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第4章 魔導都市レーヴァテイン

第4章が始まるようです

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「あのぉ~、そ、そんなに真剣に決めなくてもいいですから」
 はモジモジと、股下が心許なくなった身体に、少し慣れないまま取り囲む女性陣を見渡した。

 返事はない。   

 何故なら、彼女達はひっきりなしに下着を選ぶのに夢中だからだ。
 恐ろしいことにそれらは、彼女達自身の為ではなかった。
 そう、私ことユズキが着るために彼女達は白熱した議論を交わしているのだ。

「いいえ!やっぱりユズキさんには白い清楚な感じの下着が似合います!」

 そう熱弁するイスカの選んだ下着は、純白の肌触りの良さそうな下着。縁にあしらわれたレースが可愛らしく、清楚さに可憐さを足したような絶妙なデザインだ。

 うっ、ちょっと着てみたいかも──

「いいえ、断然黒よ!見た目とは真逆のイメージ。脱いだ時のインパクトはギャップも合わさって、破壊力抜群よ!」

 そう言い張るリズが高々と掲げるのは、シックな黒いシースルーと、およそスタイルが良くなければ着こなすことのできそうにない際どいショーツ。

 あれを着ると思っただけで、なんかドキドキしちゃいそう。

 そんな二人のやり取りを他所に、私の背中をツンツンとつつく人物が。
 そこには、少し自身満々な表情を見せるフーシェと、顔を真っ赤にしたセラ様が立っていた。

「ん。これなら動きやすい」

「──な、なっ!こ、こんなの着ないから!」

 なんとフーシェが持ってきた下着は、ほぼ紐だった。
 いや、一応大切な所は隠してくれそうなんだけど、限りなくマイクロビキニに近い布面積。
 フーシェが踊り子だって顔を赤くしそうな下着を推して来たことに、私は顔を真っ赤にさせてしまう。

「さ、流石にそれは大胆すぎますよぉ」

 同じく顔を真っ赤にさせたセラ様が、さり気なく私の前に自分の選んだ下着を見せてくる。

「うっ──」

「どうですか?ユズキさん?」

 上目遣いで出してくる下着は、それはそれはスケ感の強いベビードール。
 うぅ、さり気なく出してくるセラ様の下着もなかなかに際どいんですけど。

 私が回答に困っていると、熱弁を繰り広げていたイスカとリズも同時に私の方を振り向く。

『ユズキさん!どれにするの?』

 見事にハモる一同に、私は頭を抱える。

「い、一旦保留にしますー!」

 叫ぶように私は声を張り上げると、店員達の不思議そうな視線から逃れるように店外へと転がり出るのだった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はぁ、酷い目に合った」

 私は逃げるように洋服店を飛び出すと、街道横のベンチに腰をおろした。
 どうして私がこの格好になっているのか。
 勿論理由はある。

「だけど、渋々でも変身できるなんてなぁ」

 私は自分の身体を見回して、フゥと小さくため息をついた。

 エアと別れて2日。今はレーヴァテインに進むための準備なのだが、そこで大きな問題が起こった。

「このパーティーは怪しまれるから、変装しましょう」

 そう言ったのはリズだ。
 私達のパーティーは自分が男の時だと、男性2人に女性が4人ということになるのだが、見た目はリズの魔法でなんとかなっているのだが、性別や背格好までも変えるとなると、それだけ精度も落ちざるを得ず、何かの拍子でバレてしまう可能性が高まるという。

「まず魔族だと男性と女性がパーティーを組むことは少ないわ。大抵は実力が突出した女性が仲間に一人いるか、ハーピーやラミア族の様に同性だけの場合が多いから。このパーティーバランスは、如何にも人族に居そうですという感じがありありなのよね」

 うーん、こんなに女性が多いパーティーは人族でも少ないとは思うのだけど。
 確かにウォールでもリビアンでも、冒険者の格好をした女性はほとんど見かけなかった。
 レベル25のエアですら町から離れないとなると、冒険者としてやっていくにはかなりのレベルが必要なのだろう。

