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Episode4

悟られる勇者

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「行き止まりか、助かったな」



 テレパシーを使うのも忘れ、俺はついつい心中を吐露してしまった。元々頭よりも身体を使う事の方が得意なのだ。迷路のような通路を徘徊し、敵の動向を探って水面下で動くのは体力的にも精神的にも負担が大きい。



 これ以上に分かれ道があったらどうしようかと不安になっていたところだ。部屋があるなら、引くか突入するかの二択だから幾分気が楽になった。もちろん、手放しで突撃などはしないが…



 中にいるのは十中八九、敵と見て間違いない。部屋から漏れ出ている喧騒と匂いとが、それを物言わずに語っている。だが具体的な人数、戦力、地形などは流石に分からない。さっきと違い、木製の扉から光が漏れているだけでアーコですら悟られずに侵入するのは難しいだろう。



 こういう場合は…。



(殲滅するしかあるまい)

(殲滅戦だな)

(殲滅でしょうね)



 ルージュ、アーコ、トスクルの三人が俺の言わんとしている事をいち早く悟り、答えを出してくれた。反対にラスキャブとピオンスコの二人は今一つピンと来ていないようで「殲滅?」と小首を傾げていた。



 オレは自分の考えを反芻する意味も込めて二人に説明を始めた。



 このルーノズアの地下迷路での進行や戦闘はおよそパーティが経験するダンジョンでの戦闘に非常に近い。塔や洞窟でこそないが、限られた空間や制限された通路、突然敵に遭遇する危険性などなど類似点は枚挙に暇がない。



 今回のケースは事前に魔物の巣や賊の溜まり場を発見した時の対応が必要と言えるだろう。



 このような場合、往々にして数で不利を迫られることがほとんどなので原則として戦闘を回避するために行動するのが常だが、どうしても戦わなければならない場合も当然ながら発生し得る。そう言う事態のセオリーも当然ながら存在している。



 肝心な要素は大きく分けて三つ。



 地の利を封じるための『隠密』。

 数の不利を消すための『奇襲』。

 増援周知を防ぐための『殲滅』。



 これらの条件を達成できるならばこの交戦は意義のあるモノになるし、その逆もまたしかりだ。



 正直言って、オレは隠密と奇襲について懸念は一切抱いていない。今の仲間たちを思えばそれこそ魔王レベルの奴がいでもしない限り戦闘で後れを取ることはないだろう。



ただ一つの憂いと言えば向こうの部屋の構造が分からないという点だ。



 逃走経路や連絡手段が潤沢にあるようなら、オレ達は悪戯に立場を不利にするだけになる。



 しかし、オレの思惑は全てが無に帰してしまった。不意に正面の扉が空き、中から一人の魔族が飛び出してきたからだ。
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