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第3章 城壁都市ウォール
レベル9999は重すぎたようです
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「後ろです!」
セラ様の声に僕は後ろを振り向きざまに剣を振るう。
歩き出して2時間は経っただろうか。
僕達は、ベイルベアーに遭遇していた。
「援護します!『水壁』!」
エアが魔法を唱えると、間欠泉のように地面から魔法陣と共に水の壁が出現した。
「ベイルベアーの巨体だと、牽制くらいしかできないから!」
確かに重量級のベイルベアーには、噴き出される水も一瞬の躊躇いしか与えることができないだろう。
「しかも、2体か!ハッ!」
僕の斬撃は水壁を切り裂いて、ベイルベアーの左足の腱を切り裂く。
それにしても大きい。
初めて、エラリア郊外で出会ったベイルベアーを、さらに一回り大きくした形だ。
野生を剥き出しにした咆哮が響き渡る。
「──ッ!!」
本能のまま、振り下ろしてくるベイルベアーの一撃を紙一重でかわす。
なんだか、調子が良い。
思ったように身体が動く。
レベルは下がったというのに、どう身体を動かせば良いか分かった気がした。
「キャッ!こっちに来ないで!!」
まずい!
エアの方にもう一体が迫っていた。
その巨体からは想像できない程の速力で、エアを吹き飛ばそうとするベイルベアーに向かって、僕は咄嗟に剣を投げた。
空を切り裂き、一直線に向かった剣は深々とベイルベアーの右眼を貫いた。
痛みと剣の衝撃によって、ベイルベアーの軌道が変わる。
「跳べ!」
僕の言葉に、エアが横っ飛びでベイルベアーの進路上から逃れた。
そのすぐ横を、暴風のようにベイルベアーが前足を振り回しながら突進していく。
ドゴンッ!
まるで爆発が起こったような音が響き渡った。
ベイルベアーがエアの後ろにあった大木に衝突した音だ。
この隙を逃す訳にはいかない。
「ハァッ!」
両手に懇親の力を込めて、僕は地面を蹴ると、魔法袋から新たな剣を取り出す。そして、そのまま握りしめた剣を深々とベイルベアーの首筋に刃をつき立てた。
セラ様が入れていておいてくれた予備の剣だ。いくらかの武器の予備も魔法袋に入れておいてくれたのは有り難い。
僕が今まで親しんできた剣は、宿屋で転移魔法を受けたことにより手放してしまっていた。
「ガッガアッ!」
最後の反撃を繰り出そうと、ベイルベアーが背中に張り付いた僕を掴もうと前足を伸ばしてくる。
その足が僕を掴もうとする寸前、僕はベイルベアーの背中を蹴って距離を取る。
深々と刺さった刃は、硬い頸椎の隙間から神経を切り離したはずだ。
激しく痙攣するようなベイルベアーの動きからすぐに視線を戻して、今度はもう一頭のベイルベアーに向き直る。
「これを使って!『水属性付与』!」
エアが叫ぶと、青白い魔法陣が彼女の足元に浮かび上がった。
光はすぐさま地面から流れるように湧き上がると、僕の剣へと飛来する。
「水の刃よ!リーチを広げるわ!」
光が剣にまとわりつくと、青白い冷気が刀身を包み込む。
仲間がやられたことに激怒したベイルベアーが、怒りの咆哮を上げて飛びかかってきた。
ベイルベアーは、その巨体を大きく広げて飛びかかってくるが、腹部はガラ空きだ。
「その子!押し潰そうとしてる!」
セラ様の声が耳に届く。
「クッ!」
身を捻りながら剣先で弧を描く。
水の軌跡が糸のようにしなったが、その糸は刃の様な切れ味も持ち合わせていた。
水の刃が、音もなくベイルベアーの脇腹を切り裂いた。
僕は態勢を立て直して、袈裟斬りに剣を振るう。
水の刃は意思を宿したかのように、再びしなると今度はベイルベアーの前足と首を切り払った。
──シュンッ
音と共にベイルベアーの前足がぼとりと落ちた。
しかし、さすがの巨体に首を切り落とすには至らなかったようだ。