「そこで、名案があるの!ユズキが女性になって、ローガンは美しい娘達をレーヴァテインの女好き貴族に献上しに来た商人を装うのよ!」

 この案に私は絶句した。
 いや、よく聞くと確かに一番怪しまれない方法と納得はできたのだけど。
『譲渡士』の意味ないよね?
 そうは考えたが、脳内のセライに聞くとなんでも一度合体したから『最適化オプティマイズ』で、いつでも変身可能になったとのこと。

「下着1つしかないからって、洋服店に入ったけど、アレ絶対私に色々着させて楽しもうって思ってるよね」

 変身特典なのか分からないが、『譲渡士』のセライと合体すると服までがご丁寧に女性物となるのは有り難いのだが、当然数日過ごすというのならば、下着や服の着替えは必要になる。
 そして、それを口実に私を着せ替え人形にしようとしたのが、先程の惨状だ。

「まぁ⋯⋯、ちょっと可愛い服も気になったりして」

 うーん、やっぱり精神が引っ張られている。
 まぁ、数日この姿で過ごすのなら慣れておいた方がいいかもしれないのだけど。

 ここリビアンからレーヴァテインまではおよそ馬車で2日。ローガンは馬車を準備するために既に町へ繰り出していた。

「こう見ると人族の町と変わらないけどなぁ」 

 私は町を歩く魔族達の穏やかな暮らしぶりに驚かされた。
 グレインのような獣人もいれば、かなり人族に見た目が近い魔族もいる。そう考えると、エアは人族と背丈も似ていたなぁ。
 だからこそ、人族でも使えそうな下着があれだけ多かったのかもしれないのだけど。

 ただ人族の町と異なるのは、圧倒的に住民の数が少ない。
 リビアンは小さな町だが、これだと数千人程しか住人はいないのかもしれない。

「だから人口が多い、人族の地に攻めてこなかったのかなぁ」

 しかしリズの話からだと、彼女の父親はこのレーベンを戦場にしたがっている。だけど、待ち行く人達はそんな思惑がなされているとは感じている風もなく、普通に暮らしている。
 きっと戦争のことを画策しているのは、レーヴァテインにいて本国に繋がっているドルトン達、ごく一部なのだろう。

 あとは、勇者のジェイクだ。
 彼の厄介なところは、勇者という肩書だけでなくグリドール帝国の王子ということ。
 リズが死んだと思い込んでいるなら、レーベンを自分の物にしようと本国へ打診しているかもしれない。

「はぁ、フーシェの故郷を見に来ただけなのに、こんなことになるなんてなぁ」

 私がぼんやりと座っていると、前方から店を出てきたイスカ達が近寄ってきた。
 その手には何も握られていない。

 良かった。
 でも、着替えはないといけないから、とりあえず地味な下着や服を後で買いに行こうかな。

「みんなの意見が合わずに買うのをやめたの?」

 私が、笑いながら言うと彼女達は顔を見合わせた。
 ん?
 なんか変だよ。

「え?買ったわよ」

 リズがさも当然といったように首を傾げた。
 おかしい。
 手には何も握られていないのだから。そう思っていたが、セラ様がリズの横でえへへと笑っている。

「えぇ。結局迷ったから、全部買うことにしたの。魔法袋マジックポーチに入ってるから心配しないで」

 そうか!
 セラ様の魔法袋マジックポーチ
 何も荷物持っていないから、買わなかったのだと思って油断していた。
 私はガックリと肩を落とした。

「ん。大丈夫、きっと全部似合う」

 そう言ってくるフーシェだけど、フーシェの選んだものはほぼ紐だ。着るには相当の勇気がいる代物だ。
 私はこれから起こるであろう、彼女達による私の着せ替えショーのことを想像し、ガックシと肩を落とした。
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