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復活!琥珀の闘神!
初夏の鼓動
しおりを挟む地球の何処か。
完全単一物質次元であるキネイニウム空間と、この世界の次元との狭間に造られたアルオスゴロノ帝国本拠地。
そのキネイニウムの採掘坑跡に聳える帝国の居城、エガルカノル。
その内部の暗く広大な重機起動試験場で、人型巨大ロボットと巨大怪獣によるスパーリングが行われていた。
二本の首で繋がれた一つ頭部に、巨大な水牛のような二本の角を備えた巨大ロボット、エザンデッフは、ダッシュからの角突きを容赦無くスパーリング相手の怪獣、ベデヘムに押し込んだ。
トカゲを霊長類に進化させたような筋骨隆々な容貌のベデヘムは、ただ寡黙にエザンデッフの角を掴み受け止めた。
二つの巨岩がゴロゴロと転げ回るような迫力の攻防に、安全区域で見守る帝国の職員達は逐一身を引きながら見守っている。押し込み終えたエザンデッフの二つの首元からは蒸気を伴ったエアが抜け、ブシュ!と音を立てて機体にのし掛かった衝撃が分散した。
ベデヘムが角を離す。
続けての攻撃の為に後退するエザンデッフに合わせ、巨大なロボットアームにタイヤが付いただけに見えるアームユニットが自走してエザンデッフに近寄る。
腰を落としたエザンデッフは、アームユニットの後方ハッチに腕を突っ込み、内部にあるシャフトグリップを掴んで持った。
アンバランスな大きさになった両拳を機体前面部でクロスしたのち構えを取ったエザンデッフは、巨大な右拳をひねって腰の脇に添える。
···フォッ!
巨大ロボットとは思えない軽やかなステップで踏み出したエザンデッフは、シンプルな正拳突きを打って腕でガードしているベデヘムに当てた。
「!」
ズドォッッッ!
体三つ分後ろへ弾き飛ばされるベデヘム。攻撃の余韻もそこそこ、向き合った二体は呼吸を整えるかのように構えとガードをゆっくりと解除していった。
〔ククク···礼をいうぞイサク···〕
エザンデッフは機体の右腕に合体しているアームユニット車両、ゴーケンに視線を下ろした。
〔お前の日々の錬磨の集大成は俺が貰ってやる。腕を生かせる事に感謝するんだな?!〕
すると突然、起動試験場の巨大な扉が開いた。
「機体は馴染んだか?ゴーザン?」
「「!」」
起動試験場の奥から姿を現したのは、頭の上に玉座を備え、腰を曲げた老人のように歩む椅子型運搬巨大ロボット、エギデガイジュⅡと、その玉座に足を組み腰掛ける白い鬼巨人のような怪物···アルオスゴロノ帝国皇帝、エグジガンだった。
エギデガイジュⅡが最後の一歩をギジョン!とわざとらしく轟音を立てて止まると、ベデヘムは片膝を突いてエグジガンの前で畏まった。
「ウェノラ!ウィトリル!」
ベデヘムの挨拶?に次いで、エザンデッフの腰部ハッチから椎山が姿を現した。
「ようこそ!陛下!」
エグジガンは黙ってエザンデッフを上から下まで眺め、視線を二本の首に戻すとやがて口を開いた。
「二本の首に一つの頭···相変わらず趣味が悪いな?」
「一つの体に二つの運命を持つ!我らが転生戦士の使命を体現した機体となっております!」
「フッ······」
その時、近場のスクリーンモニターが点灯し、アルオスゴロノ帝国のマークが映し出された。
〔陛下!今よろしいでしょうか?〕
スクリーンモニターのスピーカーから女性の声が響く。
「クイスランか···?なんだ?」
〔ギリュジェサの転生が判明しました!〕
「!」
ゴーザンの会話は中断され、更に一瞬の頭痛に苦しむ。ゴーザンは顔をしかめ、一度エグジガンから視線を外した。
「ほぉ···」
〔イナカシの元関連会社のニンゲンを叩きました所、彼らしき男がイナカシに度々コンタクトを取っていたとの証言を得ました〕
「なるほどな?いつからだ?」
〔それが···三年程前、と···〕
エグジガンは顎の先を摘まむように指先を当てる。そして視線を上に送りながら答えた。
「そうか、そのつもりか······ふぅむ······では泳がせろ!···泳がせて尻尾を掴むのだ!」
〔はっ!〕
「ところでクイスラン!エブブゲガはまだ見付からんのか?」
「そ!それがまだ···」
「では明かそう、一度···だ。一度この体の“扉„を何者かにノックされた。ヤツは何処かで動いているぞ?ヤツはこの体の所有者だ!僅かな兆候も見逃すな?協力は惜しまん!些細な事でも遠慮せずに言うがいい···」
〔ありがとうございます!では、至急に···〕
「·····」
スクリーンモニターはゆっくりと明るさを落とし、通信が終了した。
「ゴーザン?その体の者はまだお前に抗うか?」
「!ーー」
時折襲うゴーザンの頭痛を、エグジガンは見透かしていた。目上の者に欠点を指摘される事を異常に嫌うゴーザンは驚愕する。
「は······恐れながら!弁解などいたしません!」
「まぁ良い、ゆっくりと潰してゆくことだ······」
エギデガイジュⅡは踵を返し、元来た道を戻って行った。
「はッ!」
あなたこそ、エブブゲガの何を恐れる?
