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Episode4

提案する勇者

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「このパーティで初めての連携戦闘を試みよう」



「連携戦闘?」



「ああ。全員で力を合わせて敵を倒すという意味だ」



 そんな戦闘においては当たり前の事をオレがわざわざ明言したせいで、どういう意味かと小首を傾げた。



「オレ達が今までやってきたのは多数対多数の戦いがほとんどだ。だがこれから先は全員がまとまって一人の敵を相手する必要が出てくる。特に対峙する相手に実力が劣る場合は、ほぼ必須のスタイルになる。姿かたちはそっくりで、能力は下位互換と魔王と戦うためにはお誂え向きの相手だ」



「け、けど連携なんて、そんな簡単にできるものなんですか? 私は足手まといとかに…」



 ラスキャブの言う通り、言うは易く行うは難しきものの典型で一朝一夕にどうにかなる代物じゃない。かつてのパーティだって試行錯誤を繰り返して無駄や改良を重ねて形にしていったのだから。



「お前の言う通り簡単にできるものじゃない、普通ならな。だが、オレ達は普通じゃない」



 そう。オレ達は条件の段階から他とは一線を画している。



 連携戦闘の一番のネックはチームワーク。というよりも、課題はそれを除いて他にない。アイコンタクトやハンドサインを細かく決め、さらに個々の能力や戦闘スタイルから全員の行動を全員が予想しながら戦うというのは精神的な疲労も多く、あらゆる意味でタフにならないと長続きしない。



 しかし。



「オレ達は各人がテレパシーで繋がっている。本来必要な意思伝達の訓練を積む必要が皆無だ。それだけなら勿論足りないが、幸いにもお前たち三人はさっき見せた様な見事な連携ができているだろう。それにオレが合わさるだけでいい。ルージュは剣になっているし、アーコの器用さは誰もが知るところ。それだけで熟練したパーティ程とまでは行かなくても、かなりの戦いができるはずだ。後は実践あるのみという事だな」



「中々ハードな実践ですけどね」



「けどアタシ達が揃えば敵なしって事でしょ。やっちゃおうよ、偽魔王なんてさ」



「ああ。前哨戦にはもってこいの相手だ。奴を撃破してしまえば、魔族側の士気は確実に落ちる。その隙をついてルーノズアを脱出するぞ」



 オレはすぐさま作戦を頭の中に組み立てた。言葉で伝えると齟齬が生まれたり、言葉が足りずに誤解を与えたりし得る。特にオレは語彙力に自信がないせいで、かつてのパーティでは切れ者であるバトンが細くしてくれることがほとんどだった。



 けれども今は細かいニュアンスも含めてオレの頭の中のイメージを文字通り、そっくりそのまま全員に伝えることができる。これが殊の外、オレから精神的なストレスを取り除いてくれたのだった。
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