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しおりを挟む氷結島の中央に置かれた巨大なレンズ。
ガルンシュタエンは霧の中で、その傍らに立っていた。
操玉でエシュタガが手に持った、銃身の無い白いハンドガン。そのトリガーがカチンと引かれると同時に、レンズの背後に異次元の扉、キネイニウム空間がポッカリと口を開けた。
レンズに触れるのを躊躇うように手を伸ばすガルンシュタエン。渋々、ドッと上部を押されたレンズは、キネイニウム空間に向かって倒れ込んで行く。
「ぐ···」
レンズからエシュタガに流れ込み伝わって来た関心の力。レンズが避難する都内の人々から吸収した有り余る関心の力は、心の囁きのようなノイズを伴い、余剰エネルギーとなってエシュタガの感覚に染み込んできた。心を引き摺られる感覚と、実情の無い衝動が錯綜する。
「···やはり、中々の強さだな?」
「······」
「ガルン?」
「あ!ごめん!なんだっけ?」
「フフ···考え事とは珍しい···あの潜水艦の想文の事か?」
「うん!···多分人工知能なんだろうけど、巨獣の想文にも似てるような···?それと!宝甲が反応してた!」
「!、そうか···気になるな?···だがそれは後だ!···今は···」
キネイニウム空間の扉が、レンズを飲み込んだままでゆっくりと閉じて行く。
友情の関心が為に我が友まで謀ったのだ···しくじれんぞ?エグジガン······!
ガルンシュタエンは空間が閉じきるまで扉を睨み、その場に立ち尽くしていた。
氷結島の端で戦うアンバーニオン ソイガターは、巨体に似合わぬ高速の連続突きで尾の先の杭を打ち込んで来るエグルドーゴの攻撃を躱し続けていた。
エグルドーゴの攻撃は、産卵する蜻蛉か、ハチのホバリングの様相を呈している。
アンバーニオン ソイガターはファイティングポーズを保ったままで身をよじり、ボクサーのように一撃毎に的確に反応しては避け続け、未だに直撃を許してはいない。その状況に焦るリキュスト······
「くそぁ!神霧が···!こう薄口ァ、目眩ましにもなんネェ!」
「気づいたカァ?」
「!」
「「ヌゥんッッッ!」」
ガワッッッ!
両拳のガッツポーズを腰だめに引き、胸を張り、気合いを入れる宇留とアッカ。
するとアンバーニオン ソイガターを中心に、実態の無い筈の神霧がドーム状にブワッと晴れる。
「ウっソだろ?バカな!」
「咆哮空間だ!あらゆる術を弾き飛ばす!」
アンバーニオンの操玉に宇留を乗せたままで浮かび、技の解説をするソイガターは微動だにしない。完全にアンバーニオンへと意識が移動しているようで、その証拠に今は宇留のコックピットシートと化した琥珀の虎からではなく、アンバーニオン本体からソイガターの声が響く。
アンバーニオン オドデウス同様、宇留のコントロールをソイガターのセンスが増幅し、まさに阿吽の呼吸が成立しているのは、その操作システムの恩恵だけでは無かった。
不思議と息が合う。
信じ合う心が共鳴する程に、絆が力を導く。思重合想の真骨頂である。
そしてとあるエグルドーゴの一撃を、アンバーニオン ソイガターはノーモーションで掴まえた。削岩機ユニットの本体を抱き固められ、打突杭が歪んでギショギショと虚しく軋むピストンの音が辺りに響く。
「ぬんッ!」
ヅショゴッッ!
アンバーニオン ソイガターはそのままエグルドーゴを軽々と振り回しつつ、削岩機ユニットを氷結島の地面に深々と突き刺した。そのせいか、エグルドーゴの頭部はアンバーニオン ソイガターの目線の下に来ていた。
グアシイィィィン!
アンバーニオン ソイガターは、自身の左手で右手の渾身のパンチを受け止めながらエグルドーゴを見下ろし唸る。
グコルルルルルル······
「かああ!ッッソがぁ!」
ヴシーーーー!
「!」
エア圧の音を残し、エグルドーゴは削岩機ユニットを切り離して離脱した。
「自爆しろ!」
キュボヴァババババパァン!
アンバーニオン ソイガターの至近距離で、削岩機ユニットの各部に仕掛けられていた自爆装置が連続で爆発し、周囲は黒煙に包まれる。
だがすぐに煙は咆哮空間によって吹き飛ばされ、そこには何事も無かったかのようにアンバーニオン ソイガターが堂々と佇んでいた。
だがリキュストは、宝甲に刻まれるも再生し、塞がりつつあるアンバーニオン ソイガターの傷だらけの体表に着目する。
「来ォい!ミサイルユニット!」
数秒もしない内に霧中を掻き分け、エグルドーゴに向かって何処からか飛んで来たミサイルユニット。エグルドーゴは腰部ユニット接続部を時計回り後方に回転させミサイルユニットを換装。再び腰部を時計回り前方に回し終えた瞬間にミサイルを斉射した。
「ミサイル一斉発射!」
シュパパパパパーーー!
アンバーニオン ソイガター目掛けユニットから飛び出す小型誘導弾の群れ。リキュストは大ダメージ確定の瞬間を期待する。
「傷口に塩ならぬ、ミサイルの爆発だぁ!飛び石フロントガラスみてーに追加の衝撃で割れッちまえ!」
ミサイル群を睨むアンバーニオン ソイガターの手先の爪がオレンジ色にボオッと光る。
そして右拳を握ると、おもむろに空をフワッと殴った。
ボガババババパァン!ドパババババパァンヴォ!ボオン!キュババパァン!ズヴォァーーン!ヴォヴォヴボ···ゥゥゥ!!
「なッッにぃ!」
不可視のパンチの連撃が全てのミサイルを叩く。
ミサイルは、アンバーニオン ソイガターの目前でほぼ全て撃墜され、爆発の花火が咲いた。仲間の爆発に翻弄され、ヒュルヒュルと頼りなくアンバーニオン ソイガターの元へとようやくやって来た残り一発のミサイルも、輝く爪の指先が爪弾くデコピンで弾き飛ばされ、エグルドーゴの顔前でボフッと頼りなく爆散した。
アンバーニオン ソイガターはその指先を二本に増やし、天に向ける。
「猫拳空間!」
「ぬぅ!ぐ!」
狼狽え沈黙するリキュストとエグルドーゴ。
「ネ!ネコパンチフィールドだとぉ······!」
猫派の宇留は頬を赤らめ、何かを妄想して打ち震えていた。
「ス、スマイ!後でネコカフェにでも行こうか?」
少し引き気味のソイガターは、いつもと違う素な口調でコメントした。
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