と蒼龍は野営の準備品を、紅猿と黄豹と緑鳥は水を、紫鬼と橙犬と灰虎は肉類を、俺に白狐、そしてヨルは野菜類をそれぞれ買い出しに出掛けた。

 他の面々がいない白狐と2人きりで街を歩くのは久しぶりだ。
 紫鬼が合流してからと言うもの必ず誰かが一緒だった。
 あげく、
「久々に2人きりですね。デートみたいですね。」
 などと白狐が言うものだから余計に意識してしまう。
『儂がいる事を忘れるなよ』
 ヨルが定位置の俺のフードの中から言う。
「あら。無粋ですよヨルさん。今は2人きりの状況を楽しませてくださいよ。」
『ふん!、勝手にしろ。儂は寝る。』
 そう言うとフードの中で丸くなるヨル。
 ここまで2人きりを強調されると緊張してくる。
「でクロさん、どの様な野菜をご所望で?」
「知っての通り俺の得意料理はカレーであとは簡単な炒め物くらいしか作れないからな。カレーに入れる具材と、肉と一緒に炒められる野菜が欲しい。」
「なるほど。じゃあ店主に聞いてみるのが1番ですね。」
 八百屋の前に着くと白狐が店主と思しきおやじさんに声をかける。
 店主は、
「お?その初初しさはもしかして、新婚さんかい?魔族の侵攻だの暗い話ばっかりだからね。少しオマケしておくよ。」
「わぁ。ありがとうございます。新婚さんですってクロさん。」
 喜ぶ白狐、俺は若干苦笑いだ。
 店主が選んでくれた野菜類を受け取る白狐。
 俺は会計すると、買った物を影収納に収めて次の八百屋を目指した。

 昼前には街中の八百屋を回り終え、北門に到着した。
 先に着いていたのは銀狼達だけだった。
 俺は野営の準備品を預かると影収納に入れていく。
 しばらく待つと紫鬼達もやってきた。
 やはり取り扱っている肉の種類に馴染みがなく、何を買ったらいいか悩んだそうだ。
 そんな肉類を受け取り影収納に収める。
 それからしばらくすると台車をひいた紅猿達がやってきた。
 大量の水を運ぶには重すぎて持ちきれず台車を借りてきた為に遅くなったらしい。
 確かに1番量が必要で重いのは水だった。
 分担割りを間違えたなと思いつつも紅猿達が買ってきた水も影収納に格納する。
 全て格納し終わると黄豹は台車を返しに行った。

 黄豹が戻ってくる前に最終確認を行う。
 俺は収納品一覧を見ながら点検する。
 野営準備よし、肉類よし、野菜類よし、水よし、もしもの時の携行食よし、橙犬のお菓子よし。買い漏れはなさそうである。
 ここから先、魔族領に入る為、聖都からここまで乗ってきた馬達は厩舎に預けたままにする事になっていた。
 そうこうしている間に黄豹が戻ってくる。
 いよいよ魔族領に出発だ。
 俺達は北門を抜けて北を目指す。

 城塞都市モーリスを出て一路北に向かう俺達。
 まずはすでに陥落していることが判明している要塞都市ガダンの跡地を目指す。
 銀狼曰くまだその地に残っていた人がいて、その人には随分と助けられた為、状況を確認したいとの事だった。

 モーリスからガダンまでの道のりは1週間程度。
 その導入にもゴブリンやホブゴブリンと言った魔物がまだ出没した。
 さすがにFランクやDランクの魔物に手こずることもなく、難なくこれを撃退する俺達。
 銀狼、金獅子、蒼龍、黄豹が前衛を務め、紅猿、白狐、灰虎が遊撃として中衛を担い、俺と紫鬼が最後衛の橙犬と緑鳥を護る陣形で戦闘を進める。
 しかしゴブリンにしてもホブゴブリンにしても今まで戦ったやつらとはどこか違っていた。
 なんと言うが知恵がついた感じだ。
 連携なんかも行っていた。
 もしかしたら魔族領で生まれ育った魔物だったのかもしれない。
 魔族領の魔物は人族領のそれより強大だと言うからな。

 その後も豚頭の獣魔物のオークや猪頭のハイオークなどに遭遇した。
 このあたり銀狼は今までも対峙したことがあるとの事で銀狼の指示により俺達は連携をとる。
 1番数が多かったのはオーク20体にハイオーク4体の集団だ。
 オークは身長170㎝ちょっとのEランク、ハイオークは2mちょいのDランク、横幅が普通の人間の2倍近くある巨漢でその動きは鈍重だ。
 どこで仕入れたのかオーク達は鉄の鎧を身に纏い、手には斧や長剣を手にしている。
 まず前衛の銀狼、金獅子、蒼龍、黄豹が飛び出しハイオークと激突する。
 残ったオークには紅猿、白狐、灰虎が挑む。
 俺と紫鬼は橙犬と緑鳥を護るようにその左右を挟む。

