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10章・やがて来たる時
平和
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ザインが姿を消し、取り急ぎラジートが国王へ戴冠する準備が行われる。
カイエンの喪に服す間は戴冠式が出来ないので若干の猶予があり、そう言う意味では幸福だったかも知れない。
しかし、宰相のラキーニが、サニヤばかりリシーを見送って自分は蚊帳の外だったことに悲しんで数日間引き篭もってしまったので、他の人達はラジートを戴冠する準備が大変だった。
結局、ラキーニも何とかやつれた姿ながら王城へ出勤して、自分の職務を全うしたのであるが。
ラキーニはかなりリシーを溺愛していた。
なにせ、家に帰る時には必ずリシーへお菓子を買っていたし、リシーのイタズラや生意気な態度を昔のサニヤに重ねて笑っていた程だ。
それが、彼だけ何も知らないうちにリシーが家を出ただなんて、一体、どれほど心を病んだだろう。
しかし、それでも、彼は姿を現した。
ザインが居なくなって、代わりに戴冠するラジートの為に、精神的な疲弊に耐えて登城したのである。
ラジートが国王へ戴冠するに当たって一つ問題があった。
それは、親ザイン派だった貴族や大臣達……つまり、王城に務める殆どの貴族達がラジートの戴冠に反対したのである。
元々ラジートに擦り寄っていた貴族達は良かっただろう、しかし、こう反対の声が大きいのも考えものだ。
こうなることが分かっていたから、ラキーニは心を病んでも無理やり城へやって来たのである。
ラキーニはラジートへ早急に手を打つべきだと伝えた。
「仕方ない事だ。誰も彼からも好かれはできん。戴冠してから威容を示すしか無いだろう?」
ラジートがそう言うと、ラキーニは難しい顔をする。
「貴族達からだけでしたらともかく、今は国民感情も悪い状態です。そこに貴族達の流言飛語が跋扈して、最悪なのです」
農民から人気が高く、ひいては国民からの人気があったザインに比べると、ラジートは国民人気が低い。
特にザインの人気が高かったせいで相対的にラジートの人気が低く見えるのだ。
そこへ貴族達がラジートの悪口を流すのだから、国民はますますラジートを敵視にも近い感情を抱いたのである。
「しかし、今は平和な時期だ。何とかしようにもどうしようもあるまい」
武人上がりのラジートならば、直接に兵を率いて出陣する事で人々の支持を得られよう。
しかし、今は平和な時期だ。
平和とは何事も無く変わりない事である。
変化が無いとは時として、人へチャンスが到来しない残酷な事であるのだ。
「それとも、口やかましい貴族の首でも不敬罪としてたたっ切るか?」
ラジートはそのように言うが、それは悪手である。
圧政を敷いて栄えた試し無し。
ラジートもそのような事は分かっているので、ラキーニへ「冗談だよ」と笑うのだ。
「今はどうしようもあるまい。機を狙うのだ。平和だからこそ、小さなチャンスも逃さず、支持へ変えていかねばならない」
ラジートは悠長なものである。
しかし、そのような悠長な事を言っている場合では無く、反ラジート派が多い今は何とかせねば国が二つに分かれかねなかった。
ラキーニは連日連夜、どうやってラジートを人々へ認めさせるか考える。
ラジート自体は若い騎士や兵達、前線に赴く武将貴族から人気が高い。
戦場でローリエット騎士団に所属していたラジートに助けられた者も多いからだ。
何とかそういった前線に出る者達の声が広まる方法が無いか、ラキーニは頭を絞るのである。
しかし、前線に出る機会の多い者ほど、内地の人々へとその声は届かない。
これでは無意味であった。
そして、頭を悩ませていたのはラキーニだけではなく、ラジートもそうだ。
彼は常に余裕を持った態度を見せるが、内心では、自分が王として認められる方法に頭を捻っていたのである。
だから、城の執務室にて毎日夜遅くまで重役達へ向けて、新しい政策に関する手紙を書いていた。
しかし、「こんな内容じゃあ駄目だ」と、手紙を破り捨てるのである。
重役達があっと驚くような、目から鼻に抜ける政策を示し、臣下達や国民にラジートの実力を認めさせねばならない。
だが、そのような方法が簡単に思いつくならば、人は何も苦労しないのだ。
机の上に置かれた三叉の燭台に、揺れる三本のロウソク。
こう夜遅くまでロウソクの明かりを頼りに文字を書いていては、ザインのように眼鏡になってしまうだろう。
そう考えたラジートは自身の片割れであるザインを思い出して、懐かしく思った。
今はどこで何をしているだろう?
