神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 解き放つ

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 宇留達を乗せたバンはゆっくりと走り出す。
 そしてエシュタガは未だに黙って共上が差し出した琥珀のブレスレットを、申し訳無さそうに見つめているだけだった。
 エシュタガがガルンと呼んだ琥珀のブレスレット。
 宇留はそのブレスレットが自身の持つアンバーニオンを操る為のアイテム。ロルトノクの琥珀アンバーとほぼ同様のものであると確信して緊張の面持ちを向ける。
 それがエシュタガの乗機、ガルンシュタエンをぶ為の琥珀であると······。
 琥珀のブレスレットを持つ共上は、エシュタガとしばらく面と向かっていたが、視線だけを宇留達に送った。
「宇留くん!心中複雑なのは分かるがもーう少し!、我々の手順プロトコルに付き合ってくれ!···でねぇ?もうそろそろ出て来てくれないか?ヒメサマ?」
「······」
 この時、宇留の胸元のロルトノクの琥珀アンバーは、曇って内部のヒメナが見えないままだった。押し黙り、姿も現さなないヒメナに共上は再び懇願する。
「大丈夫だよ?今の所我々は間違った事はしていないつもりだ!気が付いているンでしょう?アンバーニオン“達„はもう上空うえに来ている」
「え!?」
 上を向いた宇留は予感が当たったので思わず声が大きくなった。しかし何故共上がその事を知り得たのか?、宇留にはまだ分からなかった。
「······ん~、ヒメサマぁ!俺もエシュタガこいつももうアントキみたいなバカガキじゃないから大丈夫!反省してんだ!ごめん!だから頼むッッ···!」
 共上がそう言い終わらない内にロルトノクの琥珀アンバーの曇りが取れ、ヒメナが姿を現した。エシュタガは え? といった表情で共上を見ている。
「おお!」
「ヒメナ!」
「······共上シシオロウズレオウあなたたちに助けて貰った事は感謝しています。本当にありがとう。それで、その手順プロトコルボクの機能停止中の事についてなんだけれど?」
 宇留との雑談時と比べて、ヒメナはいつにも増して事務的な口調だった。それに加え、ヒメナと共上は“旧知„の間柄であるという。
「?(ムカシのハナシ?)」
 何か引っ掛かるものがあったが、宇留は後部座席の四人の中で僅かな疎外感を持ってしまった。
「アンバーニオンに乗れば分かる!」
「!」「!、そ、それはどうして?どうしてあなたたちが?」
「悪いけど今説明してる時間が無くてね?後からのお楽しみだってさ?君達の新しい情報きもちはそこにある!」
「!?」
「新しい···情報きもち?」
「だけど期待はしないでね?しっかり···しっかり受け止めるんだ!ほら!お前も!」
「!」
 共上は不意打ち気味に琥珀のブレスレットを持った手をエシュタガにグイと寄せる。···そして僅かに、エシュタガの手が琥珀のブレスレットに伸びた時だった。
「掴まって!」
「「「!」」」
 運転をしていた豪巻児が叫んだ。
 急ブレーキからドンという衝撃。
 車が揺れ、エシュタガの手の中に琥珀のブレスレットが落ちる。
「!」
 車体前方が持ち上がり何者かの影がヌッと姿を現す。ガスマスクを着けた大男がゴーグルをフロントガラスに押し付け、車内の様子を覗き見ていた。
「く、この!」
 豪巻児がアクセルを踏むもタイヤはその場で回るだけで車体を更に揺らすのみに留まった。空転したタイヤがアスファルトを焦がし煙が上がる。しかしその煙とは色の異なる薄紫色の煙が共上の視界に入る。
「外に出るなよ!ガスだ!」
 良く見ると薄紫色のガスは大男の服の隙間からモウモウと立ち昇り、量は増えつつあるようだ。
 バキャ!バギギギ!
「!!」
 続けてリアハッチの窓が破られ、一瞬にして扉が車体から引き千切られる。車の後方から襲撃してきた別の大男は鼻息も荒く、ガスマスクの向こうでエシュタガだけを睨んでいた。
「モッカイ掴まれ!」「、!」
 FPSFの部隊を乗せた後続の四駆車が、大男を挟み撃ちにしようと宇留達の車の後方に迫る。しかし大男は持っていたリアハッチの扉を四駆車に投げつけ牽制し、後部座席を押し退け車に入って来ようとする。
 四駆車は豪腕によって高速で投げ飛ばされたリアハッチを避けようとして左脇の水田に突っ込んでしまった。
「外に出るな!ガスだ!」
 共上がブレスレットの機械で四駆車を降りようとする隊員に通達する。その時、ドッとフロントの大男が右側に弾き飛ばされ、ドァァァン!という音が遅れて車内に流れ込んで来た。
 
