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Episode3
動く剣
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その頃。
連れ去られたルージュは布にくるまり視界を遮られつつも、冷静に状況を判断していた。男に担がれているため体が密着しているのは幸いだった。違和感なく触れられているので精神や記憶はおろか、現在の視野までもかすめ取ることができていた。
三人組の男達は部屋を出てから終始無言でいる。その体捌きや態度を見れば、わざわざ心の中を見通さなくても、相当の実力者であることはわかった。
しかし、ルージュは彼らの行動原理の根底に、恐怖心が渦巻いている事に気が付いていた。
その恐怖を与えているのは言うまでもなく、魔王とその傍らにいたソリダリティと名乗る女の記憶だ。
もう一つ、妙な事にもルージュは目敏く気が付いている。
彼らには最近の記憶しか残されていないという点だ。記憶の残留は残っているのに、全くの空洞になっている。これはいわゆる記憶喪失の状態だ。もっともあの二人の記憶が残っているという事は、不慮の要因で記憶を失ったというよりも故意的に記憶を弄られている可能性の方が高いのだが。
少し危険な賭けだったが、ルージュはその失われた記憶の中に一石を投じてみることにしたのだった。
大胆に魔力を発すれば気が付かれるし、悟られないように読み込むとなれば相応の集中力も必要になる。そこで不安を残しつつも、ルージュは一度その他一切の精神感応系の魔法を遮断した。魔力を蛇のように狡猾、かつ大胆に這わせて記憶の中を探る。
単純に思い出せないようにしている魔法ならよし、完全に奪い去られていたとしても断片は必ず残っているはず。そう信じてルージュは暗闇の中を手探りで探すように自分を担ぐ男の頭の中を見ていた。
やがて、ルージュはこの街で行われていた事に対する数多の予想と推測を確信へ変える記憶の断片を見つけることができた。
その瞬間、身体が一瞬宙に浮いた。自分を運んでいる男が体勢を崩し、片膝立ちになって何とか倒れるのを堪えたようだった。
「どうした?」
「いや…一瞬だけ頭痛が…それに、妙な景色が見えた気がした」
「なんだそりゃ」
「何でもない。すまなかった、さっさと仕事を終わらせちまおう」
ルージュは急いで記憶を覗くのを止めて、再び表層心理や五感の共有に徹することした。欲しい情報は得ることができた。これ以上は勘繰られる危険の方が大きいとの判断だ。
かと言って無抵抗に徹するつもりも更々なかった。
三人組の男は一定の距離を空けて進んでいたのだが、感覚はそれほど離れていなかった。そこで三人の体感的な感覚を操り、歩く速度を誤認させて遅らせて始めた。それが吉と出る凶と出るかは定かではなかったが、それでもザートレ達が追いかけてくるのなら合流した方が有利になることが多いだろうという判断だった。
連れ去られたルージュは布にくるまり視界を遮られつつも、冷静に状況を判断していた。男に担がれているため体が密着しているのは幸いだった。違和感なく触れられているので精神や記憶はおろか、現在の視野までもかすめ取ることができていた。
三人組の男達は部屋を出てから終始無言でいる。その体捌きや態度を見れば、わざわざ心の中を見通さなくても、相当の実力者であることはわかった。
しかし、ルージュは彼らの行動原理の根底に、恐怖心が渦巻いている事に気が付いていた。
その恐怖を与えているのは言うまでもなく、魔王とその傍らにいたソリダリティと名乗る女の記憶だ。
もう一つ、妙な事にもルージュは目敏く気が付いている。
彼らには最近の記憶しか残されていないという点だ。記憶の残留は残っているのに、全くの空洞になっている。これはいわゆる記憶喪失の状態だ。もっともあの二人の記憶が残っているという事は、不慮の要因で記憶を失ったというよりも故意的に記憶を弄られている可能性の方が高いのだが。
少し危険な賭けだったが、ルージュはその失われた記憶の中に一石を投じてみることにしたのだった。
大胆に魔力を発すれば気が付かれるし、悟られないように読み込むとなれば相応の集中力も必要になる。そこで不安を残しつつも、ルージュは一度その他一切の精神感応系の魔法を遮断した。魔力を蛇のように狡猾、かつ大胆に這わせて記憶の中を探る。
単純に思い出せないようにしている魔法ならよし、完全に奪い去られていたとしても断片は必ず残っているはず。そう信じてルージュは暗闇の中を手探りで探すように自分を担ぐ男の頭の中を見ていた。
やがて、ルージュはこの街で行われていた事に対する数多の予想と推測を確信へ変える記憶の断片を見つけることができた。
その瞬間、身体が一瞬宙に浮いた。自分を運んでいる男が体勢を崩し、片膝立ちになって何とか倒れるのを堪えたようだった。
「どうした?」
「いや…一瞬だけ頭痛が…それに、妙な景色が見えた気がした」
「なんだそりゃ」
「何でもない。すまなかった、さっさと仕事を終わらせちまおう」
ルージュは急いで記憶を覗くのを止めて、再び表層心理や五感の共有に徹することした。欲しい情報は得ることができた。これ以上は勘繰られる危険の方が大きいとの判断だ。
かと言って無抵抗に徹するつもりも更々なかった。
三人組の男は一定の距離を空けて進んでいたのだが、感覚はそれほど離れていなかった。そこで三人の体感的な感覚を操り、歩く速度を誤認させて遅らせて始めた。それが吉と出る凶と出るかは定かではなかったが、それでもザートレ達が追いかけてくるのなら合流した方が有利になることが多いだろうという判断だった。
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