リシーと仲良くやっていけているだろうか。
「俺もお前みたいにコツコツ頑張っていればなぁ」
思えば、畑を見て回り、農民の悩みを聞くというザインの地道な行動こそが、権力を手に入れる近道だったのかも知れない。
例えば父カイエンもかつてはそうだった。
きっかけは反乱のお陰だったかも知れないが、カイエンの仕事ぶりは国内に行き渡っていて、人々はすんなりとカイエンを迎えいれたのだ。
しかし、皮肉なものだろう。
権力を望まなかったカイエンやザインは、その望みと反対に上へ上へと押し上げられ。
権力が欲しいラジートは認められずに苦労しているのだ。
しかし、そのような後悔ばかりをしていても始まらない。
ラジートは再び羽ペンを手に取り、何とか良い手紙を書けないか思案しだした。
しばらく書いては手紙を破り捨て、書いては破り捨てていると、部屋の扉が僅かに開いているのにラジートは気付く。
顔を上げると、女の子二人が顔を覗かせていた。
ラジートの長女と次女だ。
母親はヘデンとキネットで別々で、ザインとラジートのように血肉を分け合った双子では無いが、同時期に生まれたためにかつてのザインとラジートのように仲が良い。
今年八歳の動きたい盛りなせいか、乳母代わりのメイド達はだいぶ手を焼いているとかなんとか。
しかし、このような夜遅くにラジートへ何の用だろう?
よもや、ヘデンとキネットに何かあったのだろうか?
ラジートは少し不安に思うが、何のことは無い。
二人とも、夜中にこっそり部屋を抜け出して、城という名の大きな我が家を探検していたのだ。
そしたら、執務室から明かりが漏れていたので覗いたところ、ラジートが難しい顔をしていたので、不安に思って顔を覗かせてきたのである。
「お父様大丈夫?」
「お腹痛いの?」
なぜか二人の方が泣きそうな顔でラジートを見てくるのだ。
これにラジートは微笑む。
ああ、全く俺は駄目な父親だ。
こんな小さな子供達にまで、不安な気持ちを感じさせてしまうのだから、本当に駄目な父親だ俺は。
父カイエンだったら、どんなに苦しくても、辛くても、ラジートにそんな事を察せはしなかった。
そう思うと、なんと父は偉大な事であろうか。
こんなんじゃあ父上には遠く及ばないとラジートは思いながら席を立ち、二人の子供の手を握る。
そして、何も心配いらないよと笑顔を見せた。
「さ、今日はもう夜も遅いし、二人とも寝るんだよ」
ラジートが言うと、二人とも素直に頷く。
ラジートが元気そうだったので、二人ともすっかり不安な気持ちも無くなり、笑顔だ。
その笑顔はラジートに手を握って歩いてもらうのが嬉しいという笑いでもある。
ラジートが父カイエンを尊敬するように、子供達もまた、父ラジートを尊敬していた。
もっとも、ラジートはその事に気付くことなく、二人をそれぞれの部屋へ連れて行き「さ、大人しく寝るんだぞ」と言うと、自分も寝ることにして、クローゼットルームで着替える。
明日になれば国王としての仕事があった。
まだ戴冠はしてないので正式なものではないが、しかし、国王が居なければ回らない仕事もある。
国事なんて右も左と分からないのでかなり忙しい。
そんなラジートであるが、彼は長男に戦い方や礼儀作法、軍略の勉強をしていなかったので、まだ楽と言えば楽だった。
国王の子には、専門の教育者が付くのでわざわざ国王であるラジートが教える必要が無かったのである。
「カルンの面倒を見なくても済むだけありがたいな」
カルンとはラジートの長男だ。
国事でにっちもさっちもいっていないラジートがカルンに色々と教えようとするなんてどだい無理な話であった。
しかし、やはり、父としては子に自分の事を教えたいと思うものである。
「いや、構わないか……」
ラジートはカイエンから直接、剣も勉強も教えられてない。
教えられたのはザインだ。
しかし、ラジートはカイエンからたくさんの事を教えて貰ったのだ。