 停車した軍用車の上で、対戦車ライフルを構えうつぶせになった豪巻児 奏がもう一度狙撃を行い大男を更に奥へと弾き飛ばす。
「効いてるケド、本当に抜けないね?なにあれ?」
 強烈な一弾を二度も喰らい、まだ生きて動いている大男をスコープを覗いたままで確認する奏。ガスの大元に狙撃の影響があったのか、大男の周囲がより濃くなったガスで濁っていく。
 ガッ!
「!!」
 後ろを振り向いていたエシュタガが、車内に侵入してきた大男に襟首を持ち上げられ引き摺られそうになる。
「あ!」
 宇留は無意識にエシュタガの手首を伸ばした手で掴んでいた。
 しかし、強引に引き摺られたエシュタガの手首は、いとも簡単に宇留の手元からスルリと抜けて行く。共上もアクションを起こそうとしていたが間に合わず、そのままエシュタガは車外へと放り出されてしまった。そして大男はエシュタガの転がり落ちた方へと向き直る。
「エシュタガ!」
 叫んだ宇留の肩を共上が掴む。宇留が振り返ると、視線は運転席の豪巻児に向けられていた。
「出せ!」
「そんな!」
「大丈夫!狙撃の為に安全距離を取るだけだ!君も今更“プロ„を見くびるなんて事ぁ無いだろ?」
 共上はわざとらしく微笑む。宇留達の車に次いで、水田に突っ込んでいた四駆車も自力で脱出に成功し後に続く。
 うずくまるガス大男の脇を加速し走り抜ける車列に大男達は見向きもしない。立ち上がったエシュタガは、自身に歩み迫る大男と睨み合う。
 と、突然、大男は屈んで右側頭部を曲げた腕でガードした。
 ダッガッ!
 肩口の筋肉だけで弾丸を受け止めた大男は、僅かによろけ左手を地面に付けただけで平然としていた。そしてその奥、ガス大男も煙の中からユラユラと立ち上がる。
 スッ!チャキ!
「!」
 琥珀のブレスレットをその場で装着するエシュタガを見た大男達は、ピタッと動きを止めた。
 ブレスレットに添えた左手を、宇留に掴まれ赤くなった部分に添え直したエシュタガは、微笑みながら大男達に視線を戻した。

「ど、どうなってんだ?」
 道の先で宇留達の車列に合流した軍用車の藍罠と奏も注目する。

「······有言実行の為に御大層ごたいそうな事だ。このノリ···さすがに飽きたな?」

 エシュタガは、右手のブレスレットに付いた一番大きな琥珀にもう一度手を伸ばし、ボタンのようなその琥珀をカチッと押した。





 放牧場に降った四つの球体の周囲を、一機の国防隊偵察ヘリが飛んでいる。
「!」
 すると一番大きな球体の表面をうねりが駆け抜け、一塊になっていた一群からそれだけが抜きん出た。
 球体の表面の張りがたわみ、しぼむかと思われたその時、膜になった表面は内部に居た何かの一つ所にまとまって吸い込まれるように見えなくなった。
「ごこぅう······!」
 球体の内部に居た怪獣、ベデヘム144は唸り声と共に頭を上げた。



















 

 
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