「終わった」
手応えはあった。
ゆっくりと僕はベイルベアーに向けて剣を構える。
その動きを確認したかのように、ベイルベアーはぐらりと大きく傾いたかと思うと、地響きを立てて地面へと崩れ落ちた。
「す、凄い!」
エアが足を押さえながら近づいてくる。
少し左足を引きずりながらも、顔は嬉しそうだ。
「少し木の破片が刺さって、クッ──」
ベイルベアーの突撃を交わした時に怪我をしたのか、ピッチリとしたダークブラウンのパンツを軽々と貫通して、親指程の太さの枝がエアの左太腿に突き刺さっている。
「今助けるよ。『体力譲渡』」
僕がスキルを発動すると、白い光が右手から迸りエアの傷口へと吸い込まれていく。
「ふうっ」
短距離を疾走したかのような疲労感を覚えると共に、エアの太腿から刺さっていた枝が、ズルリと抜け落ちた。
先が尖っている枝は15cm程あり、あれが刺さっていたとなると、かなり痛々しい。
「ありがとう、嘘みたい。⋯⋯回復もできるなんて。人族ってそんなになんでもできるの?」
僕の場合、体力の譲渡であるため回復ではないのだが、傷が治るのを見ると回復魔法にしか思えないだろう。
この能力、圧倒的な僕のレベルがあることでできた技だけど、実際の所自分の傷を治せないのが弱点だ。
今のレベルが下がった状態で怪我をすることは、治療ができないという危険性を含んでいる。
「えぇ!ユズキさんは特別ですから!」
可愛らしくドヤ顔を決めるセラ様。
確かに、今の僕はセラ様によるオーダーメイドのような存在だけど。
「これでも、できることが制約されているからね。エアの魔法で助かったよ。付与魔法や普通の攻撃魔法を僕は使えないからね」
僕の説明に、セラ様がきょとんとした表情をする。
「え、使えるはずですよ魔法?」
え?そんな。生活魔法レベルさえできていなかったのに?
正直、今でも僕は生活魔法レベルでさえ使えていない。
しかし、魔力を注ぎ込む装置で水道や火を使うことはできたし、何より『魔力譲渡』も使える。
確かに、僕に魔力がないわけではない。
『それは、いきなり高レベルになった弊害かもしれませんね』
脳内でセライが突然声をかけてきた。
『あ、その前にマスター。今のやり取りでエアの友好度が上がったので『レベル譲渡』を使えるようになりましたよ。ちなみに、彼女に譲渡できるレベルは5ですね。まだ、人族に対する不信があるみたいです』
エアに『レベル譲渡』が使えるようになったことは心強かった。
だけど、そう簡単に人族を信頼することは難しいのだろう。
でも、出会った時に叫ばれたことを考えれば大きな進歩だ。
『話を戻して、マスターはアマラ様の世界のスキル『レベル9999』を、セラ様を通して受け取りました。本来なら、成人男性の平均レベルで異世界に降り立つはずだったんです。だけど、それがスキルのせいで赤ちゃんの身体に、オリンピック金メダル級選手の力が宿った感じになっちゃったんです』
『そうか、いきなりもらったレベルに身体がついていかなかった?』
僕が頭の中で回答すると、セライは嬉しそうに笑った。
傍から見れば脳内の女の子と喋るヤバい人だが、今や彼女の声は普通に人と接しているようだった。
『えぇ、だから正常な過程で覚えるはずの初級魔法やスキルを全部すっ飛ばしていましたから。でも、今はレベルが極限まで下がったお陰で、その正常な過程を身体に覚え込ませている途中です。今なら、魔法の説明を受ければきっと使えますよ。それが、私。スキル『最適化』の能力です。セライという名前は、自分で生み出して気に入っているので、そのまま使ってください』
はにかむ様な少女の声。
その声は女神セラ様と同じものだが、少しあどけなさを感じさせる声色だ。
『本来なら、私はこの世界にもアマラ様の世界にもないスキルでした。しかし、アマラ様のスキルが、セラ様を通過することで新たなスキル『最適化』が生み出されたのです。他の女神様の世界のスキルから、新しいスキルを創り出すなんて、マスターの世界の言葉で言えば、セラ様こそがチートキャラなのかもしれませんね』