親が子へあーだこーだと口を出さずとも、その立派な背中を見せれば、それなりに学んでくれるに違いない。
「俺が父親らしくその背中を見せられれば、きっと……」
ラジートは寝室の前で立ち止まった。
二つある。
片方がヘデンの寝室でもう片方はキネット。
ラジートは交互に夜の相手をして貰っていた。時々両方だったが。
もっとも、最近は忙しくてご無沙汰だ。
今日もこんな時間では二人とも寝ているだろうし。
しかし、朝起きた時に毎回片方のベッドでラジートが寝ていたら、もう片方の妻に悪いというもの。
「昨夜はキネットだったし、今夜はヘデンの隣で寝るか」
音を発てないように寝室へ入り、ヘデンの寝るベッドへ。
月明かりがカーテンの隙間から射し、ヘデンの寝顔を照らしているのが見えた。
そんな彼女の頬へ優しく口づけ、同じ布団へ入る。
すると、ヘデンはラジートの体を身を寄せてきた。
ヘデンの柔らかくて気持ちの良い肉付き。
触れ合っているだけでホッと落ちつくような感覚に陥る。
ラジートは横を向き、ヘデンの顔を見た。
昔はニキビのあった顔も今では落ち着いている。
しょっちゅうキネットと比較して、こんなニキビ顔じゃあラジートに釣り合わないなんて悩んでいたが、今ではその心配も無さそうだ。
もっとも、そんなヘデンもラジートは好きだったが。
ラジートは彼女の頬にもう一度口を付けて、チュッとキスをした。
少しだけ赤くなったヘデンの頬に、「ラジート特性ニキビ」なんて心の中で呟くと、すぐに気恥ずかしくなってにやけてしまう。
こんな歯の浮くような行動、ヘデンが寝てる時しか出来ないなぁ。
そう思いながらヘデンを抱きしめて彼女たの首元へ頭を寄せると、静かに静かに眠りに落ちていった。
もしも、もしも権力争いに敗れてしまったら、この生活はどうなるだろうかとラジートは眠りゆく頭で考える。
しかし、すぐにそんな考えは頭から振り払った。
必ず王となる。
そして、ヘデンやカーシュのような人達を救う。
ただそれだけをラジートは考え、悪い思考を考えないようにするのであった。
カイエンの喪に服す間は戴冠式が出来ないので若干の猶予があり、そう言う意味では幸福だったかも知れない。
しかし、宰相のラキーニが、サニヤばかりリシーを見送って自分は蚊帳の外だったことに悲しんで数日間引き篭もってしまったので、他の人達はラジートを戴冠する準備が大変だった。
結局、ラキーニも何とかやつれた姿ながら王城へ出勤して、自分の職務を全うしたのであるが。
ラキーニはかなりリシーを溺愛していた。
なにせ、家に帰る時には必ずリシーへお菓子を買っていたし、リシーのイタズラや生意気な態度を昔のサニヤに重ねて笑っていた程だ。
それが、彼だけ何も知らないうちにリシーが家を出ただなんて、一体、どれほど心を病んだだろう。
しかし、それでも、彼は姿を現した。
ザインが居なくなって、代わりに戴冠するラジートの為に、精神的な疲弊に耐えて登城したのである。
ラジートが国王へ戴冠するに当たって一つ問題があった。
それは、親ザイン派だった貴族や大臣達……つまり、王城に務める殆どの貴族達がラジートの戴冠に反対したのである。
元々ラジートに擦り寄っていた貴族達は良かっただろう、しかし、こう反対の声が大きいのも考えものだ。
こうなることが分かっていたから、ラキーニは心を病んでも無理やり城へやって来たのである。
ラキーニはラジートへ早急に手を打つべきだと伝えた。
「仕方ない事だ。誰も彼からも好かれはできん。戴冠してから威容を示すしか無いだろう?」
ラジートがそう言うと、ラキーニは難しい顔をする。
「貴族達からだけでしたらともかく、今は国民感情も悪い状態です。そこに貴族達の流言飛語が跋扈して、最悪なのです」
農民から人気が高く、ひいては国民からの人気があったザインに比べると、ラジートは国民人気が低い。
特にザインの人気が高かったせいで相対的にラジートの人気が低く見えるのだ。
