8 / 9
第八話
しおりを挟む
「はあ、困ったな…」
リゲルがカインスから命令を受けて1週間が経った。
図書室の奥の隅、未整理だった資料を広げながらため息をつく。
「資料って言っても、何のためのものか判読できない通達書とか、よくわからない会報の切り抜きとか…ここから手がかり探せって言われても無理だよ…」
眉毛を八の字に曲げながら突っ伏し、頬を机に貼り付けると冷んやりと心地が良い。
ほんの少し冷めた脳を、リゲルは再び回転させる。
この図書室に来て以来、整理整頓は欠かさず行なってきたし、目立つ装丁のものはきちんと目を通してきた。その中で魔女と結界の話を目にした記憶はない。
(魔女か…聖女じゃなく。
癒しの力がどんなものかは、この国に来る前から何度も聞いた。実際にあの光景を目にするまでは半信半疑ではあったけどさ。ホントに治っちゃうんだもんなあ…それってどういう理屈?
…まあいいや、それより魔女さん。今までそんな人が国にいたっていうなら、聖女さんと同じくらい、いろんな逸話が残ってると思うんだけどな…。)
「だいたいこの資料って何のためのものなんだろ。もしかして本気でただの趣味とか暇つぶしの結果なんじゃ…王様に聞いてみたいけど、最近お姿を見かけないし」
いつの間にか言葉が口から出ていた。
ハッと気づき、口を閉じ、ついでに目も閉じて眉間に皺を寄せたあと、脱力。
肝心の情報は見つかっておらず、焦りが募るばかりだった。
そうしてだんだんと気が重くなってきた午後。
ガチャリと扉が開く音がして、リゲルは思わず身を縮めた。
きっとカインス様が催促にやってきたに違いない。
どうしよう、何も答えられない…このまま隠れていようか。
いやいや、それじゃ仕事を怠けているようじゃないか?
うう、ツラい…。
しかし次の瞬間聞こえてきたのはあの威圧的な声ではなかった。
「リゲルさん」
「そ、ソフィアさん!」
振り向くと、そこにいたのはソフィアだった。
脇に本を抱えてたたずんでいる。
「あぁー、良かったあぁぁ…」
その姿を確認して、リゲルはヘナヘナと座り込む。
「まあ、大丈夫ですか? どこか調子が悪いなら私が…」
心配そうな顔をするソフィアを制しながら、リゲルは苦笑いを浮かべつつ答える。
「ごめんなさい、カインス様が怒りに来たのかと思っちゃって」
「何かあったの?」
心配そうな表情を浮かべるソフィアの様子に、そうか何も聞いていないのかと気づき、ちょっと命令を受けてるだけですと適当に誤魔化した。
「そ、それよりソフィアさん、今日はどんなご用事で?」
「本をお返しに。リゲルさんに選んでもらった物語、とてもおもしろかったわ。だから、他のものも読みたいなと思ったの」
「物語ですね、任せてください! ここには読んでるだけでワクワクドキドキできる本がまだまだありますよ! 読み終えた次の日には早速出かけたくなるような冒険譚がたくさん!」
そういう依頼は大得意だ。物語集は率先して読破してきたのだから。
胸を張るリゲルの姿にソフィアはニコリと微笑んだ。
「素敵ね! 私はこのお城から出られないから、もっとたくさん本を読んでいろんな風景を知りたいわ」
「え? ソフィアさん、出られないんですか?」
「カインス様からそう言われているの。私はあの塔で過ごしているわ」
「そうだったんですか…」
そんなことしなくたってソフィアさんは逃げ出したりしないと思うけどな…。
言葉には出さずに、とりあえずオススメの物語集を取りに向かった。
ソフィアが塔に戻った後、再び未整理資料を広げるリゲルだったが、ソフィアの言葉が引っかかり、作業がなかなか進まない。
何も悪いことはしていないのだし、閉じ込めなくたって…。
「まったく、カインス様もちょっと横暴すぎるんじゃないかな!」
「私がどうしたと?」
「ひいっ!?」
冷や汗をどっと溢れるのを感じながら振り返ると、カインスが仏頂面で立っていた。
ああ、やってしまった…。
「か、カインス様、申し訳ありませんなかなか見つからず魔女が結界で」
リゲルはしどろもどろになり、言葉がうまく整理できない。
その様子を見たカインスは、特に表情や態度を変えることなく告げる。
「私は明日から5日間、隣国との会議に出席する。戻り次第、魔女に関する資料を提出するように」
「は、はいっ…!」
用件だけ言うとカインスはさっさと部屋を後にした。
ああ、締切が決まってしまった…リゲルの表情が一気に暗くなる。
と同時に、一つ閃いたことがあった。
「ソフィアさんを街に連れ出すチャンスじゃないか…?」
リゲルがカインスから命令を受けて1週間が経った。
図書室の奥の隅、未整理だった資料を広げながらため息をつく。
「資料って言っても、何のためのものか判読できない通達書とか、よくわからない会報の切り抜きとか…ここから手がかり探せって言われても無理だよ…」
眉毛を八の字に曲げながら突っ伏し、頬を机に貼り付けると冷んやりと心地が良い。
ほんの少し冷めた脳を、リゲルは再び回転させる。
この図書室に来て以来、整理整頓は欠かさず行なってきたし、目立つ装丁のものはきちんと目を通してきた。その中で魔女と結界の話を目にした記憶はない。
(魔女か…聖女じゃなく。
癒しの力がどんなものかは、この国に来る前から何度も聞いた。実際にあの光景を目にするまでは半信半疑ではあったけどさ。ホントに治っちゃうんだもんなあ…それってどういう理屈?
…まあいいや、それより魔女さん。今までそんな人が国にいたっていうなら、聖女さんと同じくらい、いろんな逸話が残ってると思うんだけどな…。)
「だいたいこの資料って何のためのものなんだろ。もしかして本気でただの趣味とか暇つぶしの結果なんじゃ…王様に聞いてみたいけど、最近お姿を見かけないし」
いつの間にか言葉が口から出ていた。
ハッと気づき、口を閉じ、ついでに目も閉じて眉間に皺を寄せたあと、脱力。
肝心の情報は見つかっておらず、焦りが募るばかりだった。
そうしてだんだんと気が重くなってきた午後。
ガチャリと扉が開く音がして、リゲルは思わず身を縮めた。
きっとカインス様が催促にやってきたに違いない。
どうしよう、何も答えられない…このまま隠れていようか。
いやいや、それじゃ仕事を怠けているようじゃないか?
うう、ツラい…。
しかし次の瞬間聞こえてきたのはあの威圧的な声ではなかった。
「リゲルさん」
「そ、ソフィアさん!」
振り向くと、そこにいたのはソフィアだった。
脇に本を抱えてたたずんでいる。
「あぁー、良かったあぁぁ…」
その姿を確認して、リゲルはヘナヘナと座り込む。
「まあ、大丈夫ですか? どこか調子が悪いなら私が…」
心配そうな顔をするソフィアを制しながら、リゲルは苦笑いを浮かべつつ答える。
「ごめんなさい、カインス様が怒りに来たのかと思っちゃって」
「何かあったの?」
心配そうな表情を浮かべるソフィアの様子に、そうか何も聞いていないのかと気づき、ちょっと命令を受けてるだけですと適当に誤魔化した。
「そ、それよりソフィアさん、今日はどんなご用事で?」
「本をお返しに。リゲルさんに選んでもらった物語、とてもおもしろかったわ。だから、他のものも読みたいなと思ったの」
「物語ですね、任せてください! ここには読んでるだけでワクワクドキドキできる本がまだまだありますよ! 読み終えた次の日には早速出かけたくなるような冒険譚がたくさん!」
そういう依頼は大得意だ。物語集は率先して読破してきたのだから。
胸を張るリゲルの姿にソフィアはニコリと微笑んだ。
「素敵ね! 私はこのお城から出られないから、もっとたくさん本を読んでいろんな風景を知りたいわ」
「え? ソフィアさん、出られないんですか?」
「カインス様からそう言われているの。私はあの塔で過ごしているわ」
「そうだったんですか…」
そんなことしなくたってソフィアさんは逃げ出したりしないと思うけどな…。
言葉には出さずに、とりあえずオススメの物語集を取りに向かった。
ソフィアが塔に戻った後、再び未整理資料を広げるリゲルだったが、ソフィアの言葉が引っかかり、作業がなかなか進まない。
何も悪いことはしていないのだし、閉じ込めなくたって…。
「まったく、カインス様もちょっと横暴すぎるんじゃないかな!」
「私がどうしたと?」
「ひいっ!?」
冷や汗をどっと溢れるのを感じながら振り返ると、カインスが仏頂面で立っていた。
ああ、やってしまった…。
「か、カインス様、申し訳ありませんなかなか見つからず魔女が結界で」
リゲルはしどろもどろになり、言葉がうまく整理できない。
その様子を見たカインスは、特に表情や態度を変えることなく告げる。
「私は明日から5日間、隣国との会議に出席する。戻り次第、魔女に関する資料を提出するように」
「は、はいっ…!」
用件だけ言うとカインスはさっさと部屋を後にした。
ああ、締切が決まってしまった…リゲルの表情が一気に暗くなる。
と同時に、一つ閃いたことがあった。
「ソフィアさんを街に連れ出すチャンスじゃないか…?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】魅了が解けたあと。
乙
恋愛
国を魔物から救った英雄。
元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。
その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。
あれから何十年___。
仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、
とうとう聖女が病で倒れてしまう。
そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。
彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。
それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・
※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。
______________________
少し回りくどいかも。
でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる