イジメ復讐条例

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イジメ復讐条例

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 イジメ復讐条例が可決されたのは去年五月のことです。

 イジメ復讐条例は増加するイジメ問題に対して政府が打ち出した防止策でした。

 イジメを受けた者はその日一日、復讐のために何をしても許される。

 復讐を恐れてイジメが無くなる目論見です。

 そして、一年後の今日、イジメ復讐条例によって、一日だけイジメの復讐が許される日が始まりました。

 その日は太陽が暑く僕を突き刺すのに、風は優しく僕を包むような日です。

 僕は二十八歳。
 高校卒業間近から十年の間、引きこもっていました。

 それはイジメのせいです。

 オタクでキモイといじめられたのです。
 昔からオタクだった僕は高校入学と同時にオタクであることを隠していたのですが、ケータイに保存していた画像を休み時間中に見られてイジメられたのです。

「オタクは性犯罪者だ」「オタクはロリコンだ」「オタクは裁かれるべきだ」

 ズボンを脱がされて廊下を走らされたこともありました。
 授業中に奇声を上げるように指示されたこともありました。

 先生は僕のことを見て見ぬフリをしました。
 いえ、見て見ぬフリならまだマシです。

 僕が奇声を上げるよう廊下で皆から指示を受けていた時に、先生が通りがかったのです。
 ですが、先生は笑っただけでした。
 先生は僕が皆からの指示で奇声を上げたことを知りながら、僕が奇声を上げると「授業の邪魔だ!」と僕を激しく叱責したのです。

 十年間。長いようで短かった。
 僕は今、あの日の復讐をするのです。

 いえ、すでに半分は終わりました。

 先生が死ぬ前の「なんで?」って顔は忘れられません。

 その後もほとんどの連中が、なぜ僕に刺されるのか分かってない顔をしていました。

 自分たちのやったことを分かってないのです。
 イジメというのはほとんどがそういうものなのかも知れません。

 ですが、そういうものだからで済まされるものじゃありません。
 人を苦しめて人生を狂わせた罪は誰かが裁かねばならないのです。
 むしろ、自分がイジメをしていたことにさえ気付いていない皆を僕は愚かだとすら思うのです。

 残るその愚か者は半分。ちゃんとリストを作っているのです。
 残りの半分が罪を理解してくれていると嬉しいのですが。

 午後に入って、僕は次のターゲットの元へと向かっていました。
 道にはたくさんの死体がありました。
 道行く人々は返り血に染まって、血眼に包丁を握る人達ばかりです。

 きっと僕も彼らのような復讐鬼なのでしょう。
 いいや、これは復讐ではありません。明日からイジメを無くすための正義の行動なのです。
 我々は正義の使者なのです。

 そうだ! 僕らは正義の使者だ!

 そう思った時、僕の背後から誰かがぶつかりました。

 振り向くと、そこにはおカッパの髪型をした男がいます。

 僕は彼に見覚えがありました。
 中学時代、僕と仲良しグループのメンバーだった友人です。

 彼と僕は一種の相棒で、グループの中じゃお笑い担当でした。
 彼がボケで僕がツッコミです。

 中学校を卒業してからは一度も会っていませんでした。
 まさかこんなところでぶつかったのが彼だなんて、とんだ偶然です。

 そう思った僕の脇腹から赤い血が滴り落ちました。

 彼が僕から離れると、脇腹に包丁が刺さっていたのです。

 状況が分かりませんでした。
 彼はニヤとした笑みを僕に向けています。

「誰が黒キノコだ? 誰がチンコだよ!」

 怒鳴りながら彼はもう一つの包丁を取り出して、僕の腹を何度も刺しました。

 数度刺されても痛みは感じませんでした。
 たぶん、脳が完全に混乱していたのだと思います。

 ですが、状況が分かると同時に、異様な痛みが僕を襲いました。

 刺された箇所が一斉に痛み、僕は悲鳴を上げながら倒れます。

 痛みから逃れようと手足が好き勝手に暴れ、口は勝手に痛い痛いと叫び続けました。

 そんな僕の上に彼がまたがります。
 僕の動きを体重で抑えつけると、僕の顔面に包丁を振り下ろしました。

 眼球を突き、顔の肉を分け、骨を通った白刃が僕の脳に達したのが分かりました。

 脳がその機能を失う刹那、僕の口はただ一言を発しました。

「なんで?」
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