上 下
20 / 37

20 その令嬢、彼を想う

しおりを挟む
「わ、私がアーサーと!?」
突然の提案に驚き、思わず立ち上がっってしまった。
アーサーと、私が、婚約だなんて。
「ははは、そんなに慌てるなミリアよ」
伯父が少々苦笑いを浮かべながら私を諫める。まあ掛けなさいと促され、ふう、と息を吐く。
落ち着いてミリア。落ち着きましょう。とりあえず伯父様の話を聞くのよ。
「ごめんなさい。なんだか、その、驚いちゃって」
「これはどうやら、詳しい話をせずとも決まりということで良さそうではあるな?」
「ちょ、ちょっと伯父様っ!」
「はははははっ! いや、からかうのも良くないな! 実は、この提案は大公からのものでな。ここ数年、隣国との小競り合いも増えてきた。我々のような決して大きくない領地間でも、より強い関係を作っていくべきではないか、と仰られたのだ」
「ええ」
私の住むサザントリアを中心としたこの領地と、その西に位置する伯父のランバート領は他国と面した地域がほとんどない。だから、他国との争いと言われても、正直言ってピンと来ない部分があるのだけど…。
「今後、国王がどういったこと考えているのか、それは我々領主でもわからん。が、やはりガゼルフライデ次期大公ロバート殿下が戦地に出ていることからも、大きな領地の者こそ戦地での結果が求められるのかもしれん。生憎、ワシも争いに関してはあまり経験がないし、こうして片田舎の領主として務めを果たすことこそ我が人生だという自負もある。が、お前たちの世代はそうも言ってはおられんのかもしれぬ」
「それは、確かにそうかもしれません」
「レギウス家としても手柄を重視しいずれはアーサーが戦地に向かうこともあろう。そういった中で、ワシは後継ぎもおらんしな。ミリア、お前の婚礼如何によって、ランバートの一族の扱いが大きく変わる可能性もある。そこで、今まで良好な関係であったレギウス家との婚姻を以て、より結びつきを強めるとともに、お互いの家がは繁栄できる道を築くための礎になるのではないか、とワシも思ってな。もちろん話はこれからではあるが、どうだミリア、受け入れてくれるか」
「…。お話はとてもよくわかるし、胸が高鳴っているのも本当よ、伯父様。でも、その…」
「…ふむ、エレナのことか」
「はい…」
「トーマスからも、二人の関係が良好だとは多少聞いてはいるがな。こういう言い方は悪いとは思うが、エレナは正式にはランバートの者ではなくなった。もちろん、今すぐにでも帰って来るなら思い切り抱きしめてやりたいとは思っておるよ。しかしその、まさに大公家との今後の関係という意味ではだな」
「…ええ、お姉様より、今の私の方が適任、よね」
「ふむ、まあ、運命の悪戯とでも言えば良いのかな。ワシとしては婚約破棄の件でもっと責め立てられるものかと思っていたが、こうして次の展開を提案されては、慌ただしくなる一方だ」
「ふふふ、ごめんなさい伯父様。姉妹揃ってお世話をかけちゃって」
「いやあ、良い。良いのだよミリア。トーマスの兄として、エステリアの古くからの友人として、二人の宝はワシにとってもかわいいに決まっている」
「ありがとう。…その、私は、前向きに考えてみたいと思うわ」
「おお、そうか! いやあ、ありがとうミリア。よし、そうと決まればレギウス家に正式に提案をさせてもらおう。エレナが戻った時には、ワシからしっかりと話をする。ミリア、其方は何も心配することはないぞ」
「はい…」

その後、私は伯父とともに父の寝室を訪ね、改めてエレナのこと、そして伯父の話を伝えた。
父は目を閉じ、私たちの言葉に耳を傾けた後、ゆっくりと答えてくれた。
「話はよくわかった。兄上、ミリア、エレナ、私がしっかりしなくてならない時に、迷惑をかけてすまない」
「そんなことを言うなトーマス。今後のことは逐一報告するからな、ワシに任せておけ」
伯父は気丈に振る舞っていたけれど、だんだんと弱っていく父を見て、やっぱり寂しそうだった。
だから…。
お姉様、ごめんなさい。私も、家族の役に立ちたい。
アーサーと、エレナ。私も含めて3人で過ごす時間が多かったけれど、それでも二人の気持ちは二人で補い合っていたように、私には見えていた。
でも、今なら、どうなのだろう?
私のこの想いが、アーサーの気持ちを補うことは…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】後悔は、役に立たない

仲村 嘉高
恋愛
妻を愛していたのに、一切通じていなかった男の後悔。 いわゆる、自業自得です(笑) ※シリアスに見せかけたコメディですので、サラリと読んでください ↑ コメディではなく、ダークコメディになってしまいました……

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...