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Episode2

説得する剣

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「ひゃあっ!」



 と、アーコの反応にラスキャブとピオンスコが悲鳴を上げて抱きつき合った。



「アーコ。何故、お前が驚く」



 私は不覚にもアーコの声で、ラスキャブ達のように悲鳴を上げそうになってしまったのを何とか堪え、それを誤魔化すように尋ねた。ついでに主が根本的な疑問をアーコに投げかける。



「そもそも、お前は何をしていたんだ?」



「ちょいと調べ物をね」



「だから、それは何だと主は尋ねているだろう」



「お前らもちょっとは気になっていただろ? 俺たちが必死に守ってきたあの積み荷の中身だよ」



 アーコはニヤニヤとした笑いを浮かべながら答えた。



 聞けば私達と別れた後、単独あの商館に忍び込んでメカーヒーとその取り巻きの動向を観察していたという。結局箱は一度も空けられることなく、また別の場所に移されることになった。しかし、その別の場所というのが・・・



「『カルトーシュ』って酒場だった。そんだけの話だよ」



「・・・」



 主と私は共に言葉を失った。



 三者三様にその日に見聞きしてきた事情が、次々に符合して一つになっていく。それは、まるで何かに仕組まれているかのようで、私は何となく気持ちが悪かった。偶然にしては出来過ぎている様な気がする。



 主はどう思っているのだろうか。



「なら、そのカルトーシュって店に出向けばいいって事だな」



「お? やる気だな、ザートレ」



 アーコは悪戯に主を囃し立て始めた。すかさず、私はそれを戒めた。



「そう単純に行く話ではないのではないか? 未知な要素が多すぎる」



「勿論、殴り込みに行くなんてことはしないさ。ただあちらこちらに気を配る必要がない、一点を見据えていればいいというのが、気が楽だってだけだよ」



 冷静にそんな事を言ったが、眼はギラギラと燃え盛っている。まだまだ気を抜く訳にはいかない。



「ならばまずは情報収集だ。周囲の者にカルトーシュという店の事を聞いてこよう」



「いや、それは止めておこう」



「何故だ?」



「ノウレッジだとかいう女はセムヘノの街ではかなり名が知られていると考えて間違いない。魔族嫌いの『煮えたぎる歌』の連中まで聞き及んでいるような奴だからな。カルトーシュについて調べている奴がいる、なんて事はすぐにでも耳に入るだろう」



「・・・ならば、どう考えているのだ?」



「んなもん、直接店に行くのが手っ取り早いだろうが」



「そうだな。色々と手はあるがアーコの言う通り、店に行ってみるのが一番確実かつ安全な情報収集になるだろう」



「決まりだな」



 主とアーコは同じような笑顔になった。だが私の目には焦りと好奇心の暴走にしか見えないでいた。



「逸る気持ちは分かるが、誰が出向く? 私達三人はノウレッジに顔を知られている上に、昼間に頑なな拒絶をしている。今更店に顔を出すのは不自然だ」



「俺とザートレでいいじゃねえかよ」



「アーコはともかく、主が行くのはまずいだろう。ノウレッジがフェトネック本人か、少なくとも繋がりのある者なのは確実だ」



「確かに、俺もそこをどうすべきかを悩んでいる」



 それから私は主の前に出て、進言した。



「ならば私とアーコに行かせてくれ」



「おいおい、今自分で自分が行くのは不自然だって言ったばかりだろ」



「変身して別の魔族を装う」



 すると主は、私の顔を見ている様でまるで眼中にない顔つきになって、一言呟いた。



「変身か・・・忘れてた」



「え?」



 主はすくっと立ち上がった。本当なら私よりも頭一つ分は身長が高いはずなのに、眼前にいる今の主の背丈は屈んでも私の方が高いくらいだ。



 そこにはフォルポス族の姿はなく、黒々とした毛並みの狼が一匹、足を揃えて座っていた。
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