 銀狼達は数合刃を合わせるも余裕をもって対応する。
 紅猿は手にした棍を振り回しオークの頭を爆散させ、白狐は一刀のもとに首を刎ねる。
 灰虎は両腕に付けた手甲に生やした鉤爪でオークの体を切り刻む。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え!ファイアボール!!」
 橙犬が唱えた魔術により一気に2体のオークが燃え上がる。
 きちんと連携を考えており白狐達3人には当たらない場所に打ち込んでいた。
 成長したものである。
 その猛攻を掻い潜り2体のオークが橙犬に近付いたが俺と紫鬼の攻撃により呆気なく撃沈。
 こうして俺達は危なげなく、これを撃退した。

 道中の野営では俺お手製のカレーを振舞ったり、肉野菜炒めを作って振舞ってみたりしたが、皆旅の途中とは思えない食事だと言っていた。
 全員に高評価を貰い、内心ガッツポーズである。

 ガダン跡地に向かうにつれて出没する魔物が強くなっていった。
 ゴブリンにしてもジェネラルやキング、オークもオークジェネラルといった全身鎧を身につけたCランクの猪頭やオークキングと言った多くの配下を持つBランクの魔物まで現れた。
 銀狼曰く、以前はここまで強大な魔物は出現しなかったとの事で、これも聖邪結界が崩れ魔族領から流れてきた魔物が多くいると言う事なのだろう。

 1度に相当数の魔物が襲いかかって来るようになったが、これには橙犬が大活躍した。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。」
 杖の先に魔法陣が描かれ始める。
「魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の火球となりて打倒し給え!ファイアショット!!」
 魔法陣から直径10cm程度の火球が数十個生み出され、魔物達へと向かい1度に数十の敵を火炎に包み込む。
 魔術で撃ち漏らした魔物達には前衛が対応する。

 Bランクの魔物、オークキングは2m越えの巨漢で両手で巨大な両刃の斧を持っていた。
 その膂力は凄まじく手近の巨大な樹も一撃で断ち切るほどだった。
 相当なパワーファイターであるこれには同じく膂力に自信がある金獅子が対峙する。
 巨大な斧をまるで木の枝を振り回すが如き勢いでぶん回すオークキングであったが、その攻撃はすべて金獅子が持つ横幅が細身の女性くらいある幅広で2m近く刃部分が伸びる大剣によって阻まれ、金獅子を傷つける事は出来ない。
 大きく巨大斧を跳ね上げた金獅子は1歩踏み出して跳躍、振り上げた大剣をオークキング頭に叩きつける。
「断頭斬!」
 相当な重量のある大剣を力いっぱい、かつ重力による加重も乗せて叩きつけられたオークキングは、その頭に兜をかぶっていたにも関わらずヘソ辺りまで大剣をめり込ませ、半分になって息絶えた。

 もはやBランクには無傷で出来るようになっている俺達は戦闘を繰り返しながら先へ進む。

 段々と普通人族領ではあまり見かけないような魔物が増えてきている。
 これも聖邪結界が崩れた影響で魔族領の魔物が流れてきている証拠だろう。

 特に驚いたのは最弱と言われている数十のスライム達がゴブリンキングを捕食している場面を見た時だった。
 スライムと言えば万年Fランクの魔物であり、対するゴブリンキングと言えばCランクである。
 魔族領と人族領では3ランクの差を埋めるほどの力の差があるらしかった。
 このスライムが特殊だったのかもしれないが。
 なかなかに手こずった。
 近づこうとしても溶解液を飛ばしてきて接近を妨害し、自身はその体を針のように伸ばしこちらを攻撃してくる。
 このような戦い方をするスライムは見たことがなかった。
 しかし、ここでも橙犬が大活躍を見せた。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。」
 杖の先にまた魔法陣が描かれ始める。
「魔素よ燃え盛れ、燃え盛れ魔素よ。我が目前の敵達に数多の燃え盛る矢となりて打倒し給え!ファイアシアロー!!」
 魔法陣から全長10cm程度の燃え盛る矢が十数個生み出され、スライム達へと向かう。
 その矢は的確にスライムの弱点となる魔核を貫き燃え上がらせる。
 物理攻撃が効きにくい性質のスライムであったがそのほとんどを橙犬の魔術によって打ち倒し、うち漏らしたスライム達も白狐や灰虎、黄豹の素早い連撃により体を削られ魔核が露わになった所を貫かれ倒れていった。

 橙犬による遠距離攻撃と白狐達による素早い動きによりほぼダメージはなく、スライム達を撃退は出来たものの、やはりその数が大量だった事もあり、スライム相手の戦闘とは思えないくらいの疲労感が後には残った。
 そこで活躍したのが緑鳥の聖術である。
 傷を治す効果だけでなく疲労感も取ってくれるらしい。
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」
 緑鳥がそう言うと手にした錫杖についた魔石が輝き出し、温かな光が俺達全員を包みこむ。
 なんと言うか全身ぬるま湯に浸かったような温かさを感じ、次の瞬間には疲労感が吹っ飛んでいた。
 流石聖術。
 受けたのは初めてだがその効果は紫鬼が受けているのを見て知っていた。
 全員に対して一度に奇跡を起こせるというのも強みになるだろう。

 こうして戦闘を繰り返しながらも俺達は要塞都市ガダンの跡地を目指すのであった。
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