君との夏

八月 美咲

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 結局、二人は途中で降りずに、終着駅まで乗って行ってしまった。当然のことながら、持っている切符の金額では全然足りない。

 ホームのベンチに座っていると、駅員に声をかけられた。

「ゴジョウ?」

 二人がポカンとしていると、駅員は言い直した。

「電車乗り間違えたの? 切符見せて」

 ここで逃げ出しては怪しすぎる。二人はおずおずと、手の中の切符を駅員に渡した。

「あー、だいぶ乗り過ごしちゃってるね。どこ行くの?」

 二人はどう答えるべきか迷い、互いの顔を見合わせる。

「君たち、高校生? もしかして、二人で行き当たりばったりの旅とかしてるの? それにしては軽装すぎるか」

「そ、そうです!」

 煌はとっさに返した。

 何かに自分たちを当てはめておかないと、これ以上突っ込まれると不審に思われると思ったからだ。玲衣もそう思ったのか、煌の横でうなずいている。

「やっぱり? 僕も学生の頃、同じことをして、北海道まで行ったことあるよ。だったら青春18きっぷにするといいよ」

 ひとり一万二千円で五日間、または五回、普通列車が乗り放題で、五回を二人で分けて使うこともできる、と駅員は説明してくれた。

 一万二千円の出費は痛い。

 けど、二人で使って丸々二日間列車に乗れば、かなり遠くまで行けるのではないだろうか。

 二人は青春18きっぷを買うことにした。駅員は今日の運賃で足りない分を、18きっぷの一回分として相殺してくれた。

 その日はもう日が暮れかかっていたこともあり、次の日、二人は始発の列車に乗り込むことにした。

「とにかく行けるところまで南に行こう」ということで二人の意見は一致した。

 ちょっとした旅行気分で気持ちが高揚した。大きな出費があった分、節約しなくてはいけなかったが、二人は奮発して駅弁を買った。

 一旦改札を出ると一回分の切符を消費してしまうため、駅構内から出られないというのも駅弁を買った理由だった。

 しばらく山間部を走った列車は、やがて海に出た。散々海は見飽きているはずなのに、それでも玲衣は眩しい目をして車窓から海を眺め、そんな玲衣を煌はそっとスマホのカメラ越しに見つめた。

 ガタン、ゴトン。

 列車は二人を乗せて走る。

 駅弁でお腹が膨れた玲衣は、煌の肩に寄りかかり寝息を立て始めた。

 安心しきった、寝顔だった。やがて煌の瞼も重くなり、玲衣の待つ夢の中へと落ちていった。

 頬が熱くて目が覚めると、車窓に燃えるような夕暮れの風景が広がっていた。

「玲衣、すごい綺麗な夕日だよ」

 玲衣は目をこすりながら顔を起こす。

「本当だ……」

 二人はしばし無言で落ちていく夕日を見つめた。

 水平線に落ちる夕日を二人は幾度となく見てきた。それでもまだ美しい夕焼けに感動できるのは、きっと横に玲衣がいるからだ。

 玲衣がいればどんな世界だって輝く。

 その輝いた世界で一番眩しい存在が玲衣だった。

 この瞬間が永遠になればいいのに。永遠に玲衣と一緒にいたい。

 それは、煌の祈りにも近い願いだった。




 本州を離れたところで一日目が終わった。

 次の日、二人はさらに南下した。

 そうして二日目の夜、二人を乗せた列車は、ある寂れた無人駅で走るのを止めた。

 ホームに降り立った瞬間、濃度の高い夏の夜が二人を包み、〝ようこそ、日本最南端の終着駅へ〟と書かれた文字が目に飛び込んできた。

 とうとう玲衣と二人、こんなところまで逃げてきてしまった。

 ここまで来ればしばらくは安心だろうと思いつつも、もし、追っ手がここまで手を伸ばしてきたら、次はどこに逃げたらいいのだろうという不安も拭いきれなかった。

 その夜は、そのまま駅の待合室で夜を明かした。
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