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Episode4
礼を言われる勇者
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ぐりぐりと頭に足を押し当てられていたのも束の間。トスクルが極めて冷静に言った。
「ザートレ様のことはさておき、そろそろジェルデ達を追いかけましょう。時間的に頃合いですし、長居してここで何があったのか手がかりを残したり、目撃者を増やす必要もないです」
「ああ、尤もだ。非難なら船の上で受ける」
「ふんっ」
アーコは面白くなさそうに足をどけた。オレは立ち上がるついでに魔族へと姿を変える。確かに譴責は当然だが、それ以上に収穫も大きい。今までは新しく組んだパーティとしての成長が第一の課題だった。
ルージュのおかげでちょっとした技や戦略に幅ができる程度で正直、試練の加護を賜るまではオレ自身にはもう大きい伸び代はないと思っていたからだ。
ところが今の一連の動きはオレに新しい戦闘のヴァリエーションを与えてくれた。剣一辺倒での戦い方しか知らなかったオレにとって、意のままに魔法を操る魔族の姿や、驚異的な身体能力と野性的な諜報能力を駆使できる狼の姿は言うまでもなく心躍らせてくれる。
しかもこの二つの姿に関しては未だ底が見えていないのがいい。これから時間をかけて精査して研ぎ澄ませていく。それがとても楽しみだ。
◆
急ぎ港に向かう道中は嘘のように平穏なものだった。尚、家屋の焼けるきな臭い匂いや煙や瓦礫は散見されるが、魔族の姿はどこにも見当たらない。やはり皆が逃げ出してしまったようだった。
港へたどり着くと、もう何度目かもわからぬ驚愕の顔つきで出迎えられた。大半の連中が今度こそオレ達は死んだだろうと思い込んでいたようだ。様子を見るにジェルデとトマスがオレ達の到着を信じて船の出航を遅延させてくれていたらしい。トスクルの進言通り急いできて正解だった。
ジェルデはオレ達の姿が目に入ると、破顔した。張りつめていた糸のうちの一本が切れたように肩だけ力が抜けるのが分かった。そして出迎えの挨拶代わりに、
「アンタみたいのを勇者っていうんだろうな」
と、図体に似合わない細々とした声で言ってきた。
「止してくれ。勇者って呼ばれ方は好きじゃないんだ」
「そうか…なら思うだけにしておこう。とにかく、ありがとう。ズィアルさん」
「礼もいらないさ。オレ達はたまたま利害が一致しただけだからな」
「それでも、見てくれ。死んだ目をして逃げ出すことしか頭になかった連中が息を吹き返した。本来なら儂がその役目を負わなにゃならんのに…」
何かを言いかけてジェルデはそれを止めた。代わりにもう一度、オレ達に向かって礼の一言を飛ばしてきたのだった。
「ザートレ様のことはさておき、そろそろジェルデ達を追いかけましょう。時間的に頃合いですし、長居してここで何があったのか手がかりを残したり、目撃者を増やす必要もないです」
「ああ、尤もだ。非難なら船の上で受ける」
「ふんっ」
アーコは面白くなさそうに足をどけた。オレは立ち上がるついでに魔族へと姿を変える。確かに譴責は当然だが、それ以上に収穫も大きい。今までは新しく組んだパーティとしての成長が第一の課題だった。
ルージュのおかげでちょっとした技や戦略に幅ができる程度で正直、試練の加護を賜るまではオレ自身にはもう大きい伸び代はないと思っていたからだ。
ところが今の一連の動きはオレに新しい戦闘のヴァリエーションを与えてくれた。剣一辺倒での戦い方しか知らなかったオレにとって、意のままに魔法を操る魔族の姿や、驚異的な身体能力と野性的な諜報能力を駆使できる狼の姿は言うまでもなく心躍らせてくれる。
しかもこの二つの姿に関しては未だ底が見えていないのがいい。これから時間をかけて精査して研ぎ澄ませていく。それがとても楽しみだ。
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急ぎ港に向かう道中は嘘のように平穏なものだった。尚、家屋の焼けるきな臭い匂いや煙や瓦礫は散見されるが、魔族の姿はどこにも見当たらない。やはり皆が逃げ出してしまったようだった。
港へたどり着くと、もう何度目かもわからぬ驚愕の顔つきで出迎えられた。大半の連中が今度こそオレ達は死んだだろうと思い込んでいたようだ。様子を見るにジェルデとトマスがオレ達の到着を信じて船の出航を遅延させてくれていたらしい。トスクルの進言通り急いできて正解だった。
ジェルデはオレ達の姿が目に入ると、破顔した。張りつめていた糸のうちの一本が切れたように肩だけ力が抜けるのが分かった。そして出迎えの挨拶代わりに、
「アンタみたいのを勇者っていうんだろうな」
と、図体に似合わない細々とした声で言ってきた。
「止してくれ。勇者って呼ばれ方は好きじゃないんだ」
「そうか…なら思うだけにしておこう。とにかく、ありがとう。ズィアルさん」
「礼もいらないさ。オレ達はたまたま利害が一致しただけだからな」
「それでも、見てくれ。死んだ目をして逃げ出すことしか頭になかった連中が息を吹き返した。本来なら儂がその役目を負わなにゃならんのに…」
何かを言いかけてジェルデはそれを止めた。代わりにもう一度、オレ達に向かって礼の一言を飛ばしてきたのだった。
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