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Episode5

仕掛ける勇者

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 言うが早いかオレは剣を持つ手に力を込めた。そして魔力を乗せた突きを岩の壁に向かって思い切りよく食らわせる。岩壁はクッキーのように容易く砕けて地面へと瓦礫をまき散らした。

 そうしてできた岩陰を確認するとオレは一先ずは満足した。これなら少し石の破片を少し掃除すれば十分に潜伏できる。

(よし。ラスキャブとピオンスコはここの石を片付けてスペースを作ってくれ。オレはこここだけ崩れて不自然に見えるから、何カ所か岩を削っておく)
(オッケー!)

 オレは宣言通り周辺の岩壁に向かって先ほどと同じ要領で荒く試練の門周辺の窪地を削っていく。音が大きいのが難点だが、転機となればそれはそれでいい。とにかく今の『螺旋の大地』は変貌した事が多すぎて、情報不足が否めない。この際敵襲でもあった方が解決する要素もある気がしてならなかった。

 とりあえず十カ所ほど同じように岩壁を破砕する。そしてオレは魔族の姿を取り、二種類の魔法陣を岩陰に施した。

一つは発火の魔法陣。夜に点火をしてオレ達の拠点で火をつけても居場所をすぐに特定され難くするためだ。

 もう一つは爆発の魔法陣。万が一の事態に備えて陽動や攻撃に転じられるよう想定しておく。魔法陣は威力こそ小さいが詠唱や発動行動を取る必要がない事と、遠隔に予め設置しておけるという利点もある。

 何か起こってほしいが、手放しで危機が訪れてほしい訳ではないのだ。

 そんな事を思いながらオレはベースに戻った。すると丁度いいタイミングで二人の片付けも粗方が終わったところだった。

(何だかこの数日、料理や雑用ばかりですまないな)
(い、いえ。私はどちらかというとそちらを任せられる方が得意ですので)
(アタシはやっぱり狩りとか戦う方がいいけどなぁ)
(大丈夫だ。じきに戦う事しかしなくなるから安心しろ)
(そ、それは安心できるのでしょうか…?)

 オレの冗談にラスキャブが怯えた様な考えをしている。それがおかしくてつい笑ってしまった。するとラスキャブが片付けるために壁に立てかけていたであろう槍が目に留まった。

(そう言えばトスクルの靴が衝撃的過ぎてお前たち二人の武器の事を忘れていたな)

 シージライノのツノで作られた槍と短剣。見た目の切れ味は良さそうだが、更に何か隠し玉を持っているかのような雰囲気を醸し出してくる。戦士としての勘がさっさと武器の性能を試すべきだと訴えかけていた。

(よし。ベース造りはこんなものでいいだろうから周辺の探索に行こう。情報収集が主だが、もしも手ごろな魔獣がいたら二人の武器の試し切りもしておきたいところだな)
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