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Episode1
疑う勇者
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それはワニの頭を持つ、ビーロス族の男だった。それだけであれば何事もなかったのだが、オレは警戒心を強めた。相手も魔族を連れて歩いてきていたからだ。
「よう。旅の人かい?」
「・・・」
「っけ。死ぬまでに一度でいいから、愛想のいいフォルポス族って奴を見てみたいね」
男はそんな憎まれ口を聞いてきた。
オレの警戒心は伝わっていたようで、ルージュはきっと男と魔族を見ていたし、ラスキャブはルージュの後ろに隠れつつも、油断はしていない様子だった。
「中々の上玉を連れているな。どこで拾ったんだ?」
「・・・魔族を使役しているっていうのに、驚かないんだな」
商人や旅人だったなら、普通は驚いたり警戒したりするはず。
戦闘になっても構わない自信があるのだろうか? だが、戦いが得意そうな佇まいではない。
オレがそんな事を考えていると鼻で笑われてしまった。
「っは。魔族連れが流行りの時世だぜ? 魔族を二匹、使役してくるくらいで何を驚くってんだ?」
「魔族連れが流行り?」
どういうことだ?
「ああ。ったく、どんな田舎から出てくればそんな間抜けな質問できるんだよ」
先ほどからオレを貶す発言が出る度に、振り返らずともルージュの怒気が大きくなっていくのが分かる。わざとルージュの視線を遮るように立ってそれをなだめる。
「そこの森を抜けて、初めて町まで来たんだ。魔族連れはオレの村では恐れられていたが、あの町では違うのか?」
「あの町どころか、この世界どこ行ったって同じだよ。むしろ魔族連れでないパーティの方が珍しがられる」
「・・・そうなのか」
頭では理解できたが、納得ができていない。
この辺りでは一番大きい町だといっても、田舎の町だ。魔王城近くのように、魔族を使役することが一般化するなんて考えにくい。
一体何が起こっている?
「ところであんた、森を抜けてきたと言ったな?」
「ああ」
「いくら田舎者でもクローグレくらいは知っているだろ? 嘘かホントか、そのクローグレが森に出るって噂があってな。町じゃ迂回して通るよう言われている」
「そうなのか? そんな怪物、影も形も見えなかったが」
咄嗟に嘘をついた。事は荒立てない方がいいと判断したからだ。クローグレが出る原因たるラスキャブはもうあの森には居ない。そんな噂もじきにおさまっていくことだろう。
「噂じゃ続きがあってな。クローグレを操る魔族の女がいたって話なのさ。もしそうなら、召喚士の可能性もあるだろ?」
男の言葉にラスキャブが反応した。ルージュの服をぎゅっと掴んでいる。
「そいつがいたとして、どうするんだ?」
「捕まえるさ。召喚士の魔族なんて高値で売れること間違いなしだし、もし従順そうなら傍において護衛にしてやってもいい。それにあの森を通れるようにしてやれば、ギルドから報酬も出るしな。いいことづくめって訳だ」
「・・・そうか。信じられないが、魔族連れが忌避されないという話は聞けて良かった。どうやって人目を掻い潜ろうかと思案してたところでな。オレ達は町へ行く。あんたも気を付けてな」
そう言って男と別れた。からかわれているのか否か、早く町へ行って確かめたかった。
しかし。
物事は上手く進んではくれない。
男はすれ違いざまに、目敏くこう言った。
「ところで、そこの嬢ちゃんが身に着けているのは、クローグレの毛皮じゃないのかい?」
「よう。旅の人かい?」
「・・・」
「っけ。死ぬまでに一度でいいから、愛想のいいフォルポス族って奴を見てみたいね」
男はそんな憎まれ口を聞いてきた。
オレの警戒心は伝わっていたようで、ルージュはきっと男と魔族を見ていたし、ラスキャブはルージュの後ろに隠れつつも、油断はしていない様子だった。
「中々の上玉を連れているな。どこで拾ったんだ?」
「・・・魔族を使役しているっていうのに、驚かないんだな」
商人や旅人だったなら、普通は驚いたり警戒したりするはず。
戦闘になっても構わない自信があるのだろうか? だが、戦いが得意そうな佇まいではない。
オレがそんな事を考えていると鼻で笑われてしまった。
「っは。魔族連れが流行りの時世だぜ? 魔族を二匹、使役してくるくらいで何を驚くってんだ?」
「魔族連れが流行り?」
どういうことだ?
「ああ。ったく、どんな田舎から出てくればそんな間抜けな質問できるんだよ」
先ほどからオレを貶す発言が出る度に、振り返らずともルージュの怒気が大きくなっていくのが分かる。わざとルージュの視線を遮るように立ってそれをなだめる。
「そこの森を抜けて、初めて町まで来たんだ。魔族連れはオレの村では恐れられていたが、あの町では違うのか?」
「あの町どころか、この世界どこ行ったって同じだよ。むしろ魔族連れでないパーティの方が珍しがられる」
「・・・そうなのか」
頭では理解できたが、納得ができていない。
この辺りでは一番大きい町だといっても、田舎の町だ。魔王城近くのように、魔族を使役することが一般化するなんて考えにくい。
一体何が起こっている?
「ところであんた、森を抜けてきたと言ったな?」
「ああ」
「いくら田舎者でもクローグレくらいは知っているだろ? 嘘かホントか、そのクローグレが森に出るって噂があってな。町じゃ迂回して通るよう言われている」
「そうなのか? そんな怪物、影も形も見えなかったが」
咄嗟に嘘をついた。事は荒立てない方がいいと判断したからだ。クローグレが出る原因たるラスキャブはもうあの森には居ない。そんな噂もじきにおさまっていくことだろう。
「噂じゃ続きがあってな。クローグレを操る魔族の女がいたって話なのさ。もしそうなら、召喚士の可能性もあるだろ?」
男の言葉にラスキャブが反応した。ルージュの服をぎゅっと掴んでいる。
「そいつがいたとして、どうするんだ?」
「捕まえるさ。召喚士の魔族なんて高値で売れること間違いなしだし、もし従順そうなら傍において護衛にしてやってもいい。それにあの森を通れるようにしてやれば、ギルドから報酬も出るしな。いいことづくめって訳だ」
「・・・そうか。信じられないが、魔族連れが忌避されないという話は聞けて良かった。どうやって人目を掻い潜ろうかと思案してたところでな。オレ達は町へ行く。あんたも気を付けてな」
そう言って男と別れた。からかわれているのか否か、早く町へ行って確かめたかった。
しかし。
物事は上手く進んではくれない。
男はすれ違いざまに、目敏くこう言った。
「ところで、そこの嬢ちゃんが身に着けているのは、クローグレの毛皮じゃないのかい?」
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