身体がうまく扱えた理由が、一気に分かったようだった。
セラ様から、徐々にレベルが馴染んでくると説明は受けていた。
だけど、その感覚は遅々としたもので実感してきたのは最近だ。
だがそれも、レベル9999の状態という膨大な作業量を、セラ様によって産まれてきたばかりのスキル、『最適化』が一生懸命、レベルが僕に適合するように働いてくれていたからに他ならない。
『ありがとう』
事実を知った僕の脳内に、一人ずっと作業をしてくれていた『最適化』に対して感謝の念が浮かんだ。
『ふふっ、初めは作業に追われて機械的なお返事しかできませんでしたが、レベルが下がったことで仕事量も減って、より人のようにコミュニケーションが取れるようになりました!私もスキルとして成長したので、これからはレベルの回復を加速させますよ!』
あぁ。だから、セライは数日で一気にレベルが回復するスピードが加速すると言ったのだ。
なんだか、生まれ変わった様な気分だ。
それだけ、僕の身体に宿る『レベル9999』は、いきなり持つには過ぎた力だったようだ。
『さてさてこんな脳内の会話は、圧縮された知覚の中でのやり取りですけど、そろそろ反応しないとセラ様とエアが、ぼーっとしているマスターにビックリしちゃいますよ』
いたずらっぽく話すセライの声で、僕は慌てて我に返った。
ふと見ると、あぁ本当だ。
話の途中でぼーっとしてしまった僕の顔をエアが心配そうに眺めている。
「大丈夫?」
エアの声に僕は力強く頷いた。
「うん、うん!ごめん。大丈夫だよ!」
「いきなりぼーっとされたから、びっくりしました」
少し慌てるセラ様。
僕はセラ様にグッと親指を立てる。
「大丈夫です!セラ様のスキル『最適化』のことが分かったんです!本当にありがとうございます!」
そんな嬉しそうな僕を見て、セラ様は小首を傾げる。
「え、それなんですか?私、クシャミをした衝撃と、アマラ様のスキルを勝手に使っちゃったショックで、その時のことをほとんど覚えていないんです。な、何ですかぁ。『おぷてぃまいず』って?」
失態を思い出したのか、泣きそうな表情を浮かべるセラ様。
そして、何がなんだか分からない様子のエア。
そんなセラ様の様子を見て、確かにセライの言うとおりセラ様はチートキャラなんだと僕は感じるのだった。
セラ様の声に僕は後ろを振り向きざまに剣を振るう。
歩き出して2時間は経っただろうか。
僕達は、ベイルベアーに遭遇していた。
「援護します!『水壁』!」
エアが魔法を唱えると、間欠泉のように地面から魔法陣と共に水の壁が出現した。
「ベイルベアーの巨体だと、牽制くらいしかできないから!」
確かに重量級のベイルベアーには、噴き出される水も一瞬の躊躇いしか与えることができないだろう。
「しかも、2体か!ハッ!」
僕の斬撃は水壁を切り裂いて、ベイルベアーの左足の腱を切り裂く。
それにしても大きい。
初めて、エラリア郊外で出会ったベイルベアーを、さらに一回り大きくした形だ。
野生を剥き出しにした咆哮が響き渡る。
「──ッ!!」
本能のまま、振り下ろしてくるベイルベアーの一撃を紙一重でかわす。
なんだか、調子が良い。
思ったように身体が動く。
レベルは下がったというのに、どう身体を動かせば良いか分かった気がした。
「キャッ!こっちに来ないで!!」
まずい!
エアの方にもう一体が迫っていた。
その巨体からは想像できない程の速力で、エアを吹き飛ばそうとするベイルベアーに向かって、僕は咄嗟に剣を投げた。
空を切り裂き、一直線に向かった剣は深々とベイルベアーの右眼を貫いた。
痛みと剣の衝撃によって、ベイルベアーの軌道が変わる。
「跳べ!」
僕の言葉に、エアが横っ飛びでベイルベアーの進路上から逃れた。
そのすぐ横を、暴風のようにベイルベアーが前足を振り回しながら突進していく。
ドゴンッ!