そこへ貴族達がラジートの悪口を流すのだから、国民はますますラジートを敵視にも近い感情を抱いたのである。
「しかし、今は平和な時期だ。何とかしようにもどうしようもあるまい」
武人上がりのラジートならば、直接に兵を率いて出陣する事で人々の支持を得られよう。
しかし、今は平和な時期だ。
平和とは何事も無く変わりない事である。
変化が無いとは時として、人へチャンスが到来しない残酷な事であるのだ。
「それとも、口やかましい貴族の首でも不敬罪としてたたっ切るか?」
ラジートはそのように言うが、それは悪手である。
圧政を敷いて栄えた試し無し。
ラジートもそのような事は分かっているので、ラキーニへ「冗談だよ」と笑うのだ。
「今はどうしようもあるまい。機を狙うのだ。平和だからこそ、小さなチャンスも逃さず、支持へ変えていかねばならない」
ラジートは悠長なものである。
しかし、そのような悠長な事を言っている場合では無く、反ラジート派が多い今は何とかせねば国が二つに分かれかねなかった。
ラキーニは連日連夜、どうやってラジートを人々へ認めさせるか考える。
ラジート自体は若い騎士や兵達、前線に赴く武将貴族から人気が高い。
戦場でローリエット騎士団に所属していたラジートに助けられた者も多いからだ。
何とかそういった前線に出る者達の声が広まる方法が無いか、ラキーニは頭を絞るのである。
しかし、前線に出る機会の多い者ほど、内地の人々へとその声は届かない。
これでは無意味であった。
そして、頭を悩ませていたのはラキーニだけではなく、ラジートもそうだ。
彼は常に余裕を持った態度を見せるが、内心では、自分が王として認められる方法に頭を捻っていたのである。
だから、城の執務室にて毎日夜遅くまで重役達へ向けて、新しい政策に関する手紙を書いていた。
しかし、「こんな内容じゃあ駄目だ」と、手紙を破り捨てるのである。
重役達があっと驚くような、目から鼻に抜ける政策を示し、臣下達や国民にラジートの実力を認めさせねばならない。
だが、そのような方法が簡単に思いつくならば、人は何も苦労しないのだ。
机の上に置かれた三叉の燭台に、揺れる三本のロウソク。
こう夜遅くまでロウソクの明かりを頼りに文字を書いていては、ザインのように眼鏡になってしまうだろう。
そう考えたラジートは自身の片割れであるザインを思い出して、懐かしく思った。
今はどこで何をしているだろう?
リシーと仲良くやっていけているだろうか。
「俺もお前みたいにコツコツ頑張っていればなぁ」
思えば、畑を見て回り、農民の悩みを聞くというザインの地道な行動こそが、権力を手に入れる近道だったのかも知れない。
例えば父カイエンもかつてはそうだった。
きっかけは反乱のお陰だったかも知れないが、カイエンの仕事ぶりは国内に行き渡っていて、人々はすんなりとカイエンを迎えいれたのだ。
しかし、皮肉なものだろう。
権力を望まなかったカイエンやザインは、その望みと反対に上へ上へと押し上げられ。
権力が欲しいラジートは認められずに苦労しているのだ。
しかし、そのような後悔ばかりをしていても始まらない。
ラジートは再び羽ペンを手に取り、何とか良い手紙を書けないか思案しだした。
しばらく書いては手紙を破り捨て、書いては破り捨てていると、部屋の扉が僅かに開いているのにラジートは気付く。
顔を上げると、女の子二人が顔を覗かせていた。
ラジートの長女と次女だ。
母親はヘデンとキネットで別々で、ザインとラジートのように血肉を分け合った双子では無いが、同時期に生まれたためにかつてのザインとラジートのように仲が良い。
今年八歳の動きたい盛りなせいか、乳母代わりのメイド達はだいぶ手を焼いているとかなんとか。
しかし、このような夜遅くにラジートへ何の用だろう?
よもや、ヘデンとキネットに何かあったのだろうか?
