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Episode4

危機悟る勇者

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「な、何だ!?」



 船体にトラブルが発生したという事は直観的に理解した。この船の特徴を鑑みれば、ルプギラ本体かそれの操作に問題が生じたと思うのは自然の流れだろう。その証拠に、オレ以外にも全員がアーコの方を見ていた。



 そのおかげで一連の異変がアーコのせいではないことが分かった。アーコの顔が自分のあずかり知らぬところで起きた事件だと語っていたからだ。



 こういう場合でこそ役に立つ姿がある。オレはすかざす狼の姿をへと変じた。



 途端に五感が鋭くなるのが肌で分かった。そうして研ぎ澄まされた感覚を頼ると、どんどんと意識が下へ下へと流れていく。船の下に…何かがいる。



「下だ! 船体の下に何かがいるぞ」



 そう直感で気が付いたオレは叫びながら部屋を飛び出すと、甲板に出る前に再び魔族の姿に変わった。こうなるとジェルデに正体を明かさずにいようとしているのが鬱陶しくなってしまう。が、今はそれよりも考えるべき事がある。



 舷から身を乗り出して下の様子を伺う。だがそこには至って平穏な湖の水面が揺蕩うばかりだった。だが依然として船は波の揺れとは違う揺れを残しており、異変が続いていることは間違いない。



 するとオレに遅れて部屋にいたみんなが部屋を出てきた。トマスはすぐにジェルデの元にオレの気がついた異変を報告しに向かった。



「アーコは?」



「残っている。あの装置はこの船の肝だ、離れるわけにはいくまい」



「確かにな」



 ルージュの言葉を聞いてからオレはラスキャブ達を見た。船室で驚いた表情は見せたものの、全員が落ち着きを取り戻していつ戦闘が起こっても対応できる面構えになっている。思えば三人そろってからのこいつらの快進撃は目を見張るものがある。やはり信頼のおける仲間の存在は個々の能力を高めてくれるらしい。



 そして、それはオレも同じことが言える。



 しかもオレには仲間以上ともいえるべき存在が、だ。



 オレがルージュに手を触れると、全てを悟り剣に戻ってくれた。それを握るとかっと血が熱くなり一つ上のレベルに上がった様な気がしてくる。それは決して魔法だとか、そういう陳腐なものが理由ではない。



「何かが船に攻撃を仕掛けていることだけは確かだ。まずはその正体を確かめるぞ」



「わ、わかりました」



「オッケー。任しといて」



「承知しました」



 オレが命令を出すと三人が三者三様の返事をしてくる。アーコの魔法のせいで体躯は大きくなっているが内面の幼さは残っているので改めてみると可笑しな感じだ。それはあの地下迷宮の時だって同じだったはずなのに、今になっておかしく思えるのは何故だろうか?
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