まるで爆発が起こったような音が響き渡った。
ベイルベアーがエアの後ろにあった大木に衝突した音だ。
この隙を逃す訳にはいかない。
「ハァッ!」
両手に懇親の力を込めて、僕は地面を蹴ると、魔法袋から新たな剣を取り出す。そして、そのまま握りしめた剣を深々とベイルベアーの首筋に刃をつき立てた。
セラ様が入れていておいてくれた予備の剣だ。いくらかの武器の予備も魔法袋に入れておいてくれたのは有り難い。
僕が今まで親しんできた剣は、宿屋で転移魔法を受けたことにより手放してしまっていた。
「ガッガアッ!」
最後の反撃を繰り出そうと、ベイルベアーが背中に張り付いた僕を掴もうと前足を伸ばしてくる。
その足が僕を掴もうとする寸前、僕はベイルベアーの背中を蹴って距離を取る。
深々と刺さった刃は、硬い頸椎の隙間から神経を切り離したはずだ。
激しく痙攣するようなベイルベアーの動きからすぐに視線を戻して、今度はもう一頭のベイルベアーに向き直る。
「これを使って!『水属性付与』!」
エアが叫ぶと、青白い魔法陣が彼女の足元に浮かび上がった。
光はすぐさま地面から流れるように湧き上がると、僕の剣へと飛来する。
「水の刃よ!リーチを広げるわ!」
光が剣にまとわりつくと、青白い冷気が刀身を包み込む。
仲間がやられたことに激怒したベイルベアーが、怒りの咆哮を上げて飛びかかってきた。
ベイルベアーは、その巨体を大きく広げて飛びかかってくるが、腹部はガラ空きだ。
「その子!押し潰そうとしてる!」
セラ様の声が耳に届く。
「クッ!」
身を捻りながら剣先で弧を描く。
水の軌跡が糸のようにしなったが、その糸は刃の様な切れ味も持ち合わせていた。
水の刃が、音もなくベイルベアーの脇腹を切り裂いた。
僕は態勢を立て直して、袈裟斬りに剣を振るう。
水の刃は意思を宿したかのように、再びしなると今度はベイルベアーの前足と首を切り払った。
──シュンッ
音と共にベイルベアーの前足がぼとりと落ちた。
しかし、さすがの巨体に首を切り落とすには至らなかったようだ。
「終わった」
手応えはあった。
ゆっくりと僕はベイルベアーに向けて剣を構える。
その動きを確認したかのように、ベイルベアーはぐらりと大きく傾いたかと思うと、地響きを立てて地面へと崩れ落ちた。
「す、凄い!」
エアが足を押さえながら近づいてくる。
少し左足を引きずりながらも、顔は嬉しそうだ。
「少し木の破片が刺さって、クッ──」
ベイルベアーの突撃を交わした時に怪我をしたのか、ピッチリとしたダークブラウンのパンツを軽々と貫通して、親指程の太さの枝がエアの左太腿に突き刺さっている。
「今助けるよ。『体力譲渡』」
僕がスキルを発動すると、白い光が右手から迸りエアの傷口へと吸い込まれていく。
「ふうっ」
短距離を疾走したかのような疲労感を覚えると共に、エアの太腿から刺さっていた枝が、ズルリと抜け落ちた。
先が尖っている枝は15cm程あり、あれが刺さっていたとなると、かなり痛々しい。
「ありがとう、嘘みたい。⋯⋯回復もできるなんて。人族ってそんなになんでもできるの?」
僕の場合、体力の譲渡であるため回復ではないのだが、傷が治るのを見ると回復魔法にしか思えないだろう。
この能力、圧倒的な僕のレベルがあることでできた技だけど、実際の所自分の傷を治せないのが弱点だ。
今のレベルが下がった状態で怪我をすることは、治療ができないという危険性を含んでいる。
「えぇ!ユズキさんは特別ですから!」
可愛らしくドヤ顔を決めるセラ様。
確かに、今の僕はセラ様によるオーダーメイドのような存在だけど。
「これでも、できることが制約されているからね。エアの魔法で助かったよ。付与魔法や普通の攻撃魔法を僕は使えないからね」
僕の説明に、セラ様がきょとんとした表情をする。
「え、使えるはずですよ魔法?」
え?そんな。生活魔法レベルさえできていなかったのに?
