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Episode1
恋する勇者
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ルージュと名乗ったその女は筒をオレの口へと宛がった。中に入っていた水はほのかに甘く、重かった体も徐々に軽くなっていくのが分かった。喉の渇きは無くなり、ようやくまともに喋ることができる。とはいえ、オレの頭の中は未だに混乱していた。
「悪いが、色々と情報が多すぎてついていけない。記憶もごちゃごちゃしていてな・・・だがあの奈落での事なら覚えているし、傷はないが痛みも残っている。アンタが助けてくれたって言うんなら、一先ず礼は言わせてくれ」
「ふふふ。怒りで染まっている頭で、まず礼を言うという精神は素直で良いことだ」
怒りで染まっていると何故わかった?
顔に出ていたか?
いや、違う。さっきもこの女はオレの魂から記憶を読み取ったと言った。他人の思考を読み取るクリーチャーや魔導士は少なからずいる。こいつもその類の能力を持っているのか。
そんな事を頭で考えた矢先、女はニヤリと笑って答えた。
「その通りだ。尤もこうして触れていなければならないのだがな」
オレは慌てて女の手を振り払った。すると女はつまらなそうに立ち上がり、再び窪地へと降りて行く。そして踵を返すと、再び切り裂かんばかりの鋭い眼光をこちらに向けてきた。
「さて、話を戻す。私はお前に提案をしたい」
「提案?」
「ああ。お前は再び生を受けた。身体の調子が戻り、支度を済ませばまた魔王討伐の為にあの城へ向かうだろう? 少なくともお前を裏切ったあのパーティを放ってはおけないだろうからな」
「また心を読んだのか?」
「そういう奴だという事くらい馬鹿でも分かる。それを踏まえての提案というのは―――剣としての私を使ってもらいたい」
「・・・あ?」
剣と言う言葉に反応して、つい腰に手が伸びる。そこには鞘だけが空しく空洞をさらしていた。思えばオレの剣はあの奈落でへし折られてしまったのだ。
あの甘い水を飲んだせいか、身体の怠さは殆ど取れていた。立ち上がると右の腿につけていた予備の短剣が鳴った。オレはそのまま女の方へと近づいていきながら頭を整理してみた。
「魔王が使っていた剣の化身言っていたが、今のその姿は仮初って事なのか?」
「勿論だ。少し待て、元の姿を見せる」
途端に女は青黒い光と足元から伸びてきた影のようなものに螺旋状に包まれた。それが晴れると、地面に一降りの剣がささっていた。
未だかつて見た事がない形をしている。柄や覆いや鍔は異国風の装飾と言えば片付けられるが、刀身が異彩を放ち過ぎだった。一見、太いブレードに思えるがよく見ると中央が開いており、刀身が二つあると知れる。樋が入るはずの部分がそっくりそのまま抜け落ちてしまっているのだ。
不覚にも剣の魅力に捕らわれてしまった。女としての姿よりも、剣の姿に目と心を奪われてしまうのは、フォルポスの男としては褒められるべきだろうか。花の香りに誘われた虫のように、オレの手はいつの間にか剣に向かっていた。
しっかりと握りしめ、それを引き抜く。
かつてあの魔王が握っていた剣を持つというのは甚だしく不愉快にも思ったが、それを上回るほど手から伝わってくる感覚が蠱惑的だった。オレはフォルポス族に伝わる古い諺を思い出す。父も祖父も酔った時には決まって口ずさんでいた。
『女に恋をするのは、剣に恋したことがないからだ』
そして母は、それを聞くといつも口をとがらせていたっけ。
「悪いが、色々と情報が多すぎてついていけない。記憶もごちゃごちゃしていてな・・・だがあの奈落での事なら覚えているし、傷はないが痛みも残っている。アンタが助けてくれたって言うんなら、一先ず礼は言わせてくれ」
「ふふふ。怒りで染まっている頭で、まず礼を言うという精神は素直で良いことだ」
怒りで染まっていると何故わかった?
顔に出ていたか?
いや、違う。さっきもこの女はオレの魂から記憶を読み取ったと言った。他人の思考を読み取るクリーチャーや魔導士は少なからずいる。こいつもその類の能力を持っているのか。
そんな事を頭で考えた矢先、女はニヤリと笑って答えた。
「その通りだ。尤もこうして触れていなければならないのだがな」
オレは慌てて女の手を振り払った。すると女はつまらなそうに立ち上がり、再び窪地へと降りて行く。そして踵を返すと、再び切り裂かんばかりの鋭い眼光をこちらに向けてきた。
「さて、話を戻す。私はお前に提案をしたい」
「提案?」
「ああ。お前は再び生を受けた。身体の調子が戻り、支度を済ませばまた魔王討伐の為にあの城へ向かうだろう? 少なくともお前を裏切ったあのパーティを放ってはおけないだろうからな」
「また心を読んだのか?」
「そういう奴だという事くらい馬鹿でも分かる。それを踏まえての提案というのは―――剣としての私を使ってもらいたい」
「・・・あ?」
剣と言う言葉に反応して、つい腰に手が伸びる。そこには鞘だけが空しく空洞をさらしていた。思えばオレの剣はあの奈落でへし折られてしまったのだ。
あの甘い水を飲んだせいか、身体の怠さは殆ど取れていた。立ち上がると右の腿につけていた予備の短剣が鳴った。オレはそのまま女の方へと近づいていきながら頭を整理してみた。
「魔王が使っていた剣の化身言っていたが、今のその姿は仮初って事なのか?」
「勿論だ。少し待て、元の姿を見せる」
途端に女は青黒い光と足元から伸びてきた影のようなものに螺旋状に包まれた。それが晴れると、地面に一降りの剣がささっていた。
未だかつて見た事がない形をしている。柄や覆いや鍔は異国風の装飾と言えば片付けられるが、刀身が異彩を放ち過ぎだった。一見、太いブレードに思えるがよく見ると中央が開いており、刀身が二つあると知れる。樋が入るはずの部分がそっくりそのまま抜け落ちてしまっているのだ。
不覚にも剣の魅力に捕らわれてしまった。女としての姿よりも、剣の姿に目と心を奪われてしまうのは、フォルポスの男としては褒められるべきだろうか。花の香りに誘われた虫のように、オレの手はいつの間にか剣に向かっていた。
しっかりと握りしめ、それを引き抜く。
かつてあの魔王が握っていた剣を持つというのは甚だしく不愉快にも思ったが、それを上回るほど手から伝わってくる感覚が蠱惑的だった。オレはフォルポス族に伝わる古い諺を思い出す。父も祖父も酔った時には決まって口ずさんでいた。
『女に恋をするのは、剣に恋したことがないからだ』
そして母は、それを聞くといつも口をとがらせていたっけ。
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