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26話 目撃者

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太郎は、東雲姉妹と一緒にショッピングモールを歩いていた。普段は威厳のある生徒会長としか見ていなかった東雲が、妹の手を優しく握り、時折微笑みかけている姿に、新鮮な驚きを感じていた。

「ねえねえ、お姉ちゃん!アイス食べたい!」

あかりが甘えるように言う。

「もう、さっきジュース飲んだでしょ」

東雲が優しく諭すが、あかりは諦めない。

「でも...」

あかりが泣きそうな顔をすると、東雲はため息をつき、太郎の方を見た。

「鳴海くん、悪いけどちょっと休憩していい?」

「あ、はい。全然構いません」

三人はフードコートに向かった。太郎は東雲とあかりのアイスを買って戻ってきた。

「ありがとう、鳴海くん」

東雲が微笑みかける。その笑顔に、太郎は思わずドキリとした。

「いえ...大丈夫です」

あかりはアイスを美味しそうに食べながら、太郎に話しかけた。

「ねえねえ、太郎お兄ちゃんはお姉ちゃんと仲良し?」

「えっ!?」

突然の質問に、太郎は戸惑う。

「そ、そうだね。仲良くなれたらいいなって思ってるよ」

太郎がドギマギしながら答えると、あかりは不思議そうな顔をした。

「そうなんだ。お姉ちゃんのこと好き?」

その言葉に、太郎はあかりの頭を撫でていた手を止めた。東雲は、くすくすと笑いながら言った。

「太郎お兄ちゃんとは知り合ったばかりだからこれから仲良くなっていくのよ」

太郎は驚いて東雲を見た。

「そうなんだ!あかりも一緒!」と元気に笑う。

あかりがアイスを食べ終わると、三人は再び歩き始めた。

「ねえねえ、太郎お兄ちゃん!あっちのおもちゃ屋さん行きたい!」

あかりが太郎の手を引っ張りながら言う。

「あかりちゃん、行ってみようか」

三人でおもちゃ屋に向かう途中、太郎は東雲の意外な一面を垣間見ていた。普段の凛とした雰囲気とは違い、妹に対しては優しく接する東雲。その姿に、太郎は何か新しい感情を覚えていた。

おもちゃ屋に入ると、あかりは興奮して走り回る。東雲は苦笑しながらも、優しく見守っている。

「鳴海くん、付き合わせてごめんなさいね」

「いえ、全然...むしろ楽しいです」

太郎が答えると、東雲は少し意外そうな顔をした。

「そう...嬉しいわ」

その瞬間、二人の視線が合う。太郎は、東雲の瞳に吸い込まれそうになった。

「あの...東雲先輩...」

太郎が何か言いかけたその時、

「会長!」

元気な声が響き、二人は慌てて顔を離した。振り向くと、そこには生徒会の副会長、佐々木美穂が立っていた。

「あら、佐々木さん」

東雲が挨拶する。佐々木は、太郎と東雲を交互に見て、にやりと笑った。

「まさか...デートですか?」

佐々木の言葉に、東雲は珍しく動揺した様子を見せる。

「ち、違うわよ!これは...」

普段の冷静さを失った東雲の姿に、太郎は驚きを隠せなかった。頬を赤らめ、言葉を詰まらせる東雲。今まで見たことのない表情だった。

「あ、あの...」太郎も慌てて説明しようとする。「これは偶然で...」

その時、あかりが戻ってきた。

「お姉ちゃん!このぬいぐるみ欲しい!」

佐々木は目を丸くした。

「お姉ちゃん...?」

東雲は深呼吸をして、落ち着きを取り戻した。

「ええ、この子は私の妹よ。今日は映画を観に来ていて、偶然鳴海君と会ったの」

佐々木は納得したように頷いたが、まだ意味ありげな笑みを浮かべている。

「そうですか...でも、二人とも距離が近いですよ?」

太郎と東雲は思わず顔を見合わせ、すぐに半歩離れる。

「気のせいよ」東雲が咳払いをする。「それより、佐々木さんこそ何をしているの?」

「私は友達と買い物です。でも、会長のデート現場を目撃するとは思いませんでした」

「だから、デートじゃないって...」

東雲が言い返そうとするが、あかりが無邪気に言った。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんと仲良し!」

その言葉に、三人は言葉を失った。太郎は、自分の心臓の鼓動が聞こえるほど緊張していた。

「まあ...」佐々木がくすくす笑う。「お二人のプライベートを邪魔してすみません。私はこれで」

佐々木は意味ありげなウインクをして去っていった。残された太郎と東雲は、気まずい沈黙に包まれる。

「あの...」太郎が口を開く。

「ごめんなさい」東雲が小さな声で言った。「こんな誤解を...」

その言葉に、太郎は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。誤解...そう、これは誤解なのだ。でも、なぜか少し寂しい気持ちになる。

「いえ...僕こそ」

二人は再び目を合わせた。そこには、言葉にできない何かが浮かんでいた。

「ねえ、お姉ちゃん」あかりの声で我に返る。「次はどこ行く?」

東雲は深呼吸をして、いつもの冷静さを取り戻した。

「そうね...鳴海くん、まだ付き合ってくれる?」

その言葉に、太郎の心臓が高鳴る。

「はい、もちろんです」

こうして三人の買い物は続いていく。しかし、太郎の胸の中では、新しい感情が静かにうねりを上げていた。この偶然の出会いが、彼の青春にどんな影響を与えるのか。それはまだ誰にもわからない。

ただ、確かなのは、太郎の中で東雲翔子という存在が、今までとは違う輝きを放ち始めていたということだけだった。
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