正直、今でも僕は生活魔法レベルでさえ使えていない。
しかし、魔力を注ぎ込む装置で水道や火を使うことはできたし、何より『魔力譲渡』も使える。
確かに、僕に魔力がないわけではない。
『それは、いきなり高レベルになった弊害かもしれませんね』
脳内でセライが突然声をかけてきた。
『あ、その前にマスター。今のやり取りでエアの友好度が上がったので『レベル譲渡』を使えるようになりましたよ。ちなみに、彼女に譲渡できるレベルは5ですね。まだ、人族に対する不信があるみたいです』
エアに『レベル譲渡』が使えるようになったことは心強かった。
だけど、そう簡単に人族を信頼することは難しいのだろう。
でも、出会った時に叫ばれたことを考えれば大きな進歩だ。
『話を戻して、マスターはアマラ様の世界のスキル『レベル9999』を、セラ様を通して受け取りました。本来なら、成人男性の平均レベルで異世界に降り立つはずだったんです。だけど、それがスキルのせいで赤ちゃんの身体に、オリンピック金メダル級選手の力が宿った感じになっちゃったんです』
『そうか、いきなりもらったレベルに身体がついていかなかった?』
僕が頭の中で回答すると、セライは嬉しそうに笑った。
傍から見れば脳内の女の子と喋るヤバい人だが、今や彼女の声は普通に人と接しているようだった。
『えぇ、だから正常な過程で覚えるはずの初級魔法やスキルを全部すっ飛ばしていましたから。でも、今はレベルが極限まで下がったお陰で、その正常な過程を身体に覚え込ませている途中です。今なら、魔法の説明を受ければきっと使えますよ。それが、私。スキル『最適化』の能力です。セライという名前は、自分で生み出して気に入っているので、そのまま使ってください』
はにかむ様な少女の声。
その声は女神セラ様と同じものだが、少しあどけなさを感じさせる声色だ。
『本来なら、私はこの世界にもアマラ様の世界にもないスキルでした。しかし、アマラ様のスキルが、セラ様を通過することで新たなスキル『最適化』が生み出されたのです。他の女神様の世界のスキルから、新しいスキルを創り出すなんて、マスターの世界の言葉で言えば、セラ様こそがチートキャラなのかもしれませんね』
身体がうまく扱えた理由が、一気に分かったようだった。
セラ様から、徐々にレベルが馴染んでくると説明は受けていた。
だけど、その感覚は遅々としたもので実感してきたのは最近だ。
だがそれも、レベル9999の状態という膨大な作業量を、セラ様によって産まれてきたばかりのスキル、『最適化』が一生懸命、レベルが僕に適合するように働いてくれていたからに他ならない。
『ありがとう』
事実を知った僕の脳内に、一人ずっと作業をしてくれていた『最適化』に対して感謝の念が浮かんだ。
『ふふっ、初めは作業に追われて機械的なお返事しかできませんでしたが、レベルが下がったことで仕事量も減って、より人のようにコミュニケーションが取れるようになりました!私もスキルとして成長したので、これからはレベルの回復を加速させますよ!』
あぁ。だから、セライは数日で一気にレベルが回復するスピードが加速すると言ったのだ。
なんだか、生まれ変わった様な気分だ。
それだけ、僕の身体に宿る『レベル9999』は、いきなり持つには過ぎた力だったようだ。
『さてさてこんな脳内の会話は、圧縮された知覚の中でのやり取りですけど、そろそろ反応しないとセラ様とエアが、ぼーっとしているマスターにビックリしちゃいますよ』
いたずらっぽく話すセライの声で、僕は慌てて我に返った。
ふと見ると、あぁ本当だ。
話の途中でぼーっとしてしまった僕の顔をエアが心配そうに眺めている。
「大丈夫?」
エアの声に僕は力強く頷いた。
「うん、うん!ごめん。大丈夫だよ!」
「いきなりぼーっとされたから、びっくりしました」
少し慌てるセラ様。
僕はセラ様にグッと親指を立てる。
「大丈夫です!セラ様のスキル『最適化』のことが分かったんです!本当にありがとうございます!」
そんな嬉しそうな僕を見て、セラ様は小首を傾げる。
「え、それなんですか?私、クシャミをした衝撃と、アマラ様のスキルを勝手に使っちゃったショックで、その時のことをほとんど覚えていないんです。な、何ですかぁ。『おぷてぃまいず』って?」
失態を思い出したのか、泣きそうな表情を浮かべるセラ様。
そして、何がなんだか分からない様子のエア。
そんなセラ様の様子を見て、確かにセライの言うとおりセラ様はチートキャラなんだと僕は感じるのだった。
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