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Episode1
興奮する勇者
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しばらくは鞘を握りしめたままのルージュだったが、深く息を吸いこんだ後、オレにもずいと鞘を差し出してきた。
「主よ。主も持ってみてくれ」
「・・・ああ」
恭しく鞘を渡してくるルージュに、オレは緊張感が高まった。
そして、いざそれを持ってみたオレは突如として奇妙な感覚に襲われ、ルージュがこの鞘を持ったまましばらく突っ立っていた理由を察した。例えるならば鉛の湯船に浸かっているとでもいうのだろうか。重々しく身動きが取りづらい。急にそんな状態になったものだから「うぐっ」と妙な声を出してしまう。
この感覚に近いものを二回ほど味わったことがある。
一つは魔王の城の奈落の底。今わの際にルージュに頭の中を見られたとき。
一つはアーコに記憶を覗かれたとき。
とどのつまり、精神魔法を無理矢理掛けられている時の感覚とよく似ている。だが、似て非なるものだということはすぐに把握した。今は記憶を覗かれるどころか、むしろ強制的にいくつかのヴィジョンを見せられていた。
数名の剣士や戦士たちの戦う映像がどんどんと流れ込んでくる。そして、そのいずれの者たちは持っている剣は違えど、同じ鞘を携えているのだ。
オレは正気を取り戻し、立ちくらみを堪えながらルージュに問うた。
「これは・・・?」
「今見せられたのは、鞘の記憶だろうな」
「やはりか」
見た目だけで相当な年代物という事は分かっていたが、それにも増して色々な事情を抱えていそうな代物だ。その時ピンと一つの発想が浮かんだ。
「もしかして、この鞘はお前と同じように顕現できるのか?」
「いや、そうなる可能性はあるかも知れないが、現段階では無理だろうな。少なく見積もってもあと百五十年は要すると見た」
「そ、そうか」
軽く言ってのけるが、流石にその頃にはオレは死んでいるだろう。また何かを間違いでまた八十年でも時間が飛びでもしないかぎりは。
「それで、どうする? 言うまでもないことだが、私はこの鞘がとても気に入ったぞ」
「オレだって異論はない。剣と鞘は釣り合ってしかるべきだ」
「代金は気持ちでいいと書いてあるが…?」
「流石に二束三文で買うのは気が引けるが、余裕がある訳じゃないしな…だが、ここで誠意を見せないのは他でもない、その鞘に申し訳ない」
そう言ってオレは財布の中身を全て取り出して、一枚の金貨といくつかの銀貨銅貨を積むように置いた。ようするに有り金を全部差し出した。
少々呆気に取られていたルージュに向かってオレは言う。
「メカーヒーからもらった前金も残っている。これくらいの出費はどうってことないさ」
ルージュは笑う。
「律儀なことだ・・・やはり私は狼の主よりも今の主の方が好きだ」
「剣に好かれるのは戦士冥利に尽きるよ」
オレはルージュと出会った時のような高揚感を再び持っていた。さっきの鞘が見せてくれた光景に出てきた戦士たちの戦いを見て疼いてしまったのだ。
頭の中には駆け出しの頃に思い描いた絵空事のような「技」の数々がフラッシュバックしている。
あの頃は発想力だけで、とても実戦に耐えうるような技でなかったかもしれないが、今のオレはそれの荒を削るための知識と多少の無理を通せるだけの経験、鞘が見せてくれた戦士たちの闘いの中から得た着想、そして何よりも戦意に満ち満ちた生ける剣が手中にある。
本当の実力を封印されているとはいえ、型さえ作ってしまえば分相応な技として昇華できるはずだ。
すぐにでも鞘を携え、剣を振るいたい。
今はその衝動を抑えることが精一杯だった。
「主よ。主も持ってみてくれ」
「・・・ああ」
恭しく鞘を渡してくるルージュに、オレは緊張感が高まった。
そして、いざそれを持ってみたオレは突如として奇妙な感覚に襲われ、ルージュがこの鞘を持ったまましばらく突っ立っていた理由を察した。例えるならば鉛の湯船に浸かっているとでもいうのだろうか。重々しく身動きが取りづらい。急にそんな状態になったものだから「うぐっ」と妙な声を出してしまう。
この感覚に近いものを二回ほど味わったことがある。
一つは魔王の城の奈落の底。今わの際にルージュに頭の中を見られたとき。
一つはアーコに記憶を覗かれたとき。
とどのつまり、精神魔法を無理矢理掛けられている時の感覚とよく似ている。だが、似て非なるものだということはすぐに把握した。今は記憶を覗かれるどころか、むしろ強制的にいくつかのヴィジョンを見せられていた。
数名の剣士や戦士たちの戦う映像がどんどんと流れ込んでくる。そして、そのいずれの者たちは持っている剣は違えど、同じ鞘を携えているのだ。
オレは正気を取り戻し、立ちくらみを堪えながらルージュに問うた。
「これは・・・?」
「今見せられたのは、鞘の記憶だろうな」
「やはりか」
見た目だけで相当な年代物という事は分かっていたが、それにも増して色々な事情を抱えていそうな代物だ。その時ピンと一つの発想が浮かんだ。
「もしかして、この鞘はお前と同じように顕現できるのか?」
「いや、そうなる可能性はあるかも知れないが、現段階では無理だろうな。少なく見積もってもあと百五十年は要すると見た」
「そ、そうか」
軽く言ってのけるが、流石にその頃にはオレは死んでいるだろう。また何かを間違いでまた八十年でも時間が飛びでもしないかぎりは。
「それで、どうする? 言うまでもないことだが、私はこの鞘がとても気に入ったぞ」
「オレだって異論はない。剣と鞘は釣り合ってしかるべきだ」
「代金は気持ちでいいと書いてあるが…?」
「流石に二束三文で買うのは気が引けるが、余裕がある訳じゃないしな…だが、ここで誠意を見せないのは他でもない、その鞘に申し訳ない」
そう言ってオレは財布の中身を全て取り出して、一枚の金貨といくつかの銀貨銅貨を積むように置いた。ようするに有り金を全部差し出した。
少々呆気に取られていたルージュに向かってオレは言う。
「メカーヒーからもらった前金も残っている。これくらいの出費はどうってことないさ」
ルージュは笑う。
「律儀なことだ・・・やはり私は狼の主よりも今の主の方が好きだ」
「剣に好かれるのは戦士冥利に尽きるよ」
オレはルージュと出会った時のような高揚感を再び持っていた。さっきの鞘が見せてくれた光景に出てきた戦士たちの戦いを見て疼いてしまったのだ。
頭の中には駆け出しの頃に思い描いた絵空事のような「技」の数々がフラッシュバックしている。
あの頃は発想力だけで、とても実戦に耐えうるような技でなかったかもしれないが、今のオレはそれの荒を削るための知識と多少の無理を通せるだけの経験、鞘が見せてくれた戦士たちの闘いの中から得た着想、そして何よりも戦意に満ち満ちた生ける剣が手中にある。
本当の実力を封印されているとはいえ、型さえ作ってしまえば分相応な技として昇華できるはずだ。
すぐにでも鞘を携え、剣を振るいたい。
今はその衝動を抑えることが精一杯だった。
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