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Episode4
殲滅する勇者
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バコンッ!!
というけたたましい音と共に扉がこじ開けられた。それだけでも中の連中は何事かと思ったに違いない。その上、今しがた出て行った仲間が首をあらぬ方向へとへし折りながら疾走してきたのだから混乱は想像に難くない。事実、叫ぶか固まるかしか反応ができていなかった。
死体は机などの障害物をひっくり返して部屋の中央に押し進む。そちらに目を奪われているうちに大量のイナゴが蠢きながら壁を覆う。その内にイナゴに対しての悲鳴もこだました。
作戦は想定通りに事を運んでくれたようだ。
オレとルージュは混乱に乗じつつ、つかず離れずの距離で中の敵の首を落として悲鳴を消していく。ここにいたのは非戦闘員ばかりだったのは嬉しい誤算だ。戦闘は楽になるし、何よりこの部屋には何かしらの情報が詰まっている可能性が高いからだ。
その時。オレの嗅覚が一人の男を見定めた。
体格的に武器を持って戦うタイプの奴じゃないが、戦いを知っている匂い。しかもこれは魔術を得意とする奴の放つ独特の匂いだ。奴に攻撃を許してはいけない。
◆
…。
なんだ……こいつらは?
まさか反乱か? いやそれにしては人数が少ない。何よりも何故魔族が我々を襲ってくるのだ?
目的はなんだ? 囚人の解放か?
首謀者は誰だ?
どこから入り込んだ? なぜこの地下迷路の存在を知っている?
瞬く間にタークラプの頭の中に思考の波がうねり出す。しかし考えをまとめるよりも先に敵の刃が同胞たちを屠っていく。
猶予は残されていないという答えを導き出すのが精一杯だった。
優先すべきは牢への侵入の阻止。多くは望めない以上、こちらに取って一番の損害を回避しなければ…。
こうなっては最早、味方の安全は二の次でいい。敵の撃破を優先する。
そう結論付けたタークラプは牢へ続く扉を背にすると、魔力を練り始めた。ザートレが危険を感じ取ったほどの攻撃魔法で味方諸共に部屋ごと吹き飛ばす算段だった。
しかしその刹那。タークラプの背に鋭い痛みが走った。
それは振り返り自らに起こった事を確認する事すら許されないような、鋭く死に直結する毒の痛み。
タークラプは本能的に自分は死ぬのだと悟った。
これまで死を予感し、死を思うことは幾度もあった。きっと自分は素直に死を受け入れることなど出来はしないと思っていた。助かるのであれば無様でも生き汚く命に縋りつくだろうと思っていた。
仮にそうでなくとも後悔、未練、執着、失意の感情が混沌渦巻く中で死に飲み込まれるのだろうと自分で自分の事を決めつけて見ていたのだ。
けれども実際に今訪れた死の最中、タークラプの脳裏に最後に過ぎったのは誰かの微笑みだけだった。それが、とてもとても安らかで心地よい気持ちにしてくれた。
というけたたましい音と共に扉がこじ開けられた。それだけでも中の連中は何事かと思ったに違いない。その上、今しがた出て行った仲間が首をあらぬ方向へとへし折りながら疾走してきたのだから混乱は想像に難くない。事実、叫ぶか固まるかしか反応ができていなかった。
死体は机などの障害物をひっくり返して部屋の中央に押し進む。そちらに目を奪われているうちに大量のイナゴが蠢きながら壁を覆う。その内にイナゴに対しての悲鳴もこだました。
作戦は想定通りに事を運んでくれたようだ。
オレとルージュは混乱に乗じつつ、つかず離れずの距離で中の敵の首を落として悲鳴を消していく。ここにいたのは非戦闘員ばかりだったのは嬉しい誤算だ。戦闘は楽になるし、何よりこの部屋には何かしらの情報が詰まっている可能性が高いからだ。
その時。オレの嗅覚が一人の男を見定めた。
体格的に武器を持って戦うタイプの奴じゃないが、戦いを知っている匂い。しかもこれは魔術を得意とする奴の放つ独特の匂いだ。奴に攻撃を許してはいけない。
◆
…。
なんだ……こいつらは?
まさか反乱か? いやそれにしては人数が少ない。何よりも何故魔族が我々を襲ってくるのだ?
目的はなんだ? 囚人の解放か?
首謀者は誰だ?
どこから入り込んだ? なぜこの地下迷路の存在を知っている?
瞬く間にタークラプの頭の中に思考の波がうねり出す。しかし考えをまとめるよりも先に敵の刃が同胞たちを屠っていく。
猶予は残されていないという答えを導き出すのが精一杯だった。
優先すべきは牢への侵入の阻止。多くは望めない以上、こちらに取って一番の損害を回避しなければ…。
こうなっては最早、味方の安全は二の次でいい。敵の撃破を優先する。
そう結論付けたタークラプは牢へ続く扉を背にすると、魔力を練り始めた。ザートレが危険を感じ取ったほどの攻撃魔法で味方諸共に部屋ごと吹き飛ばす算段だった。
しかしその刹那。タークラプの背に鋭い痛みが走った。
それは振り返り自らに起こった事を確認する事すら許されないような、鋭く死に直結する毒の痛み。
タークラプは本能的に自分は死ぬのだと悟った。
これまで死を予感し、死を思うことは幾度もあった。きっと自分は素直に死を受け入れることなど出来はしないと思っていた。助かるのであれば無様でも生き汚く命に縋りつくだろうと思っていた。
仮にそうでなくとも後悔、未練、執着、失意の感情が混沌渦巻く中で死に飲み込まれるのだろうと自分で自分の事を決めつけて見ていたのだ。
けれども実際に今訪れた死の最中、タークラプの脳裏に最後に過ぎったのは誰かの微笑みだけだった。それが、とてもとても安らかで心地よい気持ちにしてくれた。
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