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二十章 新たな可能性

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「あーお腹すいたな~。お昼、お昼……」
 さーて、やっとお昼ご飯の時間だ~。今日は何入ってんのかな~。
「よっ! 隣いいか?」
「あっ! 舟渡く~ん。もちろんよ~」
 この日も私と啓介は一緒にお昼ご飯を食べていた。啓介も今までは恥ずかしがってあまり学校では私と一緒にいてくれなかったけれど、最近はよくこうして一緒にお昼を食べたしり勉強を教えてくれたりしてくれるのだった。大好きな啓介がそばにいてくれる、それだけで十分嬉しかった。……でもなぜか物足りなかった。
「あれっ? 寒川今日もいないの?」
「うん……」
「どうしたんだろ~な~? いつも西谷と仲良くお昼食べてんじゃん」
「わからない……」
 そう、いつも一緒にいてくれるはずの琴乃がいなかったのだ。それもここ数日はいつもこんな調子だった。別に体調が悪くて学校を休んでるわけでも早退しているわけでもない。授業の合間の休み時間もこれまで通り普通に接してくれる。まあ最低限ではあったけれど。……なのに、昼休みと放課後になるとさっさとどこかへ行ってしまうのだった。おまけにLINEで連絡してもなかなか既読してくれないばかりか、何一つ返事をしてくれなくなってしまったのだった。
「西谷~、ほんとに何も知らないのか?」
「う、うん……」
 知らないって答えちゃったけど……、やっぱあのこと引きずってんのかな~……。
 思い当たることは一つしかなかった。というかあの日以来こんなことになってしまったのだから絶対あのことが原因だ。
 まったく……、琴姉も案外へこんじゃうタイプなのかな~。
 頭の片隅ではそう思いながらも私は目の前の啓介との二人だけの時間を思う存分に味わっていたのだった。


「起立! 礼~!」
「ありがとうございました~」

 その日の放課後、私は来週の小テストについて教えてもらうのを理由に、琴乃に昼休みのことについても訊いてみようと思った。
「あっ、琴姉~、来週の小テストのことなんだけど……」
「あっ、ごめんな……。今日ちょっと忙しいんだ」
「えっ……、琴……」
「じゃあな、また明日」そう言って琴乃は足早に教室を後にしてしまった。
「ちょっと! 忙しいって⁉」
 私の呼びかけもむなしく、琴乃の後ろ姿は廊下の向こう側へと消えてしまった。
 またやってしまった……。

 この日、私は普段なら楽しみなはずの家庭科部を休んでしまった。なぜだかわからないけど、にこにこ楽しそうにしている真妃や綾子の姿を見るのが後ろめたく感じたのだった。そんな私は今こうして帰路についていた。
「そんなに気にすんなよ。西谷と寒川って幼馴染なんだろ~。そのうちまた仲直りできるって」
「……」
 啓介も私のことが気になるようで今日も一緒に帰ってくれていた。彼も彼なりに気遣ってくれてはいたのかもしれない。けれどもなぜか安心できなかった。
 いくら啓介でもどうしようもないでしょう。もとはといえば琴乃が勝手に推理してそれが崩されたっていうのが原因なんだし……。あーもう! どうすればいいのよ~! もうボッチのままでもいいかな~、啓介もいてくれるし。いざとなれば真妃や綾子だって……。
 へこんだ琴乃の扱いに困り果てていたけれど、啓介の一言で一転した。
「寒川……、泣いてんのかな……」
「えっ⁉」
 琴乃と直接関係があるわけじゃない啓介がなぜそんなことを言い出すのか、私にはわからなかった。
「えっ……! そ、そんなことないと思うよ。だって琴姉、男子みたいに気ぃ強いし、荒っぽいし、それにそんなすぐめそめそしたりなんか……」
「西谷……、俺のことどんなやつに見える?」
「えっ? どんなって……?」突然の質問になんて答えたらよいのか一瞬わからなかった。
「えっ……えーと……、頭もよくて勉強できてしっかりやさん……だと思うけど……」
「……そうか。ありがとう……」
「えっ?」
 私何かまずいこと言った? やや落ち込み気味の啓介の表情に私は戸惑いを隠せなかった。
「西谷……、あーなんかハズイな……。誰にも言わないでくれるか?」
「えっ? う、うん……もちろんよ……。どうしたの?」
「西谷……実は……、信じられないかもれないけど……、俺も昔は結構泣き虫だったんだ……」
「えっ⁉」
 啓介が泣き虫⁉ こんなにしっかりやさんの啓介が⁉
 彼の意外な告白に動揺してしまった。でも何でこのタイミングでそんなこと……?
「ふ、舟渡くん……?」
「ははっ、やっぱびっくりしちゃうよな」
「う、うん……、でも何で……?」
「ああ……。昔の俺、そんな調子だったからさー。だちとケンカしてはすぐ泣かされたりしてたんだよな~……。だから俺……、なんとなくわかるんだ」
「えっ? わかるって……?」
「以来俺、無意識に警戒しちゃって、他人が何考えてんのかなーっなんていろいろ考えちゃったりして……。まっ、そんなとこかな……。あっ、別に西谷が何考えてんのかずっと探ってるとかそういうわけじゃないから」
「……ふ~ん……、そうなんだ……」
 啓介の意外な一面を知って関心していた私だったけど、すぐに気づいた。
「あっ、じゃあそれでさっきあんなこと……」
「あ、ああ……。表向きは大したことないようにしているけど、なんとなくな……。あー、ほんとハズイ! 西谷! 頼むから俺がこんなこと言ってたって絶対誰にも言うなよ!」
「舟渡くん……。舟渡くんって……、やっぱり優しいのね」
「なっ! 何だよ急に! 頼むから誰にも言わないでくれよな!」
 慌てふためく彼の前で私は感慨無量だった。私はなにか大切なことを忘れていたのかもしれない。
「ありがとう、舟渡くん。琴姉とは何とかしてみるよ」
「あ……、ああ。頼んだぜ。俺もまた三人で一緒に昼めし食いてえしなっ」

 啓介と別れた帰りの電車の中で、私は一人考えていた。
「琴姉……、ほんとに泣いちゃったりしてんのかな……。別にそんなこと……。そんなつもりじゃなかったのに……」
 窓の外の暗闇を流れる街頭の光を見ながら呆然としていた。なぜだか知らないけど頬が火照ってくるのを感じた。視界も次第にぼやけてくる。
 あーっ! ……でも、どうしよう……。話もまともにしてくれないし……、連絡も取ってくれないし……、琴姉……。
 次第に意識が遠のいてくる。
 琴姉……、いったいどうすれば……。
 ……。

「この電車は~、急行~横浜行きです。 次は~、大和、大和です。」
 車内アナウンスが聞こえてくる。電車はまだ走っているみたいだった。
「はっ! ……えっ? 横浜行き?」
 何かがおかしい……。
「あっ! あ~あ……」
 気が付いた時には電車の進行方向が逆になっていた。どうやら終点まで寝過ごして折り返してしまったみたいだった。
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