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Episode3

願う勇者

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 オレ達が宿屋のある通りを歩いていると、運よくアーコ達と合流することが叶った。宿屋に戻るよりも先に話し合いがしたかったので、とてもありがたい。宿屋のすぐ裏手に広場があったのも、渡りに船という奴だった。



 まばらに行きかう者もおり、ベンチに腰を掛けて相談をしていたとしても怪しまれることはないだろう。むしろ宿屋のナハメウがこっそりと見てくれはしないかとさえ思っていた。その方が勝手な勘違いを誘えて、後々の話がうまく行きそうな気がしたからだ。



 アーコはドサリっ、と乱暴にベンチに腰掛けると横柄な物言いで尋ねてきた。



「で、何か進展はあったのか?」



「今はまだない。これから進展しそうな話のタネは、トスクルが見つけてくれたがな」



「あん? どういうこった?」



 オレは左手で鞘に納めているルージュに触れた。それだけで先ほどまとまった話の記憶をアーコ達に伝達してくれた。



「…なるほどね。一理ある、というか面白そうだからそうあってほしいまであるな」



「わ、私はあまりそうあってほしくないんですが…」



「けど、それが叶わなかったらこの街を出て別の港町を目指す必要が出てきます。ザートレ様はそれは避けたいとおっしゃっていますしね」



「ああ。時間は惜しいからな…それに、歩いている途中で思ったんだが、他の港町もひょっとしたら船舶を封じられているかも知れない」



 オレの言に、全員が首を傾げた。オレとしてもただの思い付きだから、根拠や深い意味合いなどはないのだが。



「何でだ? 他の港町に行くのは、最終的な手段の一つだろ」



「根拠はないが、五大湖港の内の二つが既に魔族の手によって壊滅的な被害を受けている。それも偶発的ではなく、明らかな意思の下にな。しかもトスクルの記憶によれば、それを統率しているのは魔王の可能性が高い。空論でしかないが、他の街にも何かしらの工作を講じていると考えるのはおかしいことじゃないだろ?」



「…それもそうですね」



 すると、一番トラブルを楽しんでいるアーコがニッと口角を上げた。



「なら、リスクヘッジのためにはいよいよ敵の策に嵌るしかなくなった訳だ。しかもより大ごとになることを祈ってな」



「楽しそうですね…」



 そんなアーコに対して意外にもトスクルが喝を入れるのかと思った。が、実際は違った。



「まあな。というかお前も随分と目が生き生きしてるぞ」



「そりゃそうでしょう。実際楽しそうですし」



「…意外と話が合いそうだな」



 などと、なまじ悪知恵の働きそうな二人が意気投合しようとしていた。ふと腰の鞘からは、陰気がオーラのようなものが滲み出てきていた。ルージュにしてみれば、扱いの難しい頭痛の種が増えた様なものなのかもしれない。



 いずれにしても、これから先はルージュとアーコの連携が肝となる。表面上は仲違いしている様な二人だが、どちらも仕事はきちんとこなす性格だ。後はまだ見えぬ真相が、オレ達の予想通りかつ、都合のいいものであってくれることを祈るしかあるまい。
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