ラジートは少し不安に思うが、何のことは無い。
二人とも、夜中にこっそり部屋を抜け出して、城という名の大きな我が家を探検していたのだ。
そしたら、執務室から明かりが漏れていたので覗いたところ、ラジートが難しい顔をしていたので、不安に思って顔を覗かせてきたのである。
「お父様大丈夫?」
「お腹痛いの?」
なぜか二人の方が泣きそうな顔でラジートを見てくるのだ。
これにラジートは微笑む。
ああ、全く俺は駄目な父親だ。
こんな小さな子供達にまで、不安な気持ちを感じさせてしまうのだから、本当に駄目な父親だ俺は。
父カイエンだったら、どんなに苦しくても、辛くても、ラジートにそんな事を察せはしなかった。
そう思うと、なんと父は偉大な事であろうか。
こんなんじゃあ父上には遠く及ばないとラジートは思いながら席を立ち、二人の子供の手を握る。
そして、何も心配いらないよと笑顔を見せた。
「さ、今日はもう夜も遅いし、二人とも寝るんだよ」
ラジートが言うと、二人とも素直に頷く。
ラジートが元気そうだったので、二人ともすっかり不安な気持ちも無くなり、笑顔だ。
その笑顔はラジートに手を握って歩いてもらうのが嬉しいという笑いでもある。
ラジートが父カイエンを尊敬するように、子供達もまた、父ラジートを尊敬していた。
もっとも、ラジートはその事に気付くことなく、二人をそれぞれの部屋へ連れて行き「さ、大人しく寝るんだぞ」と言うと、自分も寝ることにして、クローゼットルームで着替える。
明日になれば国王としての仕事があった。
まだ戴冠はしてないので正式なものではないが、しかし、国王が居なければ回らない仕事もある。
国事なんて右も左と分からないのでかなり忙しい。
そんなラジートであるが、彼は長男に戦い方や礼儀作法、軍略の勉強をしていなかったので、まだ楽と言えば楽だった。
国王の子には、専門の教育者が付くのでわざわざ国王であるラジートが教える必要が無かったのである。
「カルンの面倒を見なくても済むだけありがたいな」
カルンとはラジートの長男だ。
国事でにっちもさっちもいっていないラジートがカルンに色々と教えようとするなんてどだい無理な話であった。
しかし、やはり、父としては子に自分の事を教えたいと思うものである。
「いや、構わないか……」
ラジートはカイエンから直接、剣も勉強も教えられてない。
教えられたのはザインだ。
しかし、ラジートはカイエンからたくさんの事を教えて貰ったのだ。
親が子へあーだこーだと口を出さずとも、その立派な背中を見せれば、それなりに学んでくれるに違いない。
「俺が父親らしくその背中を見せられれば、きっと……」
ラジートは寝室の前で立ち止まった。
二つある。
片方がヘデンの寝室でもう片方はキネット。
ラジートは交互に夜の相手をして貰っていた。時々両方だったが。
もっとも、最近は忙しくてご無沙汰だ。
今日もこんな時間では二人とも寝ているだろうし。
しかし、朝起きた時に毎回片方のベッドでラジートが寝ていたら、もう片方の妻に悪いというもの。
「昨夜はキネットだったし、今夜はヘデンの隣で寝るか」
音を発てないように寝室へ入り、ヘデンの寝るベッドへ。
月明かりがカーテンの隙間から射し、ヘデンの寝顔を照らしているのが見えた。
そんな彼女の頬へ優しく口づけ、同じ布団へ入る。
すると、ヘデンはラジートの体を身を寄せてきた。
ヘデンの柔らかくて気持ちの良い肉付き。
触れ合っているだけでホッと落ちつくような感覚に陥る。
ラジートは横を向き、ヘデンの顔を見た。
昔はニキビのあった顔も今では落ち着いている。
しょっちゅうキネットと比較して、こんなニキビ顔じゃあラジートに釣り合わないなんて悩んでいたが、今ではその心配も無さそうだ。
もっとも、そんなヘデンもラジートは好きだったが。
ラジートは彼女の頬にもう一度口を付けて、チュッとキスをした。
少しだけ赤くなったヘデンの頬に、「ラジート特性ニキビ」なんて心の中で呟くと、すぐに気恥ずかしくなってにやけてしまう。
こんな歯の浮くような行動、ヘデンが寝てる時しか出来ないなぁ。
そう思いながらヘデンを抱きしめて彼女たの首元へ頭を寄せると、静かに静かに眠りに落ちていった。
もしも、もしも権力争いに敗れてしまったら、この生活はどうなるだろうかとラジートは眠りゆく頭で考える。
しかし、すぐにそんな考えは頭から振り払った。
必ず王となる。
そして、ヘデンやカーシュのような人達を救う。
ただそれだけをラジートは考え、悪い思考を考えないようにするのであった。
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