ゴーザンは、去って行くエグジガンに頭を下げながらも嫌悪をぶつけ思った。だが勿論、そんな事は言えなかった。
C県、鍋子市。
船着き場のコンクリートの上に大の字になって寝転ぶゲルナイドは、夏の青空が目に染みて瞳を閉じていた。
傍らには、赤いジャージを着た今朝とは別人の猫仮面少女が立って、プラメガホンを肩でポンポン叩いていた。
「そろそろ···」
薄目を開き、掠れかけた声で呟いたゲルナイドは、不自由な体にムチを打って立ち上がろうとした。だがそれと同時に頬に冷たいものが触れる。
「!」
ゲルナイドが早朝に出会った少女、谷泉 真弓子が、ゲルナイドの頬に炭酸飲料の缶を軽く押し当てていた。
「ヤッホ?月井度くん、こんなに暑いのにまだリハビリしてるの?熱中症になっちゃうよ?」
「いいんちょ···く!ぐ、···」
「あ!」
ほいよ!
ゲルナイドを起こす手伝いをするマユミコ委員長と猫仮面少女。しかしやはり、マユミコ委員長に猫仮面少女は見えていないようだ。
「もう!海に落っこっちゃうよ?」
困った顔で炭酸飲料を差し出したマユミコ委員長に、ゲルナイドは答えながら炭酸飲料の缶を受け取る。
「リハビリは···一日三回だ!」
真剣な眼差しで答えるゲルナイド。
体の芯はガタついていても、目標に向かって少しの時間さえ惜しみ自分を追い詰め狙いを定めるワイルドな金色の瞳孔が、優しげな口調と共にマユミコ委員長を貫いた。
「!」
「それに熱いのは委員長の手だ」
「え?」
マユミコ委員長が手を添えていたゲルナイドの肩。Tシャツ越しの感触から、そこには大きめサイズの絆創膏が貼ってあるようだ。
「あー!ごめんなさい!」
マユミコ委員長はパッと手を離した。
もう一本飲み物を買って来たマユミコ委員長は、ゲルナイドと並んで船着き場の岸壁に座った。
マユミコ委員長は、缶の蓋を開けて一口飲んだ。
「っは!あのね?須舞くんも“あれ„から“また„来なくなっちゃったんだ···」
カショ!!!
「!」
缶の蓋を開けるゲルナイドの仕草に苛立ちを見出だしたマユミコ委員長は思わずビクッとした。遠くのパトカーのサイレンが街を駆け抜けて行く。
「!、あ!ごめん!うまく力が入らなく···あ!、じゃないや!いただきます!委員長!」
「そ!そう?いやいや、どうぞ···」
···炭酸飲料を景気良く飲むゲルナイドの横顔に見とれそうになったマユミコ委員長は、あえて目線を反らして続ける。
「···氷の島事件のあと、何人か転校しちゃった。月井度くんは、大丈夫だったの?」
「?」
ゲルナイドは一度缶から口を離し、マユミコ委員長を不思議そうに見つめた。
「怪獣に食べられちゃったよね?」
「!」
···ゲルナイドは思い出した。帝国のスパイとして宇留の居る学園に潜入し、生徒として交流を持ちながら、任務中断と共に取り繕いを放棄し仲間···避難する生徒達の目の前でパフォーマンスをするように怪獣体に戻った日の事を。
「あ、あぁ··あれ···」
「月井度くんはあの後どうしたの?吐き戻されたりしたの?避難所は大変だったんだよ!ラーヤちゃんなんか、ショックで熱出しちゃうし!あの怪獣!今度出たらバカって言ってやる!」
マユミコ委員長は、何故か目の前のゲルナイドが悪いとばかりに言い放っているような気がする。現にゲルナイドのせいなのだが···
ゲルナイドは、既に自分の正体がマユミコ委員長にバレているのでは?と勘ぐる。
その時、目と目が合った。
胸に熱いものが沸いた仄かな衝撃で目を反らし合う二人。
結局、それをごまかすように話が盛り上がってしまう。
怪獣の少年は、人の形に許された初夏のマジックを体験していた。
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