神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

憂 う

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 時間は多少戻って。

 謎の駄菓子屋前で、AIカーに乗った磨瑠香達を送り出したさくら。

 彼女はしばらく元気に手を振っていたが、テールランプが見えなくなった途端、あまりにも分かりやすくその手から力が抜けた。

「······」

 折子は、燻る残り火のようにその肩を落としているさくらの背中を優しく見つめる。
「一言だけでよかったの?私達だけじゃなくて、宇留にも遠くからはるばる会いに来たんでしょう?」
 折子の問いに振り向かず口籠るさくらだったが、答えを振り絞る為に背筋が整うのが見えた。
「えと···受け売りですけど···心鷲掴みの呪文、···カンタンハブキアトアジヒクでしたっけ?せめてもの···せめてものレジスタンス?···でしょうか?」
 
 台詞が涙声である。
 目の前で女子がこうなっていると、折子は頭を撫でずにはいられない。

「成る程、間違ってはいないわね?」
 折子はさくらの横に視線を合わさずに並び、パスパスとさくらの頭を撫でる。
「みんな、みんなとてもお互いの、気持ちを、大切にしていて···私なんかが、入り込める···余地なんて···!···このさくらの恋心も、私の記憶わたしの気持ちにずっと、グスッ!、ずっと!みち!導かれたものなのに···!」
「あら!余地なら、世の中分からないわよ?···でも真剣なのね?素晴らしいわ。ほら、せっかく可愛いんだから、お顔グシャグシャになさいますな?」
「!、折子アライズお姉さま···!」


 ······
 折子に少し顔を近付けたさくらは、コショコショと何かを小声で呟いた。そしてその声色は、先程よりも震えている。

「···皇帝エグジガンが···怖い?」
「だ、ダメですお姉さま!バビエル協定が···」
 顔を上げたさくらは、涙で濡れた顔のまま、目を見開いて驚く。
「わかってる!大丈夫よ?あんなルール···でも···そうね?」
「この時間せかいせん苗木わたしの事を思うと······でもごめんなさい!でも言えないんです!」
「わかってる···頑張って?···この時間のあなたを信じなさいね?」
「!」

 折子はさくらの右肩に額を乗せ、右手でさくらの左肩をポンポンと優しく叩いた。
 






 暗い遊歩道を不機嫌そうにノシノシ歩き、ベースキャンプに戻ってきた倉岸エブブゲガ

 スマホのライトは意外と光量が足りず、遊歩道と廃キャンプ場を隔てる茂みを良く照らし損ねた倉岸の足がもつれる。
「!っあーだッ!ッッソッ!」
 悪態をつきながらなんとか体勢を建て直し、転倒は回避出来たようだ。
 さくらのテントを横目でジロリと流し見つつ、周囲に誰も居ないか警戒しながら自分のテントまで戻る。
「あの娘は居ないのか···?」
 独り言を言いながらテントに入り、内部をライトで照らし異常が無いかチェックする。そのままそそくさと入り口を閉じ、テント内に仕掛けたトラップを解除、それらの機器を無造作に脇に寄せ、大の字に寝転んで息を吐く。

「は!ぁぁあッ!」

 作戦失敗、成果無し、恥ずかしい。
「!」
 倉岸エブブゲガは八つ当たりに、ドツ!と右肘で地面を打った。
「っ痛ッー!」
 一瞬、敷いたシートの下に小石でも取り忘れたかと思ったが、これはかすり傷に追い討ちを掛けた時の痛みだ。
 起き上がり肘に触れてみると、予想に反してややツルツルとした肌触り。何かが傷口に貼ってある。
「?、陸橋を落ちた時のキズか???こ、これは?」
 倉岸エブブゲガは肘の傷口に貼ってあるフィルムのようなものをペリペリと剥がした。

「こ、これは···琥珀···か?い、いつの間に!」

 肘に貼り付いていたのは円形をしたオレンジ色の透明フィルム。
 琥珀めいた質感のそれが、いつの間にか傷口を覆っていた。
「ま!まさか、こいつぁ宝甲か!?須舞 宇留め!こんな味なマネを···」
 琥珀の絆創膏フィルムを眺める倉岸エブブゲガの表情が、やや下卑に歪む。
「···傷口が回復していない所を見るとどうやら機能は停止しているようだが、···フフフ、バカめ、この俺に貴重なサンプルを預けるとはな?ならばこれは···」「!」

 倉岸の頬を涙が伝い、シートの上にタツリと落ちる。
 それはエブブゲガの意思ではなかった。


「ぬ!んむ···!」
 倉岸エブブゲガは、指先に摘み上げた琥珀の絆創膏を見ながらなにやら逡巡する。そして苛立ちを吐き捨てるように、自分の中に居るトートに向かって声を荒げた。

「あーもー!わかった!わかったよもー!宝甲これは何にも使わねーよ!だからそんなに頭痛くすんな!もー!」

 倉岸エブブゲガは未練がましくブツブツと独り言を言いながら、生徒手帳をポケットから取り出す。
 開いたメモ欄は既にエブブゲガによる小さい字のメモで埋まっていたが、そこへ構わず琥珀の絆創膏を栞のように挟み込んだ。

 手の震えが止まらない。倉岸エブブゲガがその生徒手帳をモタモタとポケットに入れていると、テントの外からジャリッと地面を踏み締める音が聞こえた。
「!」
 だが続いてスンと鼻を啜る声が続く。
 外に居たのはさくらである。

「なんだオマエか?、脅かす···な!」
「···泣いてるの?」
「ぬぐ、オマエもな?最も俺は好きで泣いてるんじゃねーよ。グスッ!」

「!」
 テントの表面にライトの光が当たって透ける。ライトの光は二つ、三つ···。居場所がバレた!?
 しゃがみながら驚き足を引いた倉岸エブブゲガの足がシートと擦れ合い、キシュッと物音を立てる。
「大丈夫」
「···なに?」
 背後から多数の懐中電灯で照らされ、さくらの影が倉岸エブブゲガのテントに浮かび上がる。
 その影は確かに大丈夫と言った。


「お嬢様、お迎えに上がりました」

 低くも丁寧な中年女性の声。そしてその背後にはその仲間だろうか?多数の男達の気配。
「わかりました。皆さん、大変ご心配をおかけしました」
 丁寧で自信に満ちた少女の声。
 カレーをトレードし合った時とはまるで別人の雰囲気。
「お、おい!」
 倉岸エブブゲガは入り口を開けずに声を上げる。

「ミエナイさんもお世話になりました。私は家に帰り咲きます。あなたもお元気で···」

 さくらがそう告げるその間も、先程の中年女性の声で発見の報告と車両の手配を要請している声が聞こえた。
「よ、用事は済んだのか?」
「···はい!」
「そ、そうか、早いな?こっちも、こっちもなんかアリガト···な?」
「お互いイマイチだったようですね?」

 お、俺は何を言ってるんだ?

「ま、まぁこっちはともかく、キャンプなんてイイ経験になったろ?男子は三日だが女子は一日で刮目せい!ってな?人生無駄な時間だったなんて事はないぜ?」
「ふふ···そういうの昔の映画でありましたね?ミエナイさんはおじさんですか?男の子ですか?」
 ···さくらのテントが据え付けてあった場所から、ガチャガチャと乱暴に撤収する音が聞こえ始める。
 焦り。エブブゲガは倉岸の中に、君は元居た場所に帰って良いのか?という疑問と焦りが溢れるのがわかった。

 そうか!理由はわからんが、この娘とさっきまでの娘は別人だ!時間、時間切れでスゲ替わる時間が来たってのか!?この俺が···俺とした事が!この小娘に共感など···!

「丁寧に!···さあお嬢様こちらへ···」
 恐らく私設の捜索隊なのであろう。
先程のリーダーらしき中年女性がテント撤収班に注意をし、続けてさくらを連れ出そうと声を掛ける。

「じゃあサヨナラ、お世話になりました。ミエナイさん!」
「!!······」
 別れの言葉と共に、名刺がスッとテントの隙間から差し込まれる。

 余韻と名刺、撤収班の足音を残して、さくらは廃キャンプ場から去ったようだ。
 倉岸エブブゲガはテント出入り口のに手を添えながらも、出て行く事は出来なかった。




「······借り、返さねぇとなぁ?トートぉ
 !
 名刺を拾い上げ、目を通す倉岸エブブゲガ
「帰って装置修理して···まあ、その頃にゃ俺も居ないからよ。もう少し頼むぜ?騰」
 
 エブブゲガ···


「!」
 束の間に日和ったエブブゲガだったが、またすぐに倉岸の体のコントロールを奪い、そして闘志を込めた目で虚空を睨む。



「後は······」

 ?

「取り敢えず寝るか···」














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