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Episode5

たじろぐ勇者

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 それから半日ほどして。オレ達は無事に試練の門の間近にまで辿り着くことができた。魔王の居城は山岳と見紛うほど巨大だ。ここまでの道のりも岩山を粗く削っただけの辛うじて道と呼べるようなものしかなかった。

 螺旋状の特殊な回廊が蛇のように巻き付いて上へ上へと続いている。これこそがこの地が『螺旋の大地』と呼ばれている所以だった。

 そして、この回廊の入り口たる試練の門をくぐるといよいよ後戻りができなくなる。

 オレの頭の中にかつての思い出が蘇る。あの時以上に緊張と覚悟を持つ場面は二度と訪れないだろう。一度くぐれば帰れないという、ただそれだけの事実が容易に死を連想させたからだ。

 中の様相や試練の内容を知っている今となってもこの道を通ると心臓の鼓動が早くなる思いだった。

 そうして黙々と歩いている内に門の見えるところまで差し掛かった。体感的には二、三カ月前、実際には八十年ぶりに門を拝むことになる。正面に見える岩を右に曲がればいよいよご対面だ。

 しかし。

 オレの想像したような対面は叶わなかった。

(どういう事だ…?)

難攻不落かつ魔法物理両方を以てしても絶対に破壊できないと言われた試練の門が粉々に打ち砕かれ、開けられた風穴からは冷たい風と虚無感を垂れ流していた。

 パーティのみんなはオレを除いてこの門を目の当たりにしたことがない。だから言葉を失うほどのショックを受けているのはオレだけだった。

 しかし、その様子から只ならぬことが起こっているとは全員が理解していた。

(主よ。これからどうする?)
(…少なくとも今日試練に挑むというのは考え直す。門からつかず離れずの場所にキャンプを張ろう)
(わかりました。寝具や食料はルージュさんに取り出してもらうとしても薪がありませんね)
(ど、どうしましょうか? この辺りは岩だらけで木どころか草もありませんよ?)
(なら俺とトスクルで一端、麓の森まで降りるか。大まかな場所とこの辺りの地理は登ってくる最中に確認した。一晩くらいの薪なら下から抱えて飛んで来れるだろ?)
(ですね。それが一番迅速かつ確実です)
(分かった。とりあえずはそうしよう。上に残るオレ達はベースを作りつつ、簡単に周囲の探索をする。どんな些細な痕跡でもいいから、何かを見つけたら教えてくれ)

 話がまとまるとアーコとトスクルは崖から飛び出して一気に下って行った。やはり機動力のある仲間がいるとできることの選択肢が桁違いに広がると改めて実感する。

 オレ達もオレ達で出来る事をしよう。

「ルージュ。キャンプに当たって簡単な壁を作りたい。剣に戻ってくれるか」
「心得た」

 ルージュを握りしめたオレはラスキャブとピオンスコに告げる。

「危ないから少し離れていろ」
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