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Episode2

逃亡する勇者

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 阿鼻叫喚の叫び声を背中で受けつつ、オレは店の奥へと入って行った。



 フェトネックの姿が変容している事、魔族を『囲む大地の者』に引き渡している理由、メカーヒーと取引をしている得体の知れない商品、フェトネックを除くかつてのパーティの所在、魔王の目的などなど、知りたい情報はごまんとある。その全てがここで判明するとは思っていないが、取りこぼしを許す訳にいかない。



 店の事務所らしきスペースには、留守を任された魔族が数人いた。当然、抵抗の色を見せてきたのだが、取るに足らないような奴らばかりだった。警戒したフェトネックが腕利きを軒並み連れ出してくれたので仕事が捗る。記憶を覗かせてもらわなければならないので、気絶させるだけで片付けると、手当たり次第に部屋の中を物色し始めた。



 事務所には店の帳簿の他、魔族を『囲む大地の者』に引き渡す際の契約書や台帳が保管されていた。ざっと見ただけでも数百件の斡旋があったらしい。その名簿を捲っていると、オレは一つの重大な発見をした。



 魔族を斡旋している場所はセムヘノに限らず、あちこちの街にあるらしい。



 そしてその中でも重要な拠点となっている街が、セムヘノを除いてあと三つほどあった。



 ケタメナ。



 プイタンリミ。



 レカーキカ。



 これらの街にもカルトーシュという名の店があり、そこで同じような事業を手掛けているという事が書類や挟まれていた手紙の内容で類推できた。



 そして、その三つの街はそれぞれオレのかつての仲間であった、レコット、シュローナ、バトンの出生地でもある。フェトネックが故郷のセムヘノに在を置き、怪しげな活動をしている事を鑑みると、他の連中もそれぞれ自分の生まれた街にいる可能性が高い。確証こそないが、偶然とは思えなかった。



 帳簿を戻して、再び捜索を始めたが結局それ以上の目ぼしい手掛かりは入手できなかった。オレは切り替えて、今度は事務所の脇にあった倉庫の方へと向かう。



 食料や酒類が大量に保管されていると、十日ほど護衛してきた木箱と奇遇にも再会を果たした。幸いにも封は解かれているので、無理矢理開ける手間が省けた。そうっと蓋を開けて中身を改める。



「これは・・・登録印か?」



 箱には魔族を使役するために着ける登録印が収められていた。それもただの登録印ではない。『十二の瞳』で勧められた最新鋭の魔法処理が施されたタイプのものだった。念のために置いてあった全ての箱を開けたが、やはり同じものが入っている。



「あれだけの金を積んで運ばせたんだ。ただの登録印ということはないだろう」



 そんな勘が働いた俺は、登録印を一つだけ盗み出し懐にしまった。後々調べればいいことだ、今は捜索に専念したかった。



 しかし、その登録印を見つけたのが最後、オレはこの店でそれ以上に価値のありそうな情報や物品などを見つけることは出来なかった。そうしている内に、ルージュがオレの事を呼びに来た。店にいた全員の記憶を読み取り、改竄し終えたという。



「店と宿との距離を考えれば、もう逃げ出さなくてはならないぞ」



「ああ、わかった」



 知りたい事の半分も割らなかったオレは痒い所に手が届どかぬまま、倉庫を後にしたのだった。



 ◇



 店のホールへと戻ると、魔族も『囲む大地の者』もほとんどが気を失って倒れ込んでいた。



 そんな中でフォルポス族の男と一人の魔族の女が震えながら、命乞いをしてきているのが目に入った。



「どうするつもりだ?」



「身代わりだよ。店が荒らされて、オレ達がいなくなったら確実に怪しまれるだろ」



 そう言うとアーコは変身術を施し、その二人の姿を無理から変えてしまった。後には術の余波で意識を失ったアーコそっくりの魔族と狼の姿が残るばかりだった。



「なるほど…しかし、」



「言いたい事は分かるよ。可哀相ってんだろ?」



「まあ、な」



「気にすんな。この店の中で一番下衆な二人を選んだからよ」



「え?」



「中々あくどいことやってたんだよ、この二人はな。だからバチが当たったようなもんさ。聞きたいか?」



「・・・ひとまずここを出てからだな」



 甘さも油断も捨てろ。オレは自分に言い聞かせた。何を仕出かしたのかは見当もつかないが、この店で豪遊をしている時点で高が知れている。それよりも、もしも手遅れになってフェトネックと鉢合わせでもしようものなら、そっちの方が多くの血が流れることになるだろう。



 オレ達は店を出る。



 些か不満や未練の残る情報収集だったが、当初の目的のオレと魔王の戦いの噂の真相は知ることができたのだ。



 ともすれば、もうセムヘノの街に用はない。今度は少しでも早くこの街を離れ、フェトネックにオレ達の追跡の手立てを残さぬようにするのが